@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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「もきゅ?(ひょこり)」
「きゅきゅきゅ?(ひょこひょこ)」
「……ああ、これ? 一寸待って、使ってみせるから」
かちっ。
――ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴー!(ぴかぴかきらきらきら)
「もきゅー!!」
「きゅー……!!」
……ぽてっ。ぽててっ。
「……撃たれて倒れる真似……よね? ノリがいいわねこの子達」
「きゅっきゅー、ききゅきゅっ!(てしてしてし)」
「あら、どうしたの? ――ああ、そうね。良く見付けたわねこの○ォーリー」
和む光景のその向こう。
――現在進行形で恐怖(?)の雪崩(??)が起きていた。
--------
「……呆気無く呑まれたわね」
ケージ山の傍で数匹のモラ達と大判の人探し本や玩具銃に興じていたはたる。
弟の遭難を見遣るも立ち上がる事は遂に無く。
まあどうせ死なないし本望でしょうし、と広げた本に視線を戻す。
……死にはしないね、確かに。本望かどうかは別として。
しかし誰かひとり位は助けに行くかと思いきや……いつまでもその気配が無い。
大波は回避したものの別の小さなモラ集団に引っ付かれて身動きのとれないユエ、
見得を切った時に彼をターゲット認定したモラ達に纏わりつかれパチパチされ状態の影郎、
振り向いた時は皆でそっぽを向いているのに背中を見せると一気に群がる、
言ってみれば変則だるまさんが転んだ状態に陥った寅靖。
「やー、群れるとこんな強気になるもんなのモラさんて」
「私に聞かれても。……あら、漸く捕まえたの?」
「いち襲撃した波の端っこからかっ攫ってみた」
――流石バニラフレーバーのコロンは威力抜群やねぇ。
そんな事を嘯きつつ捕獲したモラを1匹ずつケージに追い込みながら答えた彩晴。
……なるほど、先程従兄に吹き付けた代物はそれか。
「それで犠牲者はいちだけ?」
「んにゃ、秘密裏に渕埼先輩とユエさんにも仕込んだ」
鬼畜にも程が無いか、貴方。
「寅靖兄ちゃん、大丈夫?」
「俺は大丈夫だが……俺よりもそれを先に聞く相手がいるんじゃないか?」
だるまさんが転んだ強制終了により捕獲したモラ達を抱えながらも、
寅靖が示した先には小型モラミッド。
もとい、ユエが回避した大波の成れの果てとも言う。
崩れた風が無いから未だ最下層に犠牲者がいるのでは無かろうか。多分。
「……でも、役得ってやつ……だよね?」
「……生還後に怒られたら謝った方がいいとは思うがな」
……生還後を語る前にまず生還させてあげて下さい。
「あ、ちゃんと生きてましたか。てっきりもう駄目かと」
「なー、背中に引っ付いとんのが頑張ってて取れんのやけどー?」
「……暫くそのままでいいよ。飽きたら離れるだろ」
影郎と彩晴によりやっと救出されたいちる、顔色が心なしか青白い。
……あれ、もしかして本当に生命の危機だった?
放置でいいと言われた背中のモラは嬉しそうにひょいっと左肩へ移動。
捕まえ易い位置に来たが当の被憑依者は言葉通り放置を決め込む事にしたようだ。
というか、多分それどころじゃないせいだとも思うけど。
「……結局、今50匹中何匹捕獲済みなんだ……?」
「そーいや何匹位なんやろ。――はたちゃーん、今ケージ内何匹おるん?」
ケージ周辺モラ担当の従姉からは「まだ10匹」との返事。
一寸待て、此処まで大騒動になって未だ2割……だと!?
「何と。では一寸捕獲ペース上げましょうかね、銀誓館能力者の使命ですし」
「……この後旅館へ行く事考えたら余り時間無い気がする」
「しゃーないやね、そろそろ本気出してきますか」
影郎、いちる、彩晴が目を合わせて頷く、も。
「渕埼寅靖ー、ちんたらしてないでさっさと捕獲して下さいよー」
……あれ?
追い掛けたり追い掛けられたり。
波に呑まれたりてしてしされたりパチパチされたり。
それでも能力者達は挫けない。
まあ、挫ける前に和んだりもふもふ堪能したりで忙しいし。
言った通り本当に捕獲ペースを上げた影郎が的確に追い詰めては彩晴に投げ渡し、
纏わりつく子を地道に1匹ずつ捕獲する寅靖の隣ではユエが元気な子と追い掛けっこ、
小型手風琴で誘き寄せるはたるとケージ横を交代したいちるが着々と中身入りを増やし、
何とか残り20匹にまで減らした所で一時休憩。
倉庫内を無人にしてしまうのは宜しくないという共通見解のもと、
3人ずつ至近の守衛所で軽食を摂りつつ一息吐いて。
暖房の効いた室内は元より、外も数日前に荒れ狂った寒波が嘘のような暖かさ。
「……いい加減飽きて仲間と一緒にいればいいのに」
「きゅ?」
流石に野良モラと一般人が同じ空間なのは怖い為、外で休憩中の1人と1匹。
……未だに引っ張っても頑張ってて取れない状態継続中。
因みに今現在モラは右肩に憑依したまま離れる様子も逃げようとする様子も無く。
憑かれた側が睡魔に負けた後も一緒に肩の上で寝息を立てていた辺り使役顔負けだ。
「……確実にプラス1匹されとんぞええのかアレ」
Vの字の紙を野良モラの額に貼ってモルモマンを量産しようとしていた影郎だが、
逆襲を受けモラ波に呑まれ掛けている……状況を見かけた彩晴、しかし微妙に眉間に皺。
「あれ、どうしたの彩晴兄ちゃん?」
「おや丁度良かった保護者さんあの子完全に仕事忘れとーよ」
「? ……あーっ、一寸何やってるのモルモ!?」
モラ波の中で一際目立つ深紅のマント。
「間違うて捕まえんよーにせんと……間違えようも無いんやけども」
「こらモルモーっ、ちゃんと手伝ってって俺言ったよね遊ぶの無しーっ!!」
相棒に向かって声を張り上げるユエ、なのだが。
「もっきゅきゅー!」
……うん、実力行使が必要かもしれないね残念だけど。
「――あ」
奥から転がってきてしまったらしい縫いぐるみ。
養生テープ境界線の傍に寝転ぶ茶色のもふもふテディベア。
そしてその隣でつぶらな瞳をきらきらさせじっと眺めているモラ1匹。
遠目からだとどちらももふり具合抜群の縫いぐるみにしか見えないだろうが、
それでも片方はれっきとした妖獣。可愛くてももふもふでも妖獣は妖獣。
「これは奥へ返しておこうか。――どうした?」
拾い上げて奥の在庫へ戻そうとした寅靖に向かって反論の声を上げたモラ。
境界線のテープをてしてし手で叩きながら。
――さっきここから出ちゃだめって言ってたじゃんかー。
てしてしの音に混じる鳴き声を人語に翻訳したらきっとこう言っているに違いない。
「この子を戻してくるだけだよ。……信じられないなら一緒に来て見張っているといい」
もきゅ、と一声上げて後ろをふよふよ付いてくるモラ。
しかし移り気な気質か周囲の段ボールや他の縫いぐるみに近寄っては寅靖に注意されて。
境界線内に戻ったら戻ったで全力逃亡なし崩しに鬼ごっこ状態……子供はいつも元気です。
パチパチ火花を進行形で被りながらモラを運ぶ影郎。
その視界に“標的”を捉えニヤリと笑う。
音も無く距離を詰めていく。
ノリのいいモラ3匹の協力を取り付け暫しモラ手玉を楽しむ彩晴。
取り落される事も無くリズミカルに宙を舞うモラ達。
――ぼすっ。
彩晴のジャケットコートのフード目掛け、影郎がパチパチモラで3ポイントシュート。
衝撃とパチパチとで体勢を崩しかけたが何とか踏み止まった彩晴。
宙に投げ出される形になるも咄嗟に彼の腕や肩に掴まるモラ達。
……じーっ。
刹那。3匹のモラ、お手玉を邪魔され即座に影郎へ反撃開始。
てしてしパチパチぼすぼすされる影郎。
目を回してか細い鳴き声を上げるフードの中のモラを救出する彩晴、惨状(?)全力スルー。
そんな、こんなで。
晩冬の暖かい日差しが翳りを見せ始めた頃には漸くほぼ全てのモラ捕獲、完了。
皆の服には多かれ少なかれモラ毛がしっかりくっ付いている。落とすの大変だ。
「モラ依頼……こんな恐ろしい戦いだなんて」
それは50匹も集まっちゃったせいだと思うんだ、影郎。
しかし髪の毛がパチパチで逆立ったまま格好良く呟いても台無しじゃないか?
「これだけの数だと流石に骨が折れるな」
ズラリと並んだり積まれたりしたモラケージを眺める、心底癒された風の寅靖。
未だ空のケージも、残り幾つか。
「や、やっと捕まえた! もうこの子元気良過ぎだよすばしっこいし跳ねるし」
「もーっきゅきゅー!」
モルモを連れ、漸く捕獲に成功した超元気モラを抱えてユエが駆け寄って来た。
周囲でうつらうつらしているモラ達をケージに入れ終えたはたるが受け取る。
「静かになったので誘惑に駆られ開けてみましたが。捕獲、終わりましたか?」
「ええ、1匹残して捕獲完了です」
左肩に未だに最後の一匹が憑依するいちる、ドアから現れた颯斗に状況報告。
頷いた颯斗が誰かと何事か携帯で会話した後にシャッターを開ける。
――倉庫前にズラリ集結した十数台のワンボックスやライトバン。
車体にペットショップの名前が書かれているものもある。借りたのだろうか。
そして……運転手から同乗者兼作業スタッフに至るまで全てどう見ても能力者。
だって銀誓館の制服着てる子供も混じってるもの。
「……典杏、どういう経緯でこんなに人手を集めたんだ?」
「運転免許を御持ちの卒業生やモーラット搬送の手伝いをしたいという方を依頼で」
「まあ、確かに搬送作業も一般人よりは能力者の方が安全よね」
「免許持ちの方は兎も角、お手伝い希望者は結構な倍率になったんですよ籤引きしました」
「……色々大変な昨今とてつもなく平和な光景だな、それ」
続々とビニールシートを敷いたり被せたりした車内に運び込まれていくモラケージ。
1台に数匹分しか入らないが万が一の事も考えるとそれが妥当だろう。
同乗者はケージの中のモラ達が緊張したり飽きたりしないように相手をするのだという。
積み込みが終わった車、ケージ越しに彩晴がモラ達に約束通りクッキーを配布。
「次に外出る時は仲間だらけやから淋しくないさね、着くまで少し我慢しとってー」
もきゅー、と応えるモラ達は早速さくさくクッキー堪能。
最終確認を終えた車からどんどん出発し……搬送車両は最後の1台に。
「――ほら、お前もそろそろ鎌倉に出発しないと夜になっちゃうぞ」
「もきゅー」
「……時々はプールに顔出すから。“合言葉”が聞こえたら飛んで来ればいい」
「……きゅー」
完全には納得し切っていないのだろう様子のモラをケージに入れて車内に積み込んで。
ぱたん、とドアを閉めて。
「翳ってから急に気温落ちた思とったら……また雪かいなこの異常気象め」
「あら、本当だわ。本当に、日中の暖かさが嘘みたいな変化ね」
ちらちらと降り出した雪を、薄暗い空を見上げて。
「この様子なら積もりはしないだろうが……急ごうか。堤、頼んでおいた車は?」
「先程の輸送車両と一緒に手配してあります。此方にどうぞ」
旅館で合流する友人達を駅まで迎えに行く為に、寅靖が典杏と共に仲間達の傍を離れ。
「寅靖兄ちゃんから地図は貰ってるから俺達もそろそろ出発しなきゃだね」
「1日中動き回った最後が駐屯地まで徒歩15分ですか、中々どうして強行軍ですねえ」
守衛室に預けていた荷物を再び手にして。
「そういえば、小崎先輩はこれからどうするんですか?」
「杏さんを連れて僕の実家まで。うちの妹達が杏さんが来るなら逢わせろと五月蝿くて」
最後の施錠等は僕が責任持って確認するから気にせず行っておいで、と背中を押され。
銀誓館学園の能力者として依頼された大捕獲作戦は無事終了。
――さて、この先穴場の温泉旅館では何が起こる事やら……其れは、神のみぞ、知る。
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