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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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「……掛?」
「悪い、一寸意識飛んでた」
『顔色、今真っ青通り越して真っ白。……ちゃんと寝てるんだろうな?』
「……御想像に御任せしてやる」


……衣装が重い。
いや、これは衣装というより練習用の装束の筈なんだが。
今迄の格好がTシャツとハーフパンツだったせいもあるだろうが、
和装特有の広がる袖と袴の裾に変わるだけでここまで動き辛くなるものなのか、と。
左足の幻痛が跳ね上がったような気がしないでもない。



色々悩み惑うより身体を動かしていた方がいいと思ってはみるものの。
現実問題そんな簡単には話が動かない。

多分、ほんの少しだけでも緊張の糸を緩められたのは、聖夜の騒ぎ相談の時だけだ……。






--------

先週の土曜日、俺は再び怜の眠る墓を訪ねた。
……結果的に精神安定剤代わりにしている怜には申し訳なさが先に立つが、
もしかしたらあの納曾利と呼ばれる存在が再び現れるかもしれないと思ったからでもあった。

でも……怜はきっとそういう俺の思惑関係無しに訪ねて来る事を喜んでいるかもしれない。
まあ何で突然こう何度も来るんだろう、ってくなぎと一緒に首を傾げてるかもしれないけれど。
……はは。
どれもこれも、俺の虫のいい想像でしかない、か。

「あれ、何でいちが此処に? まだ冬休みじゃねーっしょ?」

……俺としては何でお前が此処にいるんだよ一真、と。


「んー、何つーか顔見たくなってさ」
「……墓だぞ、此処」
「墓だろうが何だろうが成瀬は成瀬じゃん。
あーあ、あの時俺も覚醒してりゃマンゴーさん見れたんだろうになぁ」

心底悔しがっている表情の一真の横で、にぃ、と首を傾げるケットシーのマウ。
もしかしたら次に会う時は二丁拳銃のガンナーに変わってたりしてな……
……と浮かんでいた予想は外れていたけれど、元気そうで何より。
マウも一真も、そういえば他の使役ゴーストをあの夏に初めて見た事になるんだっけ。
モーラット系統のモルモと、スケルトン系統の楓嬢とジャックさん。
まだ彼とマウが見てない使役ゴーストは蜘蛛童とフランケンとサキュバスと、
後はケルベロスに……くなぎ、もといシャーマンズゴースト。
彼が銀誓館へ移ってしたい事のひとつが、沢山の使役ゴーストを見る事だった筈。

「成瀬のだけじゃなくてさ、他の墓とか慰霊碑とかそういうの見る度に、
俺頑張って生きなきゃなーって思うようになったなぁって最近感じる。
天命とかそういうのは仕方ないかもしれねぇけど、
ゴーストの相手は見える俺等が何とかするしかねーじゃん?
俺等が頑張って頑張って時々危険な目に遭ってゴースト倒して生きる1日が、
もしかしたら他の人にとっての1年、いや10年に変わるのかもしんないしさ」

夏に心底それを実感したせいかもな、と一真が呟く。
9人と2人と2匹とで100人以上の未来を護り抜いた、あの夏の夜。

「ま、でも一番力になるのは友達の墓なんだよな。
どう引っ繰り返ったってもう一緒に騒げない分、想いは募るって奴かな?」
「……お前が詩人だったとは初めて知ったよ、一真」
「あ、てめ最後の最後で雰囲気ぶっ壊しやがったな畜生!?」
「冗談冗談。怜の前で喧嘩は御免だ」
「冗談に聞こえねぇー」


夕方、家へ戻る為の帰り道。
一真には触りしか説明してこなかった。
『正月に掛葉木の家で規模の大きい新年の祝いがあるせいで頻繁に戻って準備中』と。
……流石に、矧だの三祷だのは喋る気力が無かったとも言う。
内輪のゴタゴタは、内輪で片付けるしかない。
そして内輪も内輪がもうひとつ。
今週末は……此処では無く、佐世保の地にいるという事。
断ち切れなかった狂気を今度こそ、叩っ斬る為に。
それを今知っているのは、はただけだ。

「……何で、なのかな」

ひとりでいる事で心の箍が緩んだのか、知れず零れた声。

「増えていく事が、苦しい」

何が?

……友達が、仲間が。大事な人達が。

何が?

……秘密を抱える事が。言えない事が。戦う事が。

「……それでも、俺は……」

途切れた言葉。
視界に点在する非常識。


……一寸待て。
此処は何処の時代の伊賀か甲賀だ?
覆面だの帽子だので顔を隠した黒服が無音で湧くとか何かのロケか?
一部の黒服の手の中の光り物は無駄に殺傷力ありそうな代物にしか見えねえけど?
で、それ向けられてる人間ってどう見ても視界内に俺位しか存在しなかったりするが?

「……どうしてくれればいいんだか」

じり、と包囲を綺麗に狭めてくれる黒服に正直な感想を吐いたその瞬間。
俺の真正面に陣取っていた一団に突如茨が蔓延り、束縛した。
虚を突かれた形の黒服達を次々と締め上げていく茨の緑。
……見覚えがあった。

「茨の領域……?」

……そう、どう見てもヤドリギ使いの異能。
だけど、何処から?

「――退け。月主に仇為すなら次は痛みも辞さない」

聞いた声。
怜の墓、寒梅寺で。

朽ち消える茨と共に、音も無く姿を消した黒服。
声の方向を見ると、塀の上に子供がひとり。
……あの納曾利の面。

「此の度は納曾利の頭領より、月主護衛の任を」

……子供の声。多分、女の子寄りの。

「……悪い、俺には何が何やらさっぱり」

どうしようもないので正直に白状。
途端、面の子供の纏う空気が変わった。
酷く慌てた様子で塀から飛び降り駆け寄ってくる。

「……月主……いえ、いち兄ちゃん……?」

途中で面を外したのか、見上げる顔は少女のもの。
一見無表情に見えて、ほんの少しだけ滲む困惑と焦燥。
何より雄弁に物語っているのは、彼女の声。明らかに上擦っている。
その様子は感情を隠そうとしても結局表情に出てしまう俺と、何処か似ていた。

……いや、それより。
兄ちゃん呼びされたって事は、俺が知ってる筈の人間……?
だって年下とはいえ知らない人間にこんな呼び方される筈が無いんだ。
……何でもいい、欠片でいいから思い出せ俺……っ!


――強くなるのが、正しいことだとは俺は思わない。
――痛みが、分かるままでいたい。そうじゃないと、きっと……

――後ろをくっついて来るきみの痛みすら分からなくなってしまいそうだから、・・・ちゃん。



「……苑夜(そのよ)、ちゃん……?」


遠い昔の俺の声が呼んだ誰かの名前に、眼前の少女は頷いた。

小さく、だけどはっきりと。
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