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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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――友達すら助けられない矧の力なら、矧なら捨ててしまえばいい。



怜の死んだ日、俺はそんなうわ言を吐いたらしい。
……熱に浮かされてたって、幾ら何でも7歳で口走る台詞じゃねえ。

その一言に至った全てを、しかし俺は、何も覚えていない。
理由も、衝動も。何もかも。



……記憶が虫食いだらけだって事すら、自覚したのは、つい最近なんだよ。







--------

新潟市某所、通称寒梅寺。
怜とくなぎと彼の母親と……墓標は無いがもうひとりが眠る場所。
朝から降り続く雨は酷く冷たく、でも真冬に比べればまだ暖かいとも言える気温。

「……久し振りだね。怜、くなぎ」

この雨では線香も蝋燭も直ぐに駄目になりそうで、墓を飾るのは小さな仏花のみ。

「来年の2月28日は総出で押し掛けるから覚悟しといて。きっと物凄く喧しいだろうから」

……今年の祥月命日に一真と偶然逢ったのが運の尽きだった。
まあそのお陰でか、夏のあの一件も何とか無事に事が済んだとも言うのだけど。

「……怜、これ、憶えてるよな?」

右手を開く。
可愛らしくデフォルメされ、フェルトの暖かい色味が良く合う、小さなマスコット。
怜と俺とが『ぷちくなぎ』と呼んでいた、シャーマンズゴーストのマスコット。
……俺が今手にしているのは、怜の鞄に付いていた物。
怜が母親から預かって俺に渡る筈だった物は、哀しい緋色の染みが沈着してしまった為、
その代わりであり形見として、怜の物が代わりに俺に届けられたのだという。
彼の母親が怜達の後を追うように亡くなったのはその翌日だったと、聞いている。

「ぷちくなぎ、怜のを俺が貰ったんだ。……今の今までずっと仕舞い込まれてた」

……ぷちくなぎの存在自体、思い出したのは今年の祥月命日前日。
仕舞い込まれていたそれを取り出したのは昨日の事。
小さな箱に入れて抽斗の奥にぽつんと置かれていたが、その場所は難無く思い出せた。
……仕舞い込んだ理由と時期、これに関わる記憶は未だに虫食いのまま。

「……怜達が虹の橋の先に逝っちゃってから、俺は180度人間変わったように見えたってさ。
そりゃそうだよな、人間関係最低限に保持してた奴が突然豪く社交的になったんだぜ?
元々小学生として何か違い過ぎるって言われてた位だし、子供らしくなったと言うか。
その代わり色々忘れたり忘れたがったり触れるの躊躇ったり……目を逸らした事も増えた。
昨日気付いて愕然としたが、怜達の事も2月28日前後以外思い出しすらしなかったんだ。
そんなに酷いダメージだったのかな……当時の俺にとっては。だけど、それも何か違う」

……最初の親友を、その死で祥月命日前後だけの存在にしてしまえるものなのか?

「順序立てて記憶を整理してみたら、奇妙な事が物凄い多いんだよ。
例えば、風邪。……ほら、俺よく風邪引いて何度も何日も学校休んだりしてただろ?
今思えば、能力者の全てを必死に隠そうとするストレスが原因だったんじゃないかなって。
プールの日は水中呼吸の事で頭一杯、視界に映るゴースト必死に無視しなきゃ変人扱い、
身体能力も周囲と同じ位に抑えておかないと常人じゃ無えって絶対言われまくっただろうし」

イグニッションカードの恩恵の有難みが否が応にも実感出来る、過去。

「……それがあの日以降ぱたっと風邪引かなくなったんだよ。引いても1日で熱引くとか。
それに水中呼吸の事忘れて潜ったままで先生慌てさせたり皆で自転車乗り回したり……
うん、あの日以前より確実に大胆無謀になってた、俺。本当に180度ひっくり返った。
何というかさ、能力者である事をそこまで気にしなくなったというか……」

……それだけなら本当によかったのに。

「……だけど、気にしなくなったわけじゃ無かった。無意識のうちに、忘れようとしてたんだ」

異能を避けて。水辺を忌みて。
代わりに調理道具に触れて。自転車に触れて。
多分最初の一年は確実に只の一般人たろう振舞いしかしていなかった筈だ。
学年が上がって漸く、能力者や世界結界の知識を再び少しづつ聞いた記憶が浮かぶ。
そして己が異能を再び『確認』したのは、銀誓館の入学書類が突然届いた後の事で。

「……それもこれも何もかも、漸く俺の記憶として納得出来たのは本当に昨日今日だ」

どうして。どうして。
今に至るまで何もかも気付く事が出来なかったのか。
己が記憶に蔓延る数多の虫食いも、矛盾も。


……いや、一寸、待て?


「……ゴメン怜! 俺の話何もかもチンプンカンプンだよな綺麗さっぱり忘れてた……っ」


……怜は自分が能力者だって事すら何も知らなかったの忘れるとか大概にしろよ俺!?
怜からしたら何突然支離滅裂な事吐き出してんのかって理解に苦しむだけじゃんか、絶対。
他の客がいないのが幸い、もしいたら俺完全に精神異常者扱いされるに決まってる……。

「……はは、まだ櫻井先生の方が理解してくれたかもしんないけど……それは望めないし」

此処に眠る墓標の無い存在こそ……リリスだった櫻井真史先生なのだから。

「……ゴメンな、怜。少し頭冷やしてくる」

暫し数珠を持つ手を合わせ、そっと踵を返して彼の眠る墓から離れようとして。



――それを、見た。



背恰好は小さな子供。
服もさして奇妙とは言い難い。

だけれど、唯一無二の奇妙が全てをぶち壊しにしていた。

面。
それも縁日に売られる面や仮装の面とは異なる物。


声も出せず立ち尽くす俺に、くぐもった声。


「――納曾利(なそり)はあなたの僕(しもべ)。呼ぶ声に応え、必ずや」


それだけ告げて、軽業を思わせる身のこなしで忽然と消えた。
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