◆色鉛筆色のケーキ

『彼』が秋口に買っていたスケッチブックと色鉛筆。

スケッチブックの余白は日を追う毎に少なくなり、
背高のっぽだった色鉛筆はもう半分以下に縮んでいる。


真白の紙を埋めるのは色とりどりのラフ。
大小様々なそれは全て、聖夜のモチーフが随所に踊るケーキ。
色鉛筆色の、優しい色の。

ラフの隙間を、更に正方形の付箋メモが所狭しと占拠する。
行書寸前の日本語と異国の単語が書き付けられ、
中には何かの分量を意味するのだろう箇条書きだけで埋まったものも。


聖夜まであと少し。
この中の幾つかはきっと、絵から抜け出していくのだろう。
本物のケーキとなって、誰かを笑顔にする為に。

絵と同じように、『彼』の手に拠りて。

◆旅立ちの朝、始まりの日

空はまだ暗く、光る星と白い月明かりが綺麗。

頭上から降る、橙色の混じった照明の光。

冷たいというより痛いに近い、冬の空気。


電車を待つ客は殆どいない。

何せ正月三が日が昨日終わったばかり。
そうでなくても、始発に乗り込む乗客は余りいない駅だから。

足元のドラムバッグと、僕自身の真っ白な息と一緒に、
僕はホームで電車を待っている。

◆銀誓館学園 編入申請書

机の上。
レシピバインダーと教科書が混在する本棚の端に、大きな封筒。

中には、突然送られて来た、ある学術機関からの入学書類。
パンフレットの中表紙には、『彼』の申請書の写しが、今も大事に挟んである。

提出日は師走の暮れ。
そして受理日は翌年の、最初の日。