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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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周囲が、白い。

雪原のど真ん中みたいな、真っ白の風景。


……まさかとは思うけど、もしかして死んだかな、俺。
何もかも全部、終わったのに。

鎌倉……戻れなくなっちゃった。
約束、守れなかった。

もう謝る事すら出来ない。
戻りたかったのに。

あの場所に。






--------

立ち上がって周囲を見渡す。
限りなく真っ白な、何処までも真っ白な風景。

……いや、違う。
ほんの幽かにだけど、白じゃ無い色の何かが見える。
行ってみよう。
此処で立ち竦んでいても何も変わりやしない。


近付くうちに、それが見えてきた。

虹の橋。
虹色の橋ではなく、本当に虹そのものの、橋。

……これがあるって事は、やっぱり俺死んだんだろうか。
だって、これ黄泉津の産物なわけで……。


「だめーっ、いちるくん橋にさわったらだめだってばーっ!!」


耳を疑った。
もう聞ける筈の無い声。

振り返る。
そんな事あり得ないと、思いながら。


「おひさしぶりー、いちるくん。ほら、くなぎもちゃんと元気だよ?」


記憶のままの。
怜と、くなぎだった。



「……嘘だろ……怜、くなぎ……」
「うわーうわー、すごい背が高くなっちゃったんだねいちるくん。見上げなきゃ見えないや」
「……あ。わ、悪い。俺座った方がいいな」

慌てて腰を下ろす。180目前の身長は、怜には高過ぎる。

「……怜、変わって、ないな……はは、そりゃ、そうか。変わってる方が、変か……」
「えー、いちるくんも変わってないよ? 背はのびたけど、ほかは」
「……それはつまりまだ俺童顔だって事だよな……? そ、それだけは結構凹む」

言葉が、出て来ない。
必死に紡ぐ。
泣かないように。

「……あれから7年、いや、来月で8年か。怜と、逢えなくなったのは」
「あれ、そんなに経ってるの? ぼくはあまりそう感じないけど」
「経ってる。……もう俺は15歳で春になったら高校生だぜ? 勿論俺だけじゃないけど」

一真も、篤輝も、千奈ちゃん結ちゃんも……はたも、彩晴も。

「……怜とくなぎは、ずっと、此処に? ふたりだけか?」
「んとね、お母さんやお父さんやほかのみんなもいたよ。後はね、さくらいせんせいも」
「……櫻井先生……?」
「うん、すこし前までいっしょだったよ。先に橋のむこうの船にいったけど」

言葉が、形になってくれない。

「……先生、何か言ってたか? ……俺の、事」
「んとねー、いちるくん、すごくカッコよくなってたって言ってたよ?」
「……そ、それだけ、か……?」

……いや、本当にそれだけかもしれない。
怜、嘘吐くの物凄く苦手だったし表情に出るし……って俺と大概変わりないな、これ。

「ねえ、いちるくん」
「……どうした、怜?」
「あのね、ぼくとくなぎ、もしかしたらもうすぐ会えるかもしれないんだ」
「へえ、誰に?」

「誰になんて聞かないでよ。他の誰でも無い、君にだよ――いちる君」

時が止まる。

俺の前にいるのは、くなぎと……怜の面影を残した、俺と同い年位の少年。

「実はね、此処にいる僕とくなぎは君宛の僕の最後のお手紙ってところかな。
もう僕とくなぎは、この橋の向こうの船に乗って此処を離れてしまっているから。
だから君に逢いに行けるんだけどね。この虹の橋の遥か下にいる、君に」

笑い方も喋り方も、怜のそれ。
もしあの日逝ってしまわなかったら、今頃は、彼を怜と呼んでいたのだろうか。

……いや、一寸待て。今、怜は俺が今何処にいるって……

「……待って、俺、まだ、死んで……ない?」
「死んでないってば、物凄く深く眠ってるだけ。でも本当に無茶し過ぎだよ?」


滴が頬を伝う。
堪えていた心が、溢れて。


「大丈夫だよ。直ぐに逢えるから。僕やくなぎは兎も角として、君にとって大事な皆にね」
「……ばかやろ、怜だって、くなぎだって俺には大事だよ。そんな事、言うな……っ」
「ありがとう、その言葉だけで僕は充分だよ。でもね、余り過去に心残したままにしないで。
そりゃ突然人生終わっちゃったけど、それでも僕はとても幸せだったんだから。
暖かい家族だったし皆に逢えたし、くなぎにも出逢えたし。悔いは殆ど無いんだよ」
「……俺は後悔ばっかりだよ……くなぎクッキー、ちゃんと渡せなかった」
「大丈夫だってば、僕の所にはちゃんと届いてたよ。毎年毎年、沢山。皆で分けたもん。
凄い美味しかったってお礼言えないのと、もう泣かないでって言えないのが悔しくてさ」

だけど、と。

「去年は、泣かないでくれたから。だから、虹の橋の向こうの船に乗る事にしたんだ」

此処で7年ぶりに逢った櫻井先生と一緒にね、と。

「……先生と?」
「うん、3人で一緒に。先生、船に乗るの凄い怖がってて、だから手繋いで一緒に」

……怖がる?
いや、リリスで先生な櫻井真史に怖いものなんて……あ、ええと、まさか、俺、か?
待てそれは無いだろ先生が俺怖いとかそんな筈絶対無い絶対に……っ!
というか船に乗るだけでそう怖い事なんて無い筈だろ床が揺れるような感覚位で……。

浮かんだ突拍子も無い想像を振り払おうと物凄い勢いで首を振る俺。
怪訝そうな顔でそんな俺を見ている怜。

「まあそんなわけで、皆で船に乗ったから皆で逢いに行けると思うんだ。必ずね。
ちゃんと見つけてねって言いたいけど、こればかりは運命の神様の匙加減次第かなぁ。
……あ、もうお手紙の時間切れっぽい。姿が解け始めてるから」

その言葉通り、姿が金色の糸のような光になって薄れ始めた怜とくなぎ。

「もっと話がしたかったけど、伝えたい事は全部伝えたし。これで悔いは全部おしまい」
「……なあ、怜」
「どうしたのいちる君」
「……繋ぎ止めてたのは、俺だったのか?」

この場所に。
ずっと。

「此処にいたのは僕の意志、そしてくなぎの意志。だから気に病む事なんて何も無いよ」
「……少しは気に病ませろよ。だって、さっき、俺が墓前で毎年泣いてたからだって……」
「あ、そうそう知ってる? 死んだ人への涙って死んだ人の魂を濯ぐ一番の水なんだって」
「はぐらかすな! 答えろよ!!」
「本当の事だってば! ……ふふ、やっと泣き止んでくれたね?」
「……あ」

止まっていた。
あれほど流れ続けていた、涙が。

「だって最後位、笑顔でさよならしなきゃ。いちる君もだけど……僕もね」
「……僕も、って」
「最初に声掛けた時、必死だったもん僕だって。絶対泣いちゃだめだって」

笑う怜。暖かく、あの頃と変わらない笑顔。

涙の跡を手の甲で拭い、何とか、笑ってみせる。
……酷く淋しい笑顔になってそうだと、思いながらも。


金の光の糸が解けて消えていく。
白の風景と虹の橋の傍に残されたのは俺ひとり。

その俺の身体も、対であるかのように銀の糸の光になって空を駆けていく。
意識が薄れていく間際、虹の橋の向こうに見えたのは。


……船と言うよりは、翼を広げた鳳のような、優美に煌めく光の塊だった。
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