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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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……携帯を握りしめる。
ずきり、と傷跡は残っても医学的には完治した筈の左足が痛みを齎す。
まやかしの筈の、脈打つような痛み。
偽りの墓地の偽りの怜の墓の前で負った、あの酷い傷の痛み。

――引き返せ、と。

治った筈の足は、時に警告を発するかの様に俺をあの時と同じ痛みで縛る。
俺がもしかしたら心身に多大な負荷を掛けるかもしれない行動や選択を思案する度に、
迂闊に気を抜いていたら絶対叫び出しただろう苛烈な痛みを以て俺を足止めする。

……ならば、今の俺のこの選択は『絶対に間違っちゃいない』。

そう、今迄ならば、見向きもしなかった選択。
決して選ぶ筈が無いのだと、『そう思い込んでいた』選択。
確かに未だに、俺にはその気は無い。
その選択を選ぶ義務も権利も無いのだとされている。
ただ、夏のあの一件の収拾後の一寸した矧の中のゴタゴタを目の当たりにして、
詠唱兵器とは別な意味で俺の振るう『暗器』が欲しくなったというのが正直な感想。
例え、その『暗器』を手に入れる為に無茶苦茶な負荷を強いられるとしても。


昼休みのこの時間、俺と同じ中3のはたが家にいる筈はない。
勿論小学校の教師の父さんがいる筈もない。
不特定多数から掛かってくる電話は嫌いだと固定電話に出ようとしないお祖父ちゃん。
実は家族内で最もアクティブなお祖母ちゃんは彼女の携帯じゃなきゃまず捕まらない。

ならば、今自宅に電話したならば、受話器を取る相手はたった一人しかいない。
そしてまさに、俺はそのたった一人に用がある。

……はたにさえも聞かれたくない、用が。







--------

『はいもしもし、掛葉木です』

「……母さん?」

『はい掛葉木ひいなですよ、いちる』

「……聞きたい事があって。次期宗主筆頭に」

『むー。パソコン覚えたのでメールでも大丈夫なのですよ、長くなりそうなら』

「見られたくないし聞かれたくないから昼休み狙った俺の選択無にしないでください」

『……なるほど。守秘義務レベルの質問で無ければ大丈夫なのですが、何でしょう?』

「誰が矧の禁帯書庫暴くかっ! 守秘義務レベルなら端からお祖父ちゃんに聞くから!
……じゃなくて。ええと……うん、“三祷(さんとう)”に関して」

『“三祷”ですか……はたるならまだしもいちるから聞かれるとは思いませんでした』

「一寸した心境変化。……俺が“三祷”完璧に叩き込むとしたらどれだけ要ると思う?」

『そうですねえ、簡単な方から行きましょうか。
……“三祷”の中でも“唱”ならば数日で何とかなると思います。いちるは歌は得意だから。
“祓”に関しても、銀誓館学園で鍛えた地力があるからさして問題はありません。
問題は最後の一つです。いちる、貴方自身もきっとそれが心配だから私に聞くのでしょう?』

「……その通り。ぶっちゃけ“踏”に何日費やせば、と」

『現状ならば1ヶ月でも足りませんね』

「あれ意外。3ヶ月とか言われると思ってた」

『“唱”が数日で何とか出来そうな音感があるからその分は差っ引いてみたわけですが』

「……その分生来の粗忽足したら3カ月に戻りそうだな」

『過小評価と卑下は止めなさい。……まあこれは準備も策も無しで、の話です』

「例えば?」

『場所と御師匠様役と24時間体制とが揃えられれば10日位には縮まります』

「嘘だ、そんな一気に縮まるものか」

『縮まりますよ。私の時は3か月を20日に縮めましたから』

「……それは母さんの素質込みじゃないのかと」

『ああ言えばこう言う暇はあるのですか?』

「……ありませんごめんなさい」

『場所に関しては離れで事は足ります。あそこなら籠城すら可能ですから』

「師匠役、か……もし茅都先輩にOKが貰えたら?」

『請けて戴ければ現状最高の師匠役ですね。でも茅都さんもあるでしょう、準備が』

「問題は其処だよな……うーん、物凄く使いたくない伝手ではあるんだけどもう一人いる」

『御師匠様役がですか?』

「……大沢夏来(なつき)に偶然こっちで逢ったんだけど、実は彼も矧の一族だった」

『……何ですかそれ、私も初耳なのですが。まず夏来さんが矧とか聞いた事無いですよ』

「いや、元々宍矧系譜の生まれだったけど流派持ちの宍矧の養子になったんだって、と」

『……元々自体初耳です』

「……あの宍矧だから、で俺は無理矢理納得したけど。だから今は高澤(たかさわ)夏来」

『……確かに、それが賢明かもしれません。私も宍矧の全てを知るわけではありませんし。
しかし高澤ですか……なるほど、あの家の方ならば茅都さんに匹敵する御師匠様です。
では御両名から指導を戴けるのであれば10日切る事も可能です、希望的観測ですが』

「……7日切れる?」

『いちるの覚悟次第です』

「分かった。……後で先輩と夏来に泣き落とし仕掛けてくる。
これから週末の度にそっち帰って、まずは“唱”と“祓”を同時進行で頭に叩き込む。
もし楽譜的な物があれば“唱”はこっちでも何とか練習出来るだろう、とは、思いたい。
で、来月のラスト7日を全て“踏”に注ぎ込む。離れ占領する代わりに煤払いは引き受ける」

『中々無謀なプランニングですね。でも実現は充分可能だと思いますです』

「総揃い本番の1発勝負に賭けるしかない分、これは最低限も最低限ラインだと思うんだ。
しかも銀誓館側で何か起きたらそっち最優先にしなきゃいけない分、余裕なんて全く無い。
もう状況は好転する事なんて殆ど無い、積み上がるのは悪化だけだっていう、ね」

『それでも矧より、銀誓館なのですね』

「矧の中と外、禍津に抗う術どころか禍津自体を知覚出来ない一般人が多いのは?」

『……ですね。その時は、助けてあげて下さい』

「……矧の優先順位を外より下げる人間が“三祷”演るとかどの面下げてって話だよな」

『いちるの決めた道に異論は挟みません。……でも、良かったでした、ですか?』

「? 何が良かったのか、って?」

『……“三祷”、認められたら後戻り出来ませんですよ?』

「元より承知」

『……覚えてないの、ですか?』

「……何が?」


『……怜さんが亡くなった日、絶叫して気絶した夜、熱に浮かされた貴方のうわ言ですが』


「……いや、うわ言の時点で俺が覚えてるも何も。……それ、何て言ってたの?」


『横で聞いてた修さんが顔どころか手まで真っ白になる程のうわ言です』


「……何て?」



『“友達すら助けられなかった矧の力なんか、矧なんか捨ててしまえばいい”、と。

……いちる? あの、聞こえてますですかいちる!?
横で聞いたらしい修さんうろたえてて本当にそう聞いたかどうか分からな……っ!?

……ど、どうしようええとえーと……ああっ御父様! 大変なのです実は、実はっ……』
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