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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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額に触れる誰かの手。


……酷く、熱い。






--------

後頭部の鈍痛に耐え、無理矢理瞼をこじ開ける。
……暗闇に近い視界の中、俺をのぞき込む幼い顔。

「……智瀬、ちゃん?」

声を発するのもやっとの問いかけに、頷く。

「……苑夜お姉ちゃんは?」

少し離れた奥を指さす。倒れた人影らしき黒が見える。

「智瀬ちゃん、怪我してない? 咳とか頭痛いとかは?」

ふるふる、と首を振る。
だがさっきの手の熱さからして熱が上がってしまっているのは明白だ。
緩やかに覚醒していく意識と引き替えに、体温を少しずつ奪う夜の寒さが這い寄ってくる。
……俺は兎も角、このままじゃふたりが保たない。
特に一般人でまだ幼い智瀬ちゃんは、尚。

何とか上体を起こし、奥で倒れている苑夜ちゃんの傍へ向かう。
頭に触れた限り、傷や血の流れた後は無い。……そうか殴られたのは俺だけか。

「苑夜ちゃん……苑夜ちゃん?」
「……いち兄、ちゃん……智瀬、智瀬は!?」

意識が戻ったらしい。見た限り他の怪我も無さそうだ。

「大丈夫、智瀬ちゃんも此処に。……閉じ込められてるみたいだけど、何処なのかさっぱり」

暗闇で目を覚ましたから目は既に慣れている。
周囲を見渡してみるが特徴的な物も無いから見当が付かない。

「……待って。光、呼ぶから」

刹那、彼女の手から飛び立つ淡白い小鳥。
闇の宙を翔ける翼からこぼれ出す光が周囲を照らし出す。
……白燐光、だろうか。
開けた視界の中、再び周囲を見渡す。

正方形の部屋。
視線の先に、扉。
壁には一切の窓が無く、天井も壁も木材が張り巡らされている。
扉の向こう、遠くから聞こえる風らしき低い音。

静かに扉に近寄る。
一部長方形に色の抜けた部分と、鉄の錆と思しき赤の枠。
何かがつい最近まで此処にあった、と推測出来る。
素材は金属では無さそうだが、軽く叩いた限り硬い木材のようだった。
……壊そうと思えば壊せるかもしれない。

勿論室内に食糧だの防寒具だのある筈も無く。
天井に電灯があったらしき配線の跡だけ残っている。



――矧の防空壕だったのかもしれないねえ、ココ。

突然のフラッシュバック。

――牢屋ってわけでも無さそうだし綺麗だし。ちゃんと電灯も新しいものだし。
――扉は内鍵みたいだから籠城も可能、でも中に抜け道無いから袋の鼠って感じだねえ。

……誰の声だ?
聞いた事はあるのに、誰なのか全く分からない。

――地下に掘った割に頑丈だから地震が起きてもちょっとやそっとじゃ崩れそうにないね。
――後はやっぱり隠し通路でもあれば宗家にも漂家にも行けるのにねえ、勿体無い。
――丁度二つの家のど真ん中に作ってあるんだしさ。


……頭に流れ込んでくるコマ割りの映像。
誰かに手を引かれた小さな俺と、俺の手を引く誰か。
癖の強い黒い短髪、活発さを秘めた若い男の声。


――いーちゃん、覚えられるだけ覚えておくんだよ。
――多分、きっと、ココに来た事は絶対いーちゃんの役に立つんだから。


「……一寸待て役立ってるとかいうレベルじゃないってこれ」

……ぷつりと途切れた謎の記憶に思わず反論。
今俺達のいる場所が何処でどんな構造なのか全部判明とか完全に仕組んであったとしか。
こうタイミング良く記憶が戻るとか絶対あり得ないだろ……。

此処は宗家と漂家の真ん中の地下室。
造りは頑丈。
隠し通路の類は無い。
出口は目の前の扉ひとつだけ。
その扉は元々内鍵。……鍵は外されたか、外側に付け換えられたのかは分からない。
だけど俺が奴等の立場なら外鍵にしている。
鍵無しで此処に放り込んだって、目が覚め次第逃げてくれって言ってるようなものだ。
……待ち伏せしてるから鍵なんか要らないって可能性もあるだろうけど。

それでも。それなら。

あの扉さえ壊してしまえば道は開ける。

「……出来るかどうか、か」

俺を壊すと豪語していた奴等が、ただ意識飛ばして放り込むような真似で終わる筈が無い。
絶対不必要な物、あって困る物は全部俺の所持品から抜いているに違いない。
……特に、異能の解放の鍵。
隠し場所が暴かれていないかどうかは試さなければ分からないが。

「――Ignition」

呟く、起動宣言。
そして、右の手首を見た。

――数瞬前には無かった筈の、銀の環。刻まれたエオロー(Eolh)。

装束と寸分違わぬ詠唱兵器の防具とを見分ける為に、ひとつだけ鍵に封じていたルーン。
そして一呼吸遅れて現じる一対の刀。那由他と揺焔。

「……罠か、偶然か」

イグニッションカードの隠し場所は包帯の下、傷の上。
あの左肩と腕の傷が佐世保での戦いで同じ所を狙われて悪化した上に、
元々の傷だから生命賛歌の力では癒せず、未だに引き攣れて存在を自己主張する傷。
……包帯を解かれた形跡は無い。
そう見えるだけで一度解かれて巻き直された可能性もある。
普通の服と比べて和装は肩を肌蹴るのが容易だから手を出していてもおかしくは無い。

……そうだと、しても。

「……迷ってる暇は無い」

今はもう、一秒すら惜しい。



「……苑夜ちゃん。智瀬ちゃんを、護って」

背中越しにそれだけ伝えて。

「――おいで、蛍」

左の掌から湧き出す儚く白い光が、携える那由他に、揺焔に宿り漂う。
……力を引き出す白燐奏甲の力を借り、そっと立ち上がった。

右手を、扉の中央に当てる。
木の扉にエンチャント付きの爆水掌なら少なくとも罅位は刻めるだろう。
もし勢い余って壊してしまっても後で直せばいい。

ひとつ深呼吸。一度瞼を閉じ、開く。


刹那。
何かが弾ける音がした。

俺の中から。



「……か、は……っ!」

鉄錆の味が満ちる口を押さえた手からしとど滴る緋色。
内臓纏めて抉られ引き千切られるような激痛。
全身の関節が砕けたかのような脱力感。
何より、左足のあの痛みが死すら厭わぬとばかりに心臓を、脳を揺さぶってくる。
崩壊に耐えられず地に落ちた俺に駆け寄る足音。

「いち兄ちゃん!? いち兄ちゃん大丈夫!?」
「……大丈、夫。まだ、生きてる」

口ではそう答えても。
身体は、五感は死の淵に傾いている。


壊すとは、この事か?

完膚無く壊すとは、廃人にでもするって事か?

……まがりなりにも能力者の俺を、壊そうとする悪夢のような現実。

服従の誓約、なんて……この状態でもし迫られたら、抗い勝てるのか、俺は?


誰が、よりも。

どうして、よりも。

どうやって、よりも。


どれよりも先に浮かんだのは。





……“鎌倉(やくそくのばしょ)へ帰れない”……。





揺らぎ歪み滲む視界。
その端に、動く銀の一筋。

瞬く間に近寄ったそれは、ほんの少し躊躇う素振りを見せ。
次の瞬間、俺の左足首に巻き付いた。

止まる激痛。
力の戻る身体。
明瞭になる視界。

……まるでそれが、全てを封じ込める鍵のようで。

無我夢中で立ち上がり、扉を睨む。
口の端にこびり付いた血を袖で乱暴に拭い、拳を握り締める。

一拍の静寂の後。



扉は、木っ端微塵に砕け散った。




……触れるだけで良いのに全力でぶん殴っていたと気付くのは、もう少し後の事。
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