◆Hit the Door -β-

――from Kazuma Ichikawa

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ん、成瀬が死んだ前後のお前の様子？
なぁいち、それを俺に聞くのかよ新手の嫌がらせか何かか？
……分かったよ、その目は冗談の目じゃ無さそうだし。

じゃあ敢えて言ってやるよ。
言った後で聞かなかったフリすんじゃねぇぞ？

ぶっちゃけ、俺は成瀬が死んだ直後のお前に近づくの超怖かった。
人間違い過ぎたんだよ、あの時のお前。
その前まで友達だろうが自分の姉貴のはーちゃんだろうが一切関係無く、
知った関係だからか幾らかは手加減しつつも冷めた態度で常時相手してたお前だぞ。
そんな筈の奴に会うなり笑顔でおはようなんて言われてみろ、超怖ぇに決まってるだろ！
それ食らった最初の日思わずはーちゃんの背中に隠れたのはっきり覚えてるぞ俺！

で、どうやら理由は成瀬の事故現場見たからだとかそんな噂が聞こえてきて。
……友達死んで暗くなるってのは分かるさ。
けど底抜けに明るくなるとか絶対おかしいじゃんどう考えたって。
お前等仲良かったんじゃなくて犬猿同士だったのかよって邪推したくもなるさマジな話。
んで親父に聞いたわけ。そんな事ってあるのかって。
そしたら「無い訳じゃない」って言われたんだよ。
本当に大事なものを失った時みたいな物凄く心身にダメージを与えるような事があった時、
そのダメージから心を守る為に特殊な反応が起こる事がある、って。
言動が子供に戻っちゃったり、その出来事自体を忘れちゃったりする事があるんだって。
何て言ったかな……防衛規制だっけ。

俺や篤輝や結や千奈都は確かに幼稚園時代からの友達だよな、お前にとっては。
で、はーちゃんは言うまでもなく、ついでに一番近い能力者だよな。
そして御両親も、なんだよな？

じゃあ、お前にとって成瀬はどんな存在だった？
……突然過ぎて答えられないか？

多分、だけど。
小学校上がって初めて出来た友達で、
家の外で初めて出会った能力者で、
ありのまんまのいちを当然のように受け入れてくれて、
そして“あいつにだけは嫌われたくない”と思った人じゃなかったか？

だって、俺にはそう見えてたよ。
いち、お前さ、あの当時喋る時に出てくる癖あるの自覚してた？
まず俺等やはーちゃん相手だと言葉遣い砕ける代わり容赦無かったよな。
嫌うなら嫌えって感じの。
まあ俺等は端からその口調に慣れっこで気にならなかったけど。
先生とかクラスメイト相手ならまだその辺抑えて当たり障り無い感じだったけど、
ホント知らない人相手だと大マジで取り付くシマ無かったぜ。
でもさ、成瀬相手の時はどれでもなかった。
慎重に言葉選んでるの、最低でも俺は気付いてたよ。
だって喋る速度が横で聞いてて分かる位に落ちてたから。
それ、お前の当時の顕著な癖。
……だけど成瀬相手だけだった。それは。
成瀬が死んでからはその癖全く出なくなったんだ。

……どうした、いち？
え、全然その自覚無かったって！？
うわー、俺喋って良かったんだかマズったんだかなあ。
……でも最近喋る時にそんな感じになる時がある？
それなら、その相手に嫌われたくないって思ってるんだよ無意識にでも。

……話戻そうか。
そんな話を聞いてさ。
いちが変わったのは凶悪なダメージから心を守る為に『変わるしかなかった』からかって。
そういう納得の仕方して、暫くお前に校内でずっと引っ付く事にしたんだ。
一寸考えてみろよ……明るく元気で騙され易くて時々無謀になる新しいいちが、
もし突然冷淡ベースの元のいちに戻ったとしたら……いち、お前ちゃんと自分保てるか？
パニックになったりしたら誰かがお前に全部説明してやらなきゃいけなかっただろ？
ま、その役目を引き受けたって感じかな。
結局それをお前が鎌倉に移るまで続けてたけどさ。
でも何か、昔に戻りつつある感じがするな。最近のいち。
夏のあの事件で一緒に動いてた時なんか、特に。


あ。そーだ言い忘れてた。
千奈都がな、いちに貰ったアレが遂に切れたって喜んでたぜ。
苦節８年は長かっただろうなぁ、だけどそれだけ千奈都が物持ち良過ぎって事も……

……いち？　どした？
何それって顔してるけど？


……覚えてない、のか？
俺も貰って１ヶ月で切れて「絶対消毒液でもぶっかけただろ」って呆れられたのとかは？



え、だってアレ作って俺等にくれたのは。

……くれたのは他の誰でも無いお前なのにか、いち？