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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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――2002.02.28



「……遅過ぎるわ」

溜息と共に頭上の壁掛け時計を見上げる。少し前から幾度となく繰り返される動作。
学校から帰ってみると風邪で休んだ筈の双弟の姿が見えない事に驚いた。
母親曰く、鍋の傍から離れられない自分に代わり醤油と砂糖を買いに行ったと言うのだが。

「何処かで行き倒れてるとかだったらどうしようかしら」

流石に其処まで根性の柔い弟ではない筈なのだが、不安が過ぎる。
……確かに同年代の男子と比べ幾分体力に難ありだが、能力者の力を隠した状態での事。
病み上がりの身とはいえ、それを差し引いてもよつばマートまで行って帰るだけにしては……

「いいわ、その辺探しに行こう」

傍の書棚の懐中電灯を掴もうとした矢先、狙い澄ましたかの如く鳴り出した電話のベル。

「はい、掛葉木です。――櫻井先生? ええと、いちは今……え?」

電話の向こうは双弟の臨時担任。
告げられた言葉に、少女の表情が明らかに険しくなる。

「――分かりました、直ぐ父と連絡を取ります。……はい、わざわざありがとうございました」

受話器を置いて一呼吸の後、即座に再び持つと共に暗記している電話番号をダイヤルした。
……握り締めた手に、冷たい汗が生まれるのがはっきり分かる。

「もしもし、市立東小学校ですか? ……1年担任の掛葉木修平を御願いします」



――半刻後、市立総合病院。

黒味を帯びる焦げ茶の髪の長身の男がロビーに飛び込む頃には、雨は霙に変わっていた。
髪からぱたぱたと垂れる雫や濡れた眼鏡を拭う事もせず周囲を見渡す。

「――あの……失礼ですが掛葉木先生でしょうか?」
「……ああ、貴女が櫻井先生ですね。申し訳無い、今日は愚息が御迷惑を」
「此方こそ申し訳ありません、勤務中に御呼び立てしてしまって」

先生の事は息子から聞いていたが声を掛けられるまで分からなかったという話もそこそこ、
ロビーの隅の長椅子へ、其処で毛布に包まれ横たわる人影へ二人が近付く。
……不規則な呼吸と表情の抜け落ちた蒼白の顔、額にうっすらと汗の浮かぶ少年の元へ。

「……本当に申し訳ありません、風邪が治らぬまま外へ出て倒れるとか馬鹿の極みだ」
「いえ……風邪だけのせいでは無いんです。事故現場へ来なければきっと……」
「事故現場? 娘からは倒れたとしか」
「私が判断したんです、電話に出たのがお嬢さんだったので不安を煽りたくなくて」

学校から帰る途中の事故現場で偶然少年に遭遇した事。
風邪で欠席していた筈なのに外にいた事、何より水溜りに膝をついた姿でいた事に驚き、
駆け寄って尋ねてみたが何処か様子がおかしいと気付き……

「……現場に転がっていたマスコットを指して……気を失ってしまったんです」
「マスコット?」
「事故に遭ったのが誰だか分かってしまった、と。クラスメイトの持っていた物だと」
「それは……事実ですか?」
「……何度も確かめましたが、事実だったんです。掛葉木君はまだ知りませんが」

櫻井先生と呼ばれた女性が声を詰まらせる。

「事故後直ぐにこの病院に運ばれましたが……間に合わなかった、と」
「……そうだったんですか」
「亡くなった子は掛葉木君の友達だったんです、いつも笑顔で」



その日の夜半過ぎ、少年は静かに目を覚ました。

視界には見慣れた天井。暗闇と静寂。
自分の部屋に戻ってきていた事も服が着替えさせられていた事も、
無情に降り注いでいた雨の音が何処からもしない事も安息の糧とならぬままに。
生々しい音と共に大きく天井に広がっていく緋色の幻が彼の五感を絡め取り……

……魂切る絶叫と共に、意識は再び闇へ落ちる。


彼が再び起き上がれるまでに数日、
そしてあの雨の夜に起きた事を伝えられるのは更に数日後の事だった。

その日から、彼は少しづつ変わり始める。
自ら周囲との距離を縮め始め、笑顔が増え、手作りの菓子を教室に持ち込む事も増えた。
幼稚園から彼を知る悪友達は変貌に幾らか戸惑いつつもそれを受け入れ、
新しい学年のクラス替えが終わる頃には、それが元からの性格であるようにしか見えず、
余り好きではなかった筈の自転車を友人達とかっ飛ばすようになったのも、
料理の他に絵を描いたり図書館に他の分野の本を借りに通い詰めるようになったのも、
そしてあれだけ頻発した風邪すら殆ど引かなくなったのも、その日が境で。

物心つく前からその身に宿った水中呼吸の異能さを時々忘れては冷や汗をかき、
良く言えば純真、悪く言えば些か騙され易い気質を双姉に利用されて怖い目を見て、
その割に自転車を飛ばせば無免許チャリンカーと揶揄される程の大胆さを見せ、
何処にでもいる男子小学生として季節の移り変わりと共にあった。
年に一度、とある日だけ鞄とレインパーカーと共に何処かに行って戻ってくる位で。




――届いた入学書類と母親の薦めに従い、鎌倉での新しい生活が始まる迄は。
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