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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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――今宵彼等を、『夜の矧』の全権を真の主たるお前に返還したい。


その瞬間、時が凍ったかと思った。

まだ15でしか無い子供に。
そして未だ矧の何たるかを知らない子供に。
ついでに部分的記憶欠落だの宗家不在中だの突っ込み所だらけの子供に。

……暁降の嬰児、暁降月主に。


――返すと、言うのか。



「……冗談だろ?」



それしか、言葉が出てこなかった。




--------

「冗談と酔狂とでする話でもないのはお前でも分かっていように」
「……分かってようが納得出来ない。何が、じゃない。何もかもが、だよ」

……今である必要があるのか。
来年の元日からの総揃いが暁降の元服の名残という重要な事なのは俺だって分かってる。
今回に限り総揃いが終わるまで暁降は一切動くな働くなという御達しすらある位に。
それを曲げてまで三祷奉納に挑む俺が異例中の異例だという自覚位は持ち合わせてる。
ただ、無理を通したのはその一点だけ。
それ以外は一切、総揃いが終わるまで矧の一切に触れないという約束を交わした。
……にも、かかわらず?

重鎮一同から全くと言って良い程認められてない暁降月主に、今全権を返すだって?
総揃い後なら一人前としての建前で押し通せば何とかなりそうな気がしなくも無いが、
今の俺が全権を預かったとして、一体誰が鎌倉で呆けてる宗家不在の主に従う?
俺がその従う側の立場だったら絶対信用ならないと思ってしまうに違いない。

「此処にいる頭領達だって納得しないだろ。何も知らない餓鬼が新しい頭だなんて」

……俺なら、信用なんて出来やしない。

「あらあら、厳しい事を仰る。――では“わたくし達が宗主にそう望んだから”、だとしたら?」
「……は?」
「頃合いだと決めたのは宗主殿では無く従う側の儂達だという事ですよ、月主殿」

……嘘だろ?

「既に夏には我々で決めていた事なれど、月主殿は矧と鎌倉とを見ておられました故に。
此方にあられるとの噂を伝え聞き、宗主殿への御挨拶を言い訳にと申しても過言では無く」

頭の芯が、身体が、早まる鼓動とは裏腹に静かに冷えていく。

「……俺を担いだって、数秒後に後悔するだけだ」

声に出来たのは、それが精一杯で。

「いいえ、後悔など微塵も。少なくとも我は長く待ち続けた貴方との約定を果たせるが故に」
「約定……約束? 俺との?」
「――苑夜の後ろ盾を頼む、と。
あの当時、苑夜は親を失った孤児。後ろ盾無き迷い子。その命を救いしは他でも無い貴方。
笑わぬ泣かぬ彼女の安息を、心温かき者による庇護をと。我は約定を奉じ、今が在る」


――強くなるのが、正しいことだとは俺は思わない。
――痛みが、分かるままでいたい。そうじゃないと、きっと……

――後ろをくっついて来るきみの痛みすら分からなくなってしまいそうだから、苑夜ちゃん。


コマ割りの記憶。
彼女の手を引く小さい俺と、俺に手を引かれる彼女。
……確かに彼女は笑いもせず泣きもせず、ただ俺の後ろを付いて来ていた。
ネイお祖母ちゃんと3人で公園に行ったり駅に行ったり、そんな記憶が緩やかに蘇る。


「……5歳の子供との約束は、そんなに重い物だったのか……?」
「月主殿であるが以上に、その願いの真摯さにわたくし達は惹かれ、望んだのですわ」
「5歳の頃と、今の俺とは変わったかもしれない。……何より俺には貴方達の記憶が無い」
「では、儂から一つ問答を披露しても宜しいかな。遠い昔、月主殿に同じ問いをした」
「構いません。……失望する答えを返すかもしれませんが」


「では、一つ問答を。
此処に3つの菓子があるとしましょう。丁度手持ちがありますから出しておきましょうか。
――このように、外見では全く判別の付かない、一見同じ菓子です。

しかしその中身は全て違う。

ひとつ目は、只の菓子。何の変哲も無いもの。
ふたつ目は、万毒を中和出来る万能薬。但し呑み下したその時、代償として聴覚を失う。
みっつ目は、味も匂いも全く無い致死毒。呑み下せば助かる術は無い。

では、月主殿。貴方に今此の場でひとつ、菓子を呑み下して戴きましょう。
但し条件が一つ。『必ず毒を口にしなければならない』と、制約を加えさせて戴きます。

……さて、貴方は何を以てどれを毒と判じ、どれを口に致しますかな?」


3つの菓子。
そのうちひとつは毒、ひとつは薬、ひとつは菓子。

……簡単な事だ。

「――どれを口にしても変わらない。全てが毒だ。

致死毒は説明の必要が無いし、万能薬もそんな副作用がある以上身体には毒でしか無い。
最後の普通の菓子だって、見方を変えれば毒になり得る。
……此処に並んでる3個の菓子、包装からしてコーラルガーデンのトリュフだろ?
あそこの菓子の中でも高い部類に入るこのチョコ、1年に一度だけバカ売れするんだよな。
勿論、2月14日の直前だけどさ。
何の変哲も無いとか言って、こいつはその時期だけ欲を煽る毒、心を惑わす毒になる。

結局、どれも毒でしか無い。死ぬか無音生活か、人畜無害で実際一番面倒な毒ってだけで」

……それが、俺の答え。

「成る程。――月主殿、貴方は些かも変わってはおられぬ。だからこそ我等の主に相応しい」
「……変わって、無い……?」
「5歳の頃と同じ答えなのですよ、月主殿。全部毒だと直ぐに答えてしまわれて」
「やはり泥眼殿の負けと相成るか。矧なる者等を例え心の内を問う問答、再び即答とは」
「……矧の例え?」
「毒は儂達『夜の矧』を、薬は『昼の矧』を。そして菓子は貴方と対なる『陽主殿』を示すもの。
どれを貴ぶでも無く卑下するでも無く、全て同列の目でなければ『夜の矧』の主には不適格。
どの菓子も、というよりどの立場も力を見誤れば害にしかならない、というわけですな」
「要は片割れであり同格であるはたるとの間にも厳格な一線が引けるかという事だ。
双子の結びつきは強いと言うが、その強さに寄りかかってしまうと共倒れにしかならない」
「……なるほど、ね。その点に関しては俺はかなりドライだって言われるけど」

泣かれるのは嫌でも、泣く理由がはた自身にあるなら俺は泣こうが確実に放置する。
……冷淡と取るか、平等と取るか。

「彼等と話して少しは納得が出来たか? 『夜の矧』達はお前を歓迎しているが」
「納得したって言えば嘘になる。……だけどそこまで言うなら好きにしたらいいや、って」
「思考放棄は余り良い決着にはならないと思うがな」
「放棄した心算は無いよ。ただ、15の主は若過ぎたって軽く後悔させる心算はあるけどね?」

俺のその返しにくくく、と翁面の女性が笑いを噛み殺す。
儂等の主の前ではしたないと咎める泥眼面に、知らん振りを決め込んでいる納曾利面。
……いつか、その面を外した姿で俺に逢ってくれるだろうか、と。
何故かそんな事を考えた。



「うわ、寒……お祖父ちゃんも頭領さん達も風邪引かないでくださいね本当に」
「半人前のお前とは違って鍛えてあるから平気だ」
「ふふ、頭領を名乗る者がそんな軟弱な存在では下も付いて来ませんわ」

彼等を見送る為に離れを出て数歩歩いた、瞬間。


……寒気に混じった、殺気……!

「――三頭領! 俺よりも先ず宗主を護れ!!」
「承知!」

瞬時に起動宣言、駆け出すと同時に手に現じた那由他の刃で飛来した小刀を叩き落とした。
逆手の鞘で又一つ、二つ。更に身を翻し、那由他で又二つ、三つ。

周囲に散在した気配は、しかし直ぐに掻き消える。
一瞬の出来事だった。



……遂に攻撃に出てきやがった。

しかもお祖父ちゃんを、宗主を巻き込む事すら厭わないと……そういう事なのか?
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