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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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明けて、1月2日。

清めの儀式から始まり粛々と儀礼が執り行われた前日とはうって変わり、
華やかな祭礼や舞踊、歌唱、演奏等諸芸の披露が続く総揃いの中日。
故に矧で芸事に長じた系譜である宍矧の者にとっては最も重要な日である。

注目されているのは宍矧首座のみ舞う事が許される『黄香』初の披露となる椎名茅都、
彼の代名詞ともされた『嫦娥』の舞い納めと噂される高澤夏来の二人。
将来を期待される宍矧の若き舞い手に追い付き追い越そうとする子供達も今日の主役。

総揃い末日となる明日は今回最も重要かつ難解な儀礼とされる『三祷』奉納の予定だが、
その奉納者たる暁降月主は怪我の治療の為今日一杯療養として表には出ないという。
初日に何をすれば負傷など出来るのかと首を傾げる者あり、無言を貫く者あり。


――そして、天意を得たりとほくそ笑む者あり。





--------

『黄香』が宍矧首座のみ許される舞いと言われる所以はその衣装の色にある。
首座の色、黄檗色を地色として刺繍された金色の龍が悠々と縦断する、壮麗な衣装。
珍しい事に先代、当代と女性がその座に就く首座だが、衣装負けしない貫禄は流石である。

「首座様、首座様。帯はきつくは御座いませんか?」

慣れた手つきで衣装を着せていく少女の問いに、黄檗色の衣を纏う女性は横に首を振る。
その仕草に笑みを返して着付けを続ける彼女、付き人にして実は珍しい事に尭矧系譜。
宍矧首座の母方は尭矧に縁を持つ家であった事もあり、幼い頃からの親友同士。
首座が最も心を許す存在である。

「さあ、後は冠だけ。首座様の黄龍の舞い、わたくしも端っこで見てま……何者だっ!?」

突如語気を強めて誰何した彼女とほぼ同時に、忽然と膨れ上がる気配に身構える首座。
次の瞬間音も無く現れる数人の黒服。

「異能無き付き人は無視しろ。強者とて首座は拳士、近づかねば被害など無い」

中央の黒服が哂い、己が影から幾つもの腕を現出させたその、瞬間。

「――ようこそ、鼠捕りの中へ。心より歓迎するわ」

艶やかに笑む黄檗装束の“首座”は、黒服達に向けた右手から紅蓮の火球を撃ち出した。



『嫦娥』とは月の仙女を意味する。本来はその名の通り、女性が舞う演目。
しかし幼少の頃より女形として舞台に立つ事の多かった高澤夏来は例外中の例外だった。
演じ続ける事で子供から大人へと移り変わる『嫦娥』に魅了された者は数知れず、
故にこの総揃いでの舞い納めと言う噂を残念がる者は矧の中にも多い。

薄衣を幾重にも重ねた事で繊細さ儚さ、神秘さを演出する衣装。
幾分細身とはいえ男性である高澤夏来の体型をおぼろげにする為の細工も施されていた。
今は生まれつきの灰がかった黒髪ではなく、長く垂らした濡羽の髪の鬘を被っている。
その上から薄衣を被衣のように被せている為外からは表情は分からない。

「……神童の嫦娥、見たいのは山々だが仕方が無い。付き人無しとは油断したな」

衣装を纏い窓辺に正座していた夏来の背後に音も無く湧き出した黒服数人。

「大人しくして貰おう。符術士の体力では抵抗も無駄だ、助けを呼ぼうにもおしだと言うしな」

嘲笑う黒服の言葉に何かを感じたか、ゆらりと立ち上がる夏来。

「――当たり前やん、一般人の付き人なんて傍にいたら怪我させてしまうけんね」

黒服達がその言葉遣いに違和感を覚えた時には、もう遅く。
次の瞬間、銀髪翠眼の“高澤夏来”が三日月の軌跡を描く蹴りを叩き込んでいた。



「昼食の準備が終わったらあの二人の演目よね。……急いで片づけましょ」
「いちと違って私達は何もする事ありませんからね、あいつも無茶するの大概にすればいい」

敷地内の小さな蔵の前、珊瑚色の陽主装束姿で蔵の扉を見上げるはたると、
漆黒の正装かつ何処も彼処も他人だらけという環境の為か、猫被りの共通語で応える彩晴。
月主と違い重要な面倒事を抱えている訳でもなく、重要な地位と言う訳でもなく、
する事もさして無いので2日目からは裏方に徹する事にしたらしい。
とはいえ建前上は何もしてはいけない筈の暁降陽主のはたるだが、知った事かと一蹴した。

「一人だけ休んでいるのも癪なんだもの、手が足りない所は沢山あるんだから」
「此方も尭矧、掛葉木両家の御爺様達や父母ばかりに御役目が回ってますから暇で暇で」
「……大丈夫かしら、いち。昨夜発見されてから様子がおかしいのよ、ずっと」
「私が間に通されないのは兎も角として、姉のはたちゃんまで謝絶なんて普通じゃない」

知らず重なる溜め息。
少しの間の後、扉を開けようと鍵束から蔵の鍵を探そうとした、刹那。
木々の間から忽然と湧き出す黒服。……2人相手だからか、他の襲撃より幾分多い。

「陽主は間を詰めて腕力で、尭矧の餓鬼は遠方から理力で叩け。連携させるな!」

下卑た笑みを浮かべて指示を発する黒服の周囲から幾人かが走り、幾人かが構える。
だが魔弾が得手の筈の“陽主”は逆に間合いを詰め、拳一発で先頭の黒服を地に沈めた。
何事かと目を剥いた頭役も次の指示を出す間も与えられず導眠符にて無力化された。
絶妙のタイミングで符を放ったのは、灰がかった髪に黒い瞳の“尭矧彩晴”。

――紛う事無く、イグニッションにより普段通りの姿に戻った“椎名茅都”と“高澤夏来”。

「おやおや、何処かで見た顔が何人も混ざってるね? 宍矧首座に挑むなら来い!」
「残念だけど理力はオレの得手なんだよ。さあ次に破魔矢辺りで射抜かれたいのは誰だ?」



同刻、宗家。
布団の上で上体を起こし湯呑を両手で持ったまま微動だにしない包帯塗れの人影。
生気の失せたその様子に、朝から付き添っていた堤典杏の表情は曇ったまま。

「……たった一晩で何があったというの。運命予報で人と人との諍いが見えていれば……っ」

これが禍津の仕業ならば必ず予報の形でその兆候が現れた筈。
そうでないならば……人の為した事。
何も出来ないという自己嫌悪で肩を震わせる典杏へ、そっと生姜香る葛湯を差し出す者。
その面より納曾利と呼ばれる以外は何処の誰だか全く分からないが、朝からずっと一緒。
自分が看ているから少し休むと良い、と手振りで申し出る者に小さく首を振る。

「……いいえ、此処にいます。御家族ですら入れないこの場所を任された責は果たします」

気丈に振舞う彼女の返答に小さく頷く納曾利は、しかし次の瞬間弾かれた様に天井を仰ぐ。
納曾利が両手に短刀を構えたとほぼ同時、ばらばらと降り立つ黒服の群れ。

「――ほう、術に堕ちたという報告は真だったか。まさに壊れ果てた木偶のようだ」

その黒服の言葉に包帯の人影が幽かに身動ぎしたのを、彼は気付いたかどうか。

「金髪の子供は無芸だ、捨て置け。納曾利は完膚無く潰し、包帯色の木偶は主に届けよ」

その指令を受け数名が納曾利を牽制し、残りが一斉に布団の上の人影に迫る。

……だが。

「――次は痛みも辞さぬ、と言った筈だ!」

布団の上の人影が包帯塗れの右腕を払った瞬間、蔓延る茨が殆どの黒服を縛り上げた。
想定外の光景に反応が遅れた他の黒服も納曾利の的確な攻撃により畳に倒れ伏す。
動きに邪魔な包帯を毟り取った人影、“佐々木苑夜”の表情は静かな怒りに満ちていた。

「我らが主、暁降月主がちゃちな術如きで堕ちると自惚れたか! 驕りも甚だしい!」

裂帛の気合と共に放たれた植物の大槍が茨の黒服達を一瞬にして昏倒させる。
……立っているのは、頭役の黒服ただ一人。

「……なるほど、月主は未だ正気か。罠で捕えろと命じたのだろうが……それは無理だ」

にやり、と哂う。

「例え『夜の矧』とて同姓の者は手に掛けられぬ。此処にいるのは皆宍矧、自分も宍矧でな」

「――へえ、そうなんだ?」


しゅるり、と面の紐が外れる音。


「――だったら、掛葉木の俺なら捕えるも殴るも蹴るも息の根止めるも自由自在だよな?」


からん、と面が畳に落ちる。


「……な、に……!?」
「残念だったな、てめえ等の動きは全部筒抜けだ。いや、正確には俺達の掌の上だったか」

――何せてめえに報告した斥候、完膚無く潰して嘘報告するよう脅したのは他ならぬ俺だ。

音無き旋風が解放する濃藍の装束と異能、悪戯小僧の笑みと殺気の籠る瞳。

「……暁降、月主……!!」



彼が地下壕の扉を木っ端微塵に破壊して脱出した直後、周辺を警戒していた黒服に遭遇。
一切の容赦無く(そして苑夜の束縛の異能も駆使し)撃破した後、笑顔で“脅迫”した。
黒服全員の名前を当ててみせ、各矧のトップに重罪人報告上げられたくなければ従え、と。
……血塗れ殺気塗れの童顔少年に燕刃刀ちらつかされれ脅されれば頷首したくもなるか。

そういった経緯でわざと要の子供達の予定を筒抜けさせ、自分は宗家監禁だと偽らせた。
何処にどの矧、どの異能の誰が居るかという情報が手に入れば必ず襲撃者側は動く筈。
しかも宍矧だけ揃えた月主襲撃組のように捕獲を困難にする知恵位は潜ませて来よう。

……いちるの『予定を最大限逆手に取る』という罠は、この偽装工作があってこそ。

要役の位置を交換し、その場の矧の家の数すら変えておけば撃破も捕獲も容易に出来る。
賭・鷹・獅子全ての矧を各地に揃え、それでも足りない矧は『夜の矧』を密かに潜伏させ、
とどめとばかりに自分は納曾利の面を被るという存在の偽装を図っていた。
手にする面を偽るのは『夜の矧』最大の禁忌だが、許される者がたったふたりだけ存在する。
通例の主たる宗主と、真の主たる暁降月主と。





――全て、いちるが“5歳の時に”頭領達や宗主たる祖父から受け継いだ知識を駆使して。
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