@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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――2009.08.07 NIIGATA
「よ、はーちゃん。4組の仕事の進みはどうよ?」
「順調よ。装飾もひな壇も大体組み上がったし、本番前の搬送待ちね」
「やっぱりプロ集団は早いぜ。……なー、そっちのシェフ2組に貸してくれ」
「普通に会費取ってお店に頼むんじゃなかったの?」
「んや、そっちじゃ無くて数人準備で既に魂抜けかけてて」
「……栄養食が欲しいと」
「そういう事です」
「残念だけど彼女は既に1組の手伝いに」
「マジかよ!?」
「お金の流れと内外交渉担当してる1組の方が疲弊度激しいんだって」
「あー……そりゃしょうがねぇな。3組はどうなんだろ」
「リハーサルと当日担当だからまだ慌てなくても良さそうかしら。……そういえば」
「ん?」
「役割分担って籤引きで決めたのよね?」
「そう聞いてるけど?」
「うちのクラスに装飾と音楽なんてど真ん中の分野が来たのも偶然かしらと」
「あ、そこだけは4組に即行ぶん投げたらしい」
「……策士ね、委員会も」
「多分どの役割でも絶対確実にいけたけど一番大変なのを投げたという話で」
「……絶対1組の現状見てると大変の度合いが違うと思う」
「いや、大変なの4組だろ。だって1組の知人泣いて喜んでたぜ」
「どうして?」
「4組の提出してきた予算額が予想外に少ないのに仕事ぶり完璧だって」
「……各々の伝手フル稼働だからね。余りお金使う必要が無い」
木材だの布だの道具だの音楽機材だの、実際は4組が一番の金食い虫分野。
しかしプロ集団と言われる4組の面々は仕事もプロ並みだった。
小売店スルーで問屋との直接交渉が可能な人間が材料費を抑え、
種々の音楽ジャンルに精通する者達の持ち寄ったCDだけで殆ど事が足り、
音楽機材も講堂据え付けにほんの少し足せば充分使えるとのお墨付き、
余程BGMが足りなくなれば後はライブにすればいいと言い切る始末。勿論自分達で。
「まーなー、俺の親父までノリノリで請けちゃうんだもんなー」
「あの設計図を覗き込んでくるとは思わなかったわ……」
「でも想定してたより強度上がったんだろ? 殆ど材料の量変わらずに」
「流石プロは違うと組み上げ担当が拝んでた」
「プロがプロ言うなよ……」
因みに、一真の父親は建築士の肩書きをフル活用する職業。
「……で、ここがそのライオン雀が居た場所なわけ?」
「ええ、この辺よ」
「特に何も妙な物は無さげだよなー、奥まってる場所ではあるけど」
「そうね……森は幾分近いけどこの周辺は開けてるし」
「高台にあるせいで見下ろせるしな」
「本当に何も無いのよね。……只のはぐれモノだったのかしら」
「だといいんだけ……いや、ダメみたいだぜ一寸待て畜生!」
森の方角を眺めていた一真の声が上擦る。
視線の先には一匹の蟷螂。
……体表真っ赤だったり腕が二対だったり頭部が三つだったり、
トドメとばかりに体長が人間並みだったりするのを蟷螂と呼ぶならの話だが!
「うわーもう超最悪、どうして俺の遭う奴等はこう揃って鳥肌立ちそうな奴なわけ!?」
「諦めなさい、愚痴って消えてくれるようなゴーストは絶対居ないから」
「骨身に染みて分かってます。……マウ、準備と覚悟は?」
一真の問い掛けに、にっ!と応えたケットシーはマントを翻してレイピアを構える。
既に眼前に魔法陣を描き出したはたるの横で、鞄から円盤状の物体を取り出した一真。
方位磁針を思わせる針を中央に据え、地図と時計と漢字が混在した盤面――風水盤。
「……殺されるのは勘弁だぜ」
「殺るのはこっちの権利よ」
軽快な剣捌きで相手を翻弄するマウを援護するように炎の魔弾が蟷螂の胴を叩く。
鎌で一薙ぎを受けつつもレイピアの先端をくるくる回して挑発する強気な相棒、
その後ろで何事か唱えた一真は足元の地面に掌で触れた。
「ここはてめえの居場所じゃねぇ、さっさと死の沼に飲まれちまえ!」
ぶくり、と泡が生まれる音。
蟷螂の足元に広がった禍々しい色の汚泥から湧く泡は毒を以って上に立つ者を蝕む。
乱れた地脈の力を敢えて顕現させる秘術、不浄泥濁陣。
毒に中てられたか蟷螂の胴がぐらりと傾ぐが、まだ戦意を失わせるに充分ではない。
「燃え尽きるのと痺れて逝くのはどっちが好みかな、アナタは」
あの金属みっちり装丁の古い本――魔導書で増幅された力を宙に術式として編み出し、
最初は炎だったからと今度は雷の魔弾を撃ち出したはたる。
狙いが逸れて左側の鎌二つに掠っただけだが、それでも鎌の片方が捩れ地に落ちる。
……が、次の瞬間。
残り三つの鎌があたかも鳥のように空を切り裂き後衛の二人に襲い掛かった!
咄嗟に素材不明の風水盤でそのうち二つを跳ね返した一真が毒づく。
「畜生飛び道具かよ! 飛ぶなら飛ぶって先に言いやがれっ!!」
「……言うわけ無い、でしょ」
その言葉と同時に膝をついたはたる。……避け切れず左腕を抉られていた。
「ちょ、大丈夫かよはーちゃん!?」
「自己回復は出来るから、大丈夫。……その分一真の方が危ない」
「俺だってマウに頼めるっつの!」
間合いを詰めて風水盤から衝撃波を放つ一真の後ろで再びはたるが魔法陣を描く。
隙を作らせまいとマウが渾身の力を込めて放った一撃が頭部の一つを斬り飛ばし、
頭を失った激痛と怒りで蟷螂が執拗にマウを狙って鎌を振るい始める。
だが怒り任せの攻撃をひょいひょい避けては攻撃を重ねるマウと、風水盤を構える一真。
再び生まれた毒沼が真っ赤な体表を禍々しい黒で汚し、又一つ頭部がぼろりと朽ちた。
「……貰った分は倍以上で叩き返すのが私の信条なの。――ゼロに返れ!」
裂帛の気合と共に撃ち出された炎の魔弾が右の鎌二つを一瞬で蒸発させ、
悲鳴と共に残り一つの鎌が最も近い一真を捉えるが、マウのレイピアが余裕で阻む。
再び撃ち込まれた魔弾の炎が蟷螂に燃え移った瞬間、衝撃波が最後の頭を砕き飛ばした。
それが引き金となったか、残った身体がぐずぐずと崩れ……消えていく。
「……前のライオン雀より遥かに凶悪だわ」
「止めろ言うな今は。……つかはーちゃん、腕は!?」
「大丈夫よ、もう殆ど塞がってるし。もう一回射手使えば傷も残らないわ」
「……なあ。こんな事が起きても、まだ言わないつもりなのか?」
「ええ、この程度なら言う必要も無いわ」
(「……ごめん、はーちゃん。流石に……流石にこれは黙ってられないって」)
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