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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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――だって納曾利は月主の下命で動く一団で。



茅都先輩の衝撃的な一言。

納曾利、という存在。
月主の下命にて動くという事は、間違い無く矧に連なる存在。

……いや、その前に、俺の下命って。


何もかも初耳。

“――納曾利はあなたの僕。呼ぶ声に応え、必ずや。”



……あの納曾利面の存在の言葉の意味だけは、分かったけれど。





--------

「……ただいま」

今日も今日とて放課後の突貫練習――但し未だ“踏”には至らず――を何とか終えた。
初日以降に比べれば筋肉痛も多少はマシとはいえ、積み重なる疲労は酷くなるばかり。
戻ったら戻ったで今度は“唱”の自習が待っている。
……今更ながら、総揃いまで俺の身体は保つんだろうか。

「おー、いっちゃんおかえりやっと戻って来たな?」
「……何かあったんですか香子さん」
「ふふ、それは見てのお楽しみだぜっ」

……何が見てのお楽しみなんだろうか。
半分朦朧とした意識の中、リビングに顔を出し――

「あらら、陸で死にかけの魚といい勝負の目だねえ」

……此処に決して居る筈の無い人がそこに。


「……で、何でネイお祖母ちゃんが此処に」
「実は些か悪い夢見が続いたから中華街探訪のついでに」
「……何でこう家族揃って中華街好きかな」

本当に一体何でだろう、と客用の部屋の中で溜め息を吐く俺。
彼女は掛葉木ネイ。母さんの母さん、祖母に当たる。
今現在の宗家で多分唯一、矧の『外』から宗家に来た『一般人』だと思う。
但し……夢見で多少の未来がぼんやりと知覚出来る。ある意味只の一般人でも無い。
とはいえ夢見の解釈も彼女の自己流だから当たる事も外れる事も両方。
父さんの実家である神下の家とは又別の神職系譜に連なるという家の出身だそうだが、
もし銀誓館が昔からあったとすれば運命予報士になり得たかもしれない、気がする。
……誰の夢見が、とは言ってないが、多分俺の事なんだろう。
そうでもなきゃ中華街抱き合わせとはいえ鎌倉には来な……いとは言い切れないか。
お祖母ちゃんだけは何処だろうと行こうと思った瞬間荷物纏めてしまうから例外に当たる。
……家族内で一番アクティブな人だったりするんだ。

「……どんな夢見?」
「聞きたい?」
「……分かった言わないで耳塞いどく」
「コラ露骨に現実逃避しない。今回は少々派手だね」

……はは、悪い夢見で派手なんて単語が出て来た時は総じて碌な事が無い記憶が。

「暗闇から真っ赤な霙が降ってくるとかホラー映画顔負けだわ流石に」
「……ゴメン一寸待って……史上最悪じゃんかそれ」

赤い色の何かが降ってくるのは流血の連想。
暗闇は死や病、怪我の接近が近いという兆し。
そして何より霙が指すのは……

「……夏の時より状況悪化してるとしか」
「あの時はまだ彗星が上に見えたんだけどねえ」
「禍福両方の彗星が頭上ならまだどう転ぶか分からない、が拠り所だったしな実際……」

神頼みも仏頼みも頼りたい時だけだしそれこそ験を担いでみた訳じゃ無いけれど、
あの夏の改変直前にもお祖母ちゃんに変な夢見が出ていないか聞いていた。
それが今の会話のそれ、なんだが。
……しかし今回はワイルドカード無しで流血と惨劇のコンボ、対象明らかに俺っぽい。

「参考までに、その楽しい夢見が続き始めたのは?」
「12月に入ってからね。それまでは牢の隙間を飛ぶ蝙蝠だったんだけど」
「……蝙蝠……お祖母ちゃんはそれをどう読んだ?」
「鉄格子の向こうの赤い月は突き抜けた狂気か届かぬ捜し物、蝙蝠は裏切りと招福。
牢屋は束縛と冤罪……繋げようにもどっちつかず過ぎてさっぱり」
「……そう」

……握りしめた拳、掌に食い込む爪。

本当に、秘密にしておきたい事にまで徴が現れる夢。
分からないままで居て欲しいと、切に思ったのは、多分初めての経験。

「ただね、今の貴方を見た限り、少し奇妙だなと思ったわ。
疲労のせいかしら、目に籠る意志が少し弱い事だけしか変化が無いのだもの。
月の初めからあの夢が続いているから目立つ傷位はって少しは覚悟していたけどね。
……そうね、同じ家の中で見る夢ならもう少し教えてくれるかもしれないわ。
但し、夢も万能じゃない。夢を見るわたしが万能じゃないのと同じ事よ」
「……それでも、お願いします。お祖母ちゃん」
「ふふふ、結局の所その為に鎌倉へ来たようなものなんだから気にしてはだめよ。
だけど、わたしには貴方自身何かを掴んでいるように見えなくもないけれど?」
「掴むどころか……どれがそうなのか俺にもさっぱり」



翌日。
毎週土曜に戻る新潟行きの新幹線の中。
東京駅を発車して暫くの後、お祖母ちゃんが口を開く。

「扉が見えたわ」
「……扉?」
「ええ。それも沢山よ。ぐるっと360度に沢山」

……どうやら暗闇から降る赤い霙に仲間が出来たらしい。

「私に見える側からは押しても引いても動かないの。
だけど、後ろに回ってみたら鍵が掛かっていてね。なるほどこれは開かないわ、って」
「扉の後ろに回り込めたの?」
「ええ、扉と扉の間は何にも無かったから」
「扉だけ無数にずらっと……ぞっとしない光景だな」
「でもその中の幾つかは鍵が外れていたし、他の幾つかは元々鍵が無かった。
そして幾つかは施錠中で、ひとつだけ異様だった」
「……異様?」
「これでもかって位に鍵だらけで鎖巻いててつっかえ棒まで仕込んであったのよ。
誰が開かせるかって言わんばかりにね。そしてその扉を銀色の蛇が見上げていたの」

……第一弾以上にどう解釈すればいいんだろう。

「扉は開いたその先へと続く始まりと、開く事でのここまでの終わりを象徴するもの。
鍵付きなら障害か封印か、何にせよ後ろ向きなものを表すのかしらね。
特にあの鍵だらけ鎖だらけのひとつだけはとんでもない何かをはらんでいる筈。
蛇は豊かな財の象徴だけど、それではこの夢の中では意味が通らない。
その身を飾る銀色は魔除けの色だけれど関連するのかしら。蛇である必要だとか」
「……魔除けの蛇がガンくれる程ヤバい代物って事なのかな、その雁字搦めの扉は」
「どうかしらね。……赤い霙と暗闇と沢山の扉、困難だろうって事は確かみたいだけど。
後はその蛇が多かれ少なかれ事態打破の鍵になり得るかもしれない事と」

「……打破の、鍵?」

「その蛇が扉を睨み続ければ続ける程、その扉はミシミシと身を捩っていたからね」
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