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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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「コラ、だから自分から反撃とかガードとかダメだって言われてるだろうがちびすけ」
「頭では分かってるんだよ頭では……っ」
「分かってても身体の制御出来ないんじゃ分からんのと一緒だぞ」
「だったら大マジになって竹刀振るうの止めてってば!」
「んな事言ってたら訓練にならんだろ訓練に」

……楽しんでる、絶対楽しんでるな父さん。






--------

離れ横の庭にいるのは袴姿の俺と、俺に付き合ってなのか剣道着姿の父さん。
父さんは竹刀を手にしているが、俺は素手。

『何をされようとも、一切の反撃も防御もしてはならない』。

それが、三祷が一、『祓』の第一段階。
今の俺に許されるのは繰り出される竹刀を避ける事と、被る事だけ。
それしか出来ないと暗唱しまくって頭の中に叩き込んではいるものの、
銀誓館での戦闘実践生活習慣とも言える反応を自分で抑えるのはかなり困難で。
避けるのは何とかなっても、頭や胸への攻撃をどうしても庇おうとしてしまう。
……相手役の父さんが本気で踏み込んでくるから、尚更。
1対1ですらこの状況じゃ、5人程度の相手を続けねばならない本番が余りにも怖い。
絶対途中で1人位反撃してしまいそうな予感がする……。

刹那。
ぐらりと視界が歪み、身体が傾ぐ。
その隙を見逃さんとばかりに竹刀で鳩尾を突かれ、息が止まる。
地に転がりはしなかったが、片膝を付いてしまう。
波打ち歪み続ける地面を目が拒み、きつく瞼を閉じて目頭を押さえた。

「だ、大丈夫かいちる! まさか急所突いたか俺!?」
「……平気。頭グラグラするだけ」

……頭だけじゃない。
昨日の今日で碌に眠れていない。
御馴染みの左足の激痛も跳ね上がっていくばかり。
更に言えば……もう、夜なんだ。
軽食を摂る時間を除いて朝からずっと行ってきたこの訓練、
慣れない事を続ける結果凄まじいまでの疲労が俺に重く圧しかかっていた。
多分限界なんてとっくの昔に振り切ってしまってる。
それでも立ち続け避け続けるのは、もう時間の余裕が殆ど無いからでしかない。
一分一秒が、惜しい。
願って叶うなら、時間よ止まれ……と。

脈打つ痛みに必死で耐え、何とか両足で立つ。
真っ白な息が冬の夜の暗闇に溶けていく。
荒い呼吸を何とか整え、父さんの持つ竹刀の先を見据える。
身構える為に半歩引いた右足の下で、ざり、と土を擦る音が響く。

小さく歪む視界。
その端に、鈍く光る何かが見えたと思った。
……思った時には、もう遅く。

身体に走る衝撃、ふたつ。

肩を、腕を抉る激痛。

衣に広がる暗く赤い染み。


――左の肩と腕に、突き刺さった小刀。


立ち続ける力を失い両膝から地面に落ちた俺の視界の中、
霞んで見えたのは生み出した呪殺符を闇に放つ父さんの姿。

「父さん深追いするな! 向こうの思う壺だ……っ」
「自分の息子に刃向けられた揚句傷付けられて黙ってられるか!
ついでに視覚的に派手過ぎる炎の魔弾選ばなかっただけ進歩だろうがっ!」
「だったら導眠符に……ってそういう問題じゃ無くて!」

小刀を引き抜き傷口を押さえる俺は袴姿から鉄線花のジャケット姿に変わっていた。
危機的状況の勃発による自動起動で重傷は免れたが、それでも傷は深い。
……あの距離から飛んで来た刃物がここまで深く刺さるなら確実に能力者か、
又はクロスボウ的な物にでも装着して機械的に発射されたかだ。
前者ならまだ、笑い話にならなくもない。
非常識側の可能性の方がまだ……俺にとっては納得も出来るから。
一瞬の後、揺らぐ水霧を周囲に呼び寄せる。
幾らかはこれで塞がるだろうが結局は治療が要る。

……俺の身体は、異能の癒しだけでは何故か完治しない。

非常識を何処かで、未だに拒んでいるんだろうか……。


月明かりだけが照明代わりの自室。
……治療の道具だけは離れに運んでいなかった。
昨日の襲撃の事を鑑みれば向こうに移しておくべきだった、と今更後悔しながら。
腕と肩に包帯を巻く為、上半身裸という出で立ち。
辛さを感じないのは寒さ冷たさよりも痛みが勝るせいで。
負傷したのが利き手側の右じゃなくて左で良かったと思いながら、
編入直後に比べて随分器用になってしまった動作で包帯を巻き付けていた。
それも大方巻き終わり、端を口で咥えて引っ張りながら止め具を取ろうと右手を伸ばし――


「……あら、左腕と肩なんて奇遇じゃない」


ぽろ、と口から包帯が落ちた。



折角巻いた包帯が押さえを失い、緩んで外れていく。

だけど。

……そんな事より……!



「さっき左の腕と肩にナイフ刺さった幻覚が見えたのよ、私」


……全身が拒絶する。
声の方向を向く事も動く事も声を発する事も何もかも。


「離れ周辺で誰かが騒いでいるのも聞こえたんだけど」


氷漬けになる方が何倍とマシだと思える程の冷気。
ざわり、と粟立つ肌。


「……何より、何で貴方が此処にいるのかしら。ねえ、いち?」


加速する鼓動。
体温が一気に落ちていくのがはっきり分かる。


近づく足音。

静かに、確かに。




……なあ、神様。
まさか一度黄泉津へ叩き落とされて来いって御達しですか。
どうせお前なら現世にちゃんと戻って来れるだろとか本気で思ってるんですか、神様?



「……黙っていたら、分からないわよ?」



影が落ちる。


俺の肌に。





――さあ余命は残り何秒かな、俺。
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