◆Burn the Door -β-

日を経るにつれ人口密度が増していく宗家と、その隣の漂家（ひょうけ）。

漂家、とは掛葉木の系譜のひとつ。
宗家よりも広い大広間を持っている、というより最早大広間メインの間取りの家。
その為大掛かりな祭礼だのを執り行う際は宗家ではなく漂家の大広間を用いるのが普通。
故に今回の総揃いも、漂家にて。

--------

漂の字を冠するに相応しいと言われる位この家の当主は家にいない為、
大広間の利用は漂家にいる誰かに許しを得ればいつでも誰でも自由なのが通例。
但し、当主に掛け合い言質を取らねばならない時もある。

曰く、『この席から絶対逃げるな出ろ当主』という場合。

……何が楽しいって、今回母さんが直々に言質取った当主は母さんの末兄だって事か。
掛葉木透眞（とうま）。隣家かつ甥の俺ですら滅多に顔を見た事の無い伯父。
いや……下手をすると滅多どころか一度も逢った事が無いかもしれないという可能性すら。


年の瀬となりクリスマスパーティーも終業式も職場の勤務も終わりとなれば、
他は元より銀誓館の在学生も後は鎌倉からこちらに来るだけとなる。
２５日の俺を皮切りに翌日には夏来が、２７日には茅都先輩が新潟へ。
運命予報士の典杏も新しい予報次第でのとんぼ返りという可能性も抱えて２９日に到着。
そして佐世保での残党掃討へ向かった最後の銀誓館生が到着したのは、３０日の夕方。

「へーいやっと到着ー。しかし嫌な予感して指定席取っといてマジ助かったわ人の数超凄ぇ」
「一寸待て、この年暮れ一番混む時期なのに最初は自由席のつもりだったのかよ……。
前から思ってたが、お前絶対帰省ラッシュ舐め過ぎだろ彩晴。……で、質問」
「ん？」
「……何その派手な擦過傷」

左頬骨の辺りと手の甲のささくれた皮膚と滲む血。
よく見れば服も左半身だけやけに砂で擦れたか白くなっている。

「あー、これ？　多分狂気汚染済みっぽい阿呆に待ち伏せされてた」
「……お前は異能ばらまいたりはしなかっただろうな？」
「お前は、って誰かやったんかい誰か」
「想像付くだろそういう派手な事やっちゃう人間」
「……なる。はたちゃんか……」
「で、『お前』は？」
「聞かんでも分かるやろに。軽く猫被って逃げて来たわ。
もし一般人やったら例え粉塵爆発ですら運悪けりゃ人殺しになってまうけん、無理やて」

肩を竦めてやれやれ、と首を振る彩晴。
……更に標的が増えた。

「茅都先輩と夏来はまだいいとして……危険なのは一般人の典杏（のりあ）か。
彼女に手を出したの発覚したら流石に容赦は捨てる」
「確かにボーダーはそこやね。そこ踏み越えたら人としてアウトやろ」
「それ分かってるのかどうなのか新潟駅じゃ何も仕掛けてこなかったけどさ、俺の場合は」
「こっちは最寄りのバス停から爺ちゃん家までの間。
徒歩数分の距離すら惜しかったんかねぇ……敷地内のが遮蔽増えるからやり易そなんに」
「敷地内はいい加減警戒されてると思ってるのかも。既に２度やらかしてくれてるから」
「しかも爺ちゃんの目の前とか修平さんの目の前で堂々と、だっけ？」
「うん。……特に父さん止めるの凄い苦労した」
「そりゃ隠れ子煩悩相手にんな事したらそーなるのも無理無いて」
「ダウト、あれは隠れてない」
「隠れてないか」
「全く以てな」

「……んーで、昨日のメール要項から進展は？」
「無い。強いて言えばお前への襲撃位」
「んじゃ大晦日元日も警戒せなならんのかよ面倒な」
「元日は総揃いの初日だからな……何も無いか多発で俺が切れるかのニ択じゃないかと」
「……マジ止めて後者の選択肢」
「それは狂気保持者抱えてる向こう側の奴等に言え」