◆真夏夜に舞えGhost Dance!! -5-

――2009.08.03　　　NIIGATA

「……あー、本当に４組の人達が許してくれて良かったよー」
「講堂の改造とか音楽選定とかパーティーの肝の部分担当だったからな４組……」
「もうあの御バカ様絶対突っ込ませるなよ、絶対だからな！」

学院付属中３年２組。
パーティーの飲食諸々を担当するこの組も例に漏れず教室には多数の生徒の姿。
ダンスパーティーのお陰で夏休み返上だが一貫教育の学府ならそう影響も無いだろう。
……中には思い切り影響を被った人間もいるが。


「……ホントな、はーちゃんが表面的にキレてなくてよかったよ」

影響ダダ被りの人間、市川一真はぽそりと呟いた。
口ではああ言ってたが絶対復讐に走るのは明白だ。
というか４組自体、彼女の行動を全力で後押ししてる節がある。
メイクや衣装に明るい面子と相談しているのを目撃しているだけに。

「なー市川、結局４組の掛葉木ってパーティー出るの？」
「御バカ様が暴れやがって下さったせいでな」
「……なる。あの女勇者を敵に回すとか本当に何様かね御バカ様は」
「彼女が男に生まれてたら俺等絶対勝ち目無かったぜ、色々」
「既に勝ち目無いじゃねーか……ああ、悪ガキの頃彼女にシメラレタ思い出が」
「女勇者の由縁か」

……そういえばそんな事もあったなと一真も思った。
悪戯イジメを毎日のように繰り返していた他小の悪ガキ軍団を一人でシメてみせる等、
御嬢様の外見とはかけ離れた武勇伝を多数生み出した悪友である。

「こんにちは。あの、市川さん来られてますか？」

そんな声と共に後ろのドア影からひょこりと現れた二つお下げ。
途端に周辺の男子が黙った。ぴたりと。
……居づらくなったからとりあえず外に出ようと一真は立ち上がろうとして。

――ガチャリ。

ウォレットチェーンが机のパイプの隙間に引っ掛かってしまった。
しかもすぐ傍にはマウの姿。
目が合うと、にぃ、と首を傾げてみせる。……自分凄い頑張ったよ的表情で！
……おい、まさか。

（「てめ何しやがんだマウ！　悪戯も程々にしろよこんな時かよ！！」）

何とか引っ張ったり捻ったりするものの鎖の取れる気配が無い。

「どーした市川？　……うわ、ガッチリ嵌まってんじゃんコレ」
「鎖切らなきゃダメじゃね？」
「いやこれなら机バラす方が早いぜ、螺子止めの部分だし」
「ドライバーなら１組か４組が持ってるだろ、借りてくるわ」

わらわらと周囲の男子が策を講じる中……いつの間にか七宮寺も机の傍に。

「チェーン、引っ掛かってしまったんですか？」
「ん。かなり奥まで噛んでるみたいでさ、とりあえずドライバー待ち」
「そうですか？　此方の端を向こうへ引いたら取れそうですけど」
「いや、待ってダメ棘付いてる所で手切っちゃうから触っちゃ……！？」

カシャン！

「……取れ、た？」
「やっぱり此処で引っ掛かってただけだったんですね、良かった」

……そんな、普通の女の子が引っ張って取れるような嵌まり方してなかったぞ。
つか俺能力者だから普通の人間よりそれなりに力ある筈だし……

沸き出した疑問が一真の頭でぐるぐる回る中、視界に何か入った。

（「……今度は何やってんだマウ！！？」）

黒板の下で逆立ちしながら器用に、でも一寸危なっかしげに歩くマウの姿。
ああもうアイツ後でぐにっと頬引っ張りの刑に処してやると内心頭を抱えた一真だが、
ふと気付いた時には理紗もそちらの方向に視線が向いていた。
……そういえば。
彼女は変にそれとわかる香料は使っていないようだ。微かに涼しい香りはするが。

「どーしましたかね七宮寺さん、というか今日の御用は何でしょう」
「……え、あ、ごめんなさいボーっとしちゃって！　ええと、あのですね……」



「一時はどーなるかと思ったが……そか、マウ俺の話聞いてたんだな」

にぃ、と頷くマウ。頑張ったよ！と主張するマウの頭をわしわし撫でてやる。
多分いちるからの返信を片手にあーだこーだ呟いていたのを小耳に挟んだマウが、
理紗の来訪を見て主の為に色々と手を打ったに違いなかった。
彼女が教室に踏み込むかどうか、香水の事、そしてマウの動きに気付くかどうか。

「彼女は室内まで来た。マウの事見てたような気がしなくもない。キツイ香水も無い」

……どの判別法も確定には遠いと釘を刺されてはいたが、尚更分からなくなった。
ああ、あともうひとつ。

「……あんだけ絶妙な嵌まり方したチェーンを一発で外した。……まさか、な……」


疑うしかないんだろうか。
神経をすり減らして。
己の身を、そしてマウの身も守る為に。


「……すげー、良い人なのに。ここ数日すげー楽しいのに」

だからこそ、疑うのは滅茶苦茶辛いのに。