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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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≪状況整理≫
最早一夜の嘘を通り越し結果的に他次元パラレルの様相を呈した四月馬鹿SS
しかも今回、世界観の共有者それぞれの視点によるSSが出揃ったという……。
……ゴメンなさい発端は自分ですね自分だよそうに違いねぇ絶対そうだorz

と いう わけで 。

殺し屋さん刻時の御嬢様のSSを受けて最後の断章を、ふたつ。
そして所々に男らしい社長さんの影も見え隠れ。多分関係者中ある意味最大の勝利者。
一応個別に区切った断章ではあれど続けて読んでも繋がるようになってはいる筈。
……むしろ繋げた方が救いがある? あーあー聞こえない何の事でせうねー。


なので四月馬鹿SS完結タイム最下位の称号は此方で回収にて候orz>渕埼先輩の後ろ様




--------

“――仮令、其の時も。”

風が渡る。
星々の河を、静かに風が渡る。
静寂が支配するこの場所に。

銀の舟には暫しの同乗者。
心が癒えるその時まで、再び旅立つ意志を抱くようになるまでの同乗者。
金の時計を携え黒い兎の耳を持つ銀髪の少女が、此処に。
俺が“客人”の願いを捉えるより早く、彼女は彼等の来訪を捉えて俺に告げる。
――声を持たぬ彼女は、俺の装束の袖を引き彼方を指差す事で告げる。

彼女の名は、“ユエ”という。
かつて彼女と共に在った存在がそう呼んでいたから、俺もそれに倣っている。
……時折、しかし彼女はその名前を、己の物ではないという表情を微かに浮かべる。

俺に課せられた禁忌を引き千切りかけてまで彼女の許へと辿り着いた時、
彼女は止まらない涙を黄金の瞳から溢れさせたまま、たった一人で泣いていた。
共に在った筈の存在――あの人の姿は何処にも無く。
そしてあの人の存在そのものさえ覚えていないという表情の、彼女がひとり。
何より……ユエと言う名前が誰を指しているのかすら、分からないという表情で。

何故此処にあの人が、あれ程までに縁と絆を結んだ存在がいないのか。
何故彼女があの人の、何より彼女自身の名前すら分からなくなってしまったのか。
……俺には何も分からないし、分かる手段も持ち得ていない。
ただ、分かったのは。
魂切る程に、哀しいと、淋しいと。
声を持たぬ主の代わりとばかりに溢れ流れていく、涙の放つ想いばかり。

何故俺はそうもまで駆られたのか。
何故あの場所へ、彼女の許まで行かなければと思ったのか。
何故……この手を、彼女へと伸ばそうとしたのか。

……未だに、俺自身にも分からないけれど。


「――ああ、やっとこっちを見てくれるようになったのね」

ふたり舟の上となって暫く後、すれ違った舟の主にそう声を掛けられた。
俺の操る銀の舟銀の櫂とは対のような、淡い金の光を放つ舟と櫂。
鮮やかながら落ち着いた色味の、裾を引く緋色の装束を纏った黒い髪の少女。
――俺に、何処かが似ていると思わせるような金の舟の主。

……それ以前に。
この星の河に漕ぎ出す絢爛豪華な星の船達に俺の存在は知覚出来ようも無い筈で。
俺の表情に疑念だの何だのといったものが滲んだのだろう、相手は艶やかに笑み。
緋色の主曰く、どうやら俺と概念の似た存在なのだ、と。
過去へと誘う俺のように、彼女は訪れた“客人”に未来を見せる事が出来ると言う。
対価が必要な事も同じ。俺は寿命最後の一年で、彼女は今の若さを一年。
今突き付けられた選択に迷う“客人”に、その選択のうち片方の未来へと誘うのだとか。

「大体両方見せろというのだけれど、来る者来る者。だけれどそれは叶わない事よ。
片方の選択の先が見える事自体本当に幸いだって事を分かって欲しいものね、切に」

そう言って笑う彼女は、今まで俺が見てきた数多の“客人”達の誰よりも人間らしく見えた。
少女の姿を取るにもかかわらず、子供にも老人にも男にも女にも見えてしまう錯覚。

「しかしそれにしても、目に色が宿るようになったのね。隣の黒耳さんのお陰かしら?」
「……何の、事だ? 色が宿るだとか、それは」
「いや、今までの君ってホント人形みたいな感じだったから。熱も心も無い人形よ、一見。
真っ黒くろすけの目は光も映さないし、面の下の顔だって白いし何より面外す事も無いし。
でも、ここ最近はこっちにも気付いてくれたし目が優しいし表情変わるようになったみたい」

釈然としない表情を浮かべているのだろう俺を意に介さずユエに小さな包みを手渡す彼女。
何事か喋っているようだが俺には聞こえない。彼女の話に時折頷くユエの耳が揺れる。
小さく息を吐く俺に飛んできた物を反射的に掴むと、ユエの手の中の物と同じ紅色の包み。
口にした途端目を輝かせたユエの様子を見遣り、同じように口にしたが……何も感じない。
首を傾げて投げ寄越した当の彼女を見ると……何故か神妙な顔で俺を見つめていた。



気が付いた時には、星の光が失せた河の上。青白い一条の光が支配する場。
色無き岸辺の傍まで来ていたのだろうかと周囲を見遣り……ふと、覚えた違和感。

……隣にいる筈の、ユエがいない。

違和感は直ぐに納得へと変わる。
心に刻まれた傷が癒えたから、その時が来たから旅立ったのだろう、と。
けれど、何かが……引っ掛かった。
そして、その理由に気付いた。

舟の中に残された金色の時計。
針が巡り音を立てて時を刻み続けていた筈のそれは、今はただ沈黙を守るのみ。
――動いていた筈の、ユエが持っていた筈の、動かない金時計。
旅立つ時に必要が無くなったのだろうかと思ったが……やはり何かが引っ掛かる。
ユエはクロックラビット・ノワール。刻時の少女。
絆を結んだ相手の為、代償を払う事無く自在に時を操る存在。
その時を操る為に必要な筈の時計を、もう戻れない此処へ置いていくなんて事は――?

時計を拾い上げようとして、俺は『それ』に気づいた。

周囲に散らばる銀の輝き。
そのひとつに触れると揺らぎながら淡い燐光を発し、そして儚く砕け散っていった。


――その兎は使役ゴーストって言ってな。詠唱銀と思念で生まれた存在だって言うぜ?


己に正直過ぎるあの青年の言葉が蘇った。

詠唱銀と、思念。思念と……触媒。
この銀の破片達が触媒だと言うならば……その対になるべき思念……ユエの、心、は?

止まってしまった時計。
それは……ユエがユエとして存在出来得る時が尽きたと、言う事なのだろうか。
心癒えぬまま。
あの人を思い出す事の遂に無いまま、遂に逢えないまま。

それとも触媒という枷よりユエの想いが解き放たれ旅立ったと考えるならば。
心焦がれていたあの人に、遂に逢えただろうか。
あの人を思い出す事が、絆を再び繋ぐ事が出来ただろうか。


手の中の時計に滴が落ちる。
ぽつり、ぽつりと。
零れていく滴は銀の破片にも降り、燐光が瞬いては消えていく――




「――おい、大丈夫か? つか死んでんじゃないだろうな!?」

不意に頬を叩かれたような痛みが走り、意識が覚醒する。
はっきりしていく視界の中にはあの漆黒の髪の青年。後ろに常の護衛付きで。

「……今日も来たのか……?」
「目を覚まして開口一番がそれか!? てっきり死んでんのかと思ったぞ!!」
「……貴殿みたいな人間がいる限り存在が果てる事は天地返ろうとも無い筈だが」

……舟に乗る事よりも愚痴だの壮大な未来構想だのを語る事が主体になりつつはあるが。

「そっちのクロックラビットが血相変えてお前の肩揺すってたから平手食らわせたんだよ」
「……頬が痛いのはそのせいか」

黄金の瞳に涙を浮かべ装束の袖を掴んでいたユエの手に、大丈夫だよ、と告げて触れる。
触れれば俺の身の蔓が彼女に絡まないか躊躇いつつ、そっと頭を撫でた。



流れて戻らない時は俺の傍を通り過ぎていくだけ。
森羅万象から切り離された俺の存在は、森羅万象尽きる其の時まで此処に在る。

……だから、ひとりにはしない。


此処に此の舟にいる事が、君の選んだ意思ならば。

君の一途希う願い果たされる其の時が至るまで、俺は君の傍に在り続ける。

心癒えて旅立つ時が来たら、君の望む場所まで送り届けよう。

仮令、仮令……旅立つ事無く遂に君が、金の時計を残して還ってしまったとしても、

俺が此処に在り続ける限り……俺の枷と軛が朽ち尽きる其の時まで、傍に。


――君には告げぬ、俺の全て懸けた約定を此処に。





-.-.-.-.-.-.-.-

“あなたが希うからこそ”

「あら、良く似合ってるじゃない」
「……そうなのか?」

淡く白く涼しい月光を宿す花が満ちる草原。
緋色の装束を纏い淡き金の櫂を携えた少女の言に、何と返せばいいのか分からない。
決して只人には見えぬ色無き蔓――それは森羅万象の枷と軛――が元々絡まる俺だが、
そこに月光花の冠を被せられた姿というのは……一寸、想像が、難しい。
首を傾げる俺を後目(しりめ)に、似合ってるわよねと問う彼女に笑顔で頷くユエ。
そして各々花冠を編み始めたふたりに、何故かひとり置いて行かれたような感情を抱く俺。

……何故だかは、分からないけれど。

此処は草原の上。楔と軛とで縛られた舟の上では、無く。
降りられぬ筈の舟はこの草原の端の砂浜に。俺の銀の舟と、少女の金の舟と。
この櫂さえ手の届く位置に在れば舟から離れても蔓に縛められ縊られる事は無いらしい。
……そうなったのは、本当にほんの少し前の事だ。
ユエの許へ辿り着こうと星々の河に飛び込んだ時はあれ程俺の首を縊ろうとしていたのに。
とある宵に目を覚ました時、首に掛けられた鏡に気付いた其の時から、そうなった。
星々の光を吸い込んでは幽かに輝き、水平線の先を示しては舟を数多の場所へと誘う。
この月光花の草原も、そうやって見つけた場所のひとつで。
舟の上にあるばかりではユエの心が晴れぬのではと密かに思案してはいたのだが……。


舟の道行きがユエとのふたりになった少し後、俺は緋色装束の黒髪の少女と出逢った。
……正確には遠く遠く遥か昔からすれ違っていたらしいが。
ただ俺は全くそれに気づかないままで、今回漸く存在を知覚したという事になるのだけど。

彼女は、俺と対のような存在なのだという。
改変したい過去へ誘う俺と、選択の先の未来へと誘う彼女。
寿命最後の一年が必要な道行きの俺と、今の若さ一年が必要な道行きの彼女。
銀の舟と櫂を操る俺と、淡い金の舟と櫂を操る彼女。
人として生きる事無く此処に在る俺と、数多の人の魂により此処に在る彼女。
森羅万象の楔と軛とが色無き蔓の形をした俺と、色無き鎖の形をした彼女。

俺の誘う道行きの末に業の終末を迎えた客人の魂は、形代だという彼女の身に還り宿る。
……俺の身の蔓に芽吹く葉、むしろその蔓そのものが彼女の鏡なのかもしれない。
逆に彼女の誘う道行きの末に透かし見た未来へ繋がる選択肢は選ばぬと客人が決めた時、
彼女の身に絡まる鎖はひとつ数を増やし……葬られた選択は俺へと還り宿るのだという。

「一度だけ、この鎖が半分位粉々になった時があったわ」
「……そんな事が在り得るのか? 楔と軛とがそんな簡単に……」
「あり得たからこその話よ。……だって、それはつい最近の事だもの」

……思い当たる事が、ひとつ。

「……ユエが俺と舟に乗るようになるまさにその直前なんだろ、それ」
「あら、やけに察しがいいわね。……そうよ、あの黒耳さんを見かける直前よ。
確かにこの形代に還った筈なのに掻き消えてしまった魂の存在を感じたその直後だった。
ばらばらに粉々になっていく鎖を見て呆然としたわ。一体どうして、って。
……この鎖が全て粉々になれば私は解放されるかもしれないのに、そうなる事を恐れたの。
壊れないで、砕けないで、どうか止まって、って。そう祈るうちに、元に戻っていったわ」

……ああ、やはり。

「……お前の許に還った魂が突然消えるなんて事は在り得るのか?」
「前代未聞よ。……うっすらとだけは覚えているの。その魂の辿った記憶と、知識は。
だからあの黒耳さんの呼ばれていた名前も、『君が口にするより先に』知ってた。
でも、その魂はこの形代の何処にも無いのよ。まるで、時が巻き戻ったかのように」
「時が……巻き戻る……そんな事、在り得はしない筈だ」
「……でも、あの黒耳さんは時を操る存在でしょう?」
「確かに、そうだけど……でも、だったら」

時を操り巻き戻す事が出来るのならば。
……あの人に何が起きたとしても、その力で無かった事に出来る筈だ。
悪い事は起きなかったのだ、と。
だけれど、ならば何故ユエがあの人の存在を完全に忘れてしまったのか?
何故たったひとりでユエが泣かなければならなかったのか?
そこが釈然としないのだ。
巻き戻してその選択を選ばないようにするだけだろう筈なのに、何故……?


――それでも、変えたかったのさ。その為に、闇の世で生き続けた。この手を血に染めて。


……それはあの人の言葉。
変えたい過去に囚われ、この星海の畔に至る為に他人を殺め続けた、と。
裏返せば、星海の畔……俺の操る舟以外では彼の過去は変えられなかったという事か。
ならばユエに、過去そのものを巻き戻す力は無かったという事になる。
もしかしたら本当に本当に短い時間だけを操る力しか無かったのかもしれない。
それだけでも、時を操る術など得られぬ人間には充分過ぎる力だっただろうけれど。

だけど……現に時は巻き戻った。
俺の身の蔓の葉が消え、緋色の渡し守に還った筈の魂も消えた。
――あの人は『星海の畔には来なかった』のだ。今流れ続ける時の中では、そうなった。
そして、あの人と絆を結んでいた筈のユエは、たったひとりに。

只人に……人間に時を巻き戻し進める力を森羅万象は決して与えはしないだろう。
楔と軛とを課せられ此処にいる俺と緋色の渡し守ですら、誘うだけでしか無い。
それも希う人間達の生命そのものを費やさせねば、叶わぬ話なのだから。
なのにも、かかわらず……。


目を落としていた視界がふと薄暗くなった事に気付いて、顔を上げた。
それとほぼ同時に月光花の首飾りを付け花束を抱えたユエが俺の目の前に座り込む。
暫く俺の顔を見上げていたユエは、不意に花を持つのと逆の手で俺の額に触れた。

「“何処か具合でも悪いのか”、って。額に触れて熱ければ熱を出している事が分かるから」

ユエのその仕草の意図が分からない俺に、黒髪の渡し守が声をかける。
人間たる何もかもを知らぬ俺にとって、人間たる全てと同じ彼女の知識は大きな助けで。
そう言えば、俺に触れるユエは酷く不安げな表情を浮かべている。

「ほんの少しの事でもあっけなく人間は死ぬわ。だからほんの少しの兆候でも不安になるの」

ただの風邪をこじらせて、ただの頭痛が脳を蝕み、ただの痺れが全身を壊して、あっけなく。
強靭でしなやかなようで脆く儚い。でもそれは人間だけでなく全ての生命が同じだけど。
……そう彼女は言った。
だが俺や彼女という存在は、そのあっけない結末とは縁の無い存在である筈で。
あの時目を覚ました俺の隣にいたユエにも約束した。俺が君より先に消える事は無いと。
ユエより先に、此の身が解き放たれる事など万にひとつも在り得ないのだから。
在り得ないのに……どうして、ユエは此処まで俺の表情ひとつに不安がってしまう……?
決して消えはしないと言った俺がそれでも消えてしまう事を、懼れて……?


――まさか。


まさか、とその推測に至った刹那、何かが頬を伝う感触。

ユエがひとりになった事そのものが、ユエ自身の選んだ事だったなら?
あの人との絆も名前もユエ自身の名前も忘れてしまったのが、自身の選択の結果なら?
此の世全ての時が巻き戻り全てが無かった事になった、甚大な天変地異。
……それ程までの甚大な事象の代償として絆も名前も全て、費やしたのだとしたら……?

――あの人の過去を救う為に、ユエがその身に持ちうる全てを懸けたとすれば――?



銀の舟の上。
泣き疲れ俺の肩に寄り掛かるようにして眠ってしまったユエの隣、宙を見上げた。
……あの後、不覚にもユエの前で涙をひとつ零してしまった後、
驚愕の色と共に顔を強張らせ慌てふためく末に泣き出したユエを宥めるのに半日を費やし。
畔に戻った後も俺の装束の袖や被衣の端を握りしめて離そうとしないままで。
足繁くよりは日参と言った方がむしろ正しい、大鎌護衛を侍らせる漆黒の髪の青年が訪れ、
たまには土産でもと異郷菓子を携えて来たがそれも泣きながら、それでも口にしていた程。
ゴーストとはいえ何子供泣かせてんだと非難され……一体彼に俺はどう見えているのかと。
あの口ぶりだと俺の“本質”らしき背高の子供には見えていないのだろう、と推測はしたが。

同じ眠るにも肩に寄り掛かるより膝枕にでもした方が身体には楽だろうかと思案はすれど、
此の身の蔓がもし……と思うと、結局ユエに触れる事が出来ないまま時は過ぎ。

……懼れ、なのだろう。
此の蔓は俺の業。……俺“のみ”の業で在らねばならぬ枷と軛。
決して、決してユエをその業に触れさせても巻き込ませてもならない、永劫の業。
もし万が一そんな事になってしまえば……俺はこの手を潰す程に悔やむだろう事は明確で。
あの時ユエに手を差しのべようとせねば、禁忌を冒さねば、そうはならなかったのだから。
……だけど……でも……。

「……君の願いを叶える力が在ればいいのに」

掠れ声で呟いた。

「……君の心を真に癒す術が、俺の中に在れば……あの人の許へ連れて行けるのに」

人の心を、想いを察する術を得たが故なのだろうか……この、胸に宿る痛みは。
苦しく哀しく、熱を帯びる、痛みは。


胸元の鏡がおぼろげな光を宿して瞬いたのは、その刹那。


彼方を、光が指し示す。
そして涼しい一陣の風に乗って届いた、忘れ得ぬ声。



――あの“誰か”に会いたい。



呼ばれた。
希う声に。
ユエが彼女自身の全てを懸けてまで助けたのだろう人の、声に。

瑠璃色硝子の灯が強く燃え上がる。
彼方へ向かわんと、煌々と。
未だ端を握りしめられたままの被衣をユエの肩にそっと移し、櫂を握る手に力を込める。

星海の畔での選択は、生涯唯一度きりの選択。
過去か、未来か。
一度どちらかを叶えてしまえば、二度と畔に辿り着く事すら許されない。
此処について記された何がしかに触れたとしても、瞬きひとつの後には忘れ去ってしまう。
その身体と魂とが終末を迎え、新しい魂と身体とで生まれ直らねば、決して叶わぬ事。
……だから、あの人はもう、“此処を知る事”すら出来ない筈なのに……!

呼ばれた。
ユエを希う声に。
ならば、俺の道行きは決まっている。

此処に辿り着けないあの人に呼ばれたのなら。
此の舟ごとあの人の許へ辿り着けばいい。

――俺には、此の舟にはそれが許されているのだから。

「――望みには、手段を」

希うなら、此の手を。
それが俺の業。俺の道行き。

いつの間にか目を覚ましていたユエが俺の袖を引く。
見上げる彼女に、不安げな黄金の瞳に、心から笑ってみせた。

「君の願いを叶えてみせる。――あともう少しだけ待っておいで、ユエ」

静かに立ち上がり、櫂の先を星々の河に浸す。
瑠璃色硝子の振り撒く光の先、鏡が指し示すあの光の彼方へ。
……ふと、気付く。
右手の甲に寄り添うように咲いた、六片の青白い花に。
あの時、ユエの許へ辿り着こうとした時に蔓を止めてくれた、青白く透き通った花。

もしかしたら。
あの時も、今この時も……共にあの人の切なる想いが起こした奇跡なのかも、しれない。
人は既に失った昨日を希うと同じ位、未だ逢い見えぬ明日をも希う。
そんな切なる想いが、何かの形となって俺の許へ現れたとしても、荒唐無稽では無い筈で。
……又お父さんと呼んだら、今度は笑うだろうか。それとも又驚くだろうか。
そんな事を思い……そんな事まで思いつくようになった自分に、ほんの少し、戸惑いつつも。



――辿り着け。
――あの人の許へ。



――此の“奇跡”は、他でもないあなたが、希うからこそ。





--------

“――仮令、其の時も。”
ユエ嬢のSSの一番最後、『もし詠唱銀に還っても~』に対する渡し守の答えに尽きる。

“あなたが希うからこそ”
渕埼先輩のSS最終章、『ユエ嬢に逢いたい』と希うあの人の許へ向かうふたり。


……収拾付かなくて結局本編に出て来ない人間もう一人追加と相成りましたorz
元々双姉も四月馬鹿に巻き込もうとしたものの結局使わなかった太陽の渡し守設定也。
未来を少しだけ見せてあげるけど今の若さを1年寄越しなさい、という。
双弟の装束はSD参照、対して双姉はGDのあの緋色ドレス着てるものだと御補完下さいorz

しかし……渡し守というよりもう殆ど役者本人(=双弟)そのものになった感がひしひしと。
他人の領域に土足で踏み込む事以上に、己が深層に誰も決して立ち入らせはしない双弟。
出来ぬ約束はしないし、した以上は決してその約束を違えてはならぬと果たそうとする双弟。
一途と呼ぶべきなのか女々しいと呼ぶべきなのか……何というかもう何とも言えねえorz

因みに断章構築時に横で流れていたのは以下の曲。
・double moon song、same crescent song:『A journey to freedom』(DE DE MOUSE)
・舞イ散ル蝶:『癒シ流ルル』(音羽雪)
・La farfalla(舞イ散ル蝶のアレンジ版):『Bremana』(音羽雪)
……難航時聞きまくってたのがCaramelldansenな事だけはスルーで御願いしますorz
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