Open the Door.

白く儚い蛍の代わり。
今の御伴は留まらぬ風。

ほんの少し、又揺らいで変わる。
……本質が揺らぎ続ける水である事だけは、変わらないままだけど。


再び満月に近付き始めた、天頂の白い月。
もう、１ヶ月が過ぎようとしている。

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三度目の九州。
今度は、役目を果たせた。
……一度目の後悔と、二度目の無念との、先に。

夜闇の空を仰ぐ。
白い月の光が静かに注ぐ、鎌倉の地で。


銀の雨は奪う。命を、平穏を、常識を。
……それは何時か俺の夢すら、奪ってしまうかもしれない。
そして、決して立ってはいけないし立ちたくも無い宗主という座を寄越すかもしれない。

だから足掻いて、繋ぎ止める。
俺の他の誰かを護る為だけではなく、俺自身の為にも。
……例え未だに俺自身が一番俺の中で希薄だろうと、それ位は許されて欲しいけど。
そうでもしないと、又俺自身を置いてきぼりにするだろう事は想像に難くない。
逸れたって俺以外の誰も迎えには行けない事すら忘れて、そして壊れて消える。
壊れて消えて……何も残りはしない。何も届きはしない。


もう。
失くすわけにも壊れるわけにも逸れるわけにも、消えるわけにも、いかない。
……やっぱり、泣かれるのは厭だから。
殴られようが罵られようが絶縁されようが、というのは何故か受け流してしまえるけど。

俺の事で泣かれるのは。

今此処で、ありとあらゆる拷問の末に殺されるとして想像する痛みよりも……痛いし、辛い。
それはあの元日の夜に、痛い程思い知った。
何よりも此処に帰れない事が一番俺には辛いのだと、やっと、自覚した。



その扉には。
鍵も鎖も留め金もつっかえ棒も、もう無い。
ほんの少し押せば、開く。

さあ。
立ち竦む時間も躊躇う時間も過ぎた。



――走ろう。
俺の名前に込められた、無限の道へと。