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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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pendolarismo(ペンドラリズモ/伊)

:曖昧な態度 矛盾した振る舞い 動揺 躊躇 迷い 通勤



※『アモーレイタリア語辞書(http://www.notitle.ne.jp/~amore/)』より




--------

立春を過ぎたとはいえ、まだ日暮れの早い如月。
夜闇に染まりつつある鎌倉市内、銀誓館学園一縷樹キャンパス。
その構内のクラブ棟、1階の一番端の部屋に燈る灯り。


――其処にいたふたつの人影は、共に心穏やかには程遠く。

一方は己が心悩ますが何かを自覚しているが故に。
他方は己が心揺らぐ理由が未だ分からぬが故に。



時はほんの少し、遡る。

夕陽射し込む件の一室の中、テーブルに突っ伏す制服姿の少年ひとり。
冬季3カ月の間とはいえ、この空間の、主。
此処は市内を当て所も無く彷徨い、しかし冬の間だけは学び舎に戻る小さな菓房。
何故冬だけ戻って来るのかという理由は幾つかあるが、一番は管理のし易さ。
彼はこの菓房の主であると同時に、伯父の営む店を支えるクルーの一人。
更に冬の時期は幾つもイベントが重なる季節であるが故に、忙しさは限り無く。
そうなると、自然と一番目の届くクラブ棟を冬の仮宿にするのが都合が良いという話で。
……余談として学園内なら祈菓(菓房に並ぶ菓子の総称)も幾らかは求め易いだろう、とも。

それは兎も角として。

「……自分の事なのにな」

空気混じりの、吹けば飛びそうな呟き。
年末年始に色々面倒事を片付け己自身から目を背けないという決意を新たにしたはいいが、
しかし早々に厄介な壁にぶち当たる事になるとは誰が想像しただろうか。
……今まさにぐらぐらと揺れ続けるような感覚の正体が、自分自身の事なのに、分からない。
いや、感覚と言うよりは、心が。
他人に向けると同じように自分に目を向けようとしない、向けられない悪癖は漸く、自覚した。
だが……此処まで自分自身の心が分からない、とは。
しかも面倒な事に、分かりたいのかどうかすら自分で分からないという状況で。
おざなりにしてきたにも程が無いかと説教されても全く反論出来そうにない。

「……何で今頃、急に……」

如月に暦が移った頃から止まらない揺らぎ。
そろそろ春の菓房の置き場を決めねばならない時期だと言うのに、その気力すら湧かない。
いや、日が経つにつれて明らかに気力が目減りしていくのが手に取るように分かる。
突っ伏したまま何度目かの溜め息を吐いた彼の横で、不意に鳴り出す携帯。
のろのろとした腕の動きで携帯を手繰り寄せ、機械的に鳴り続けるアラームを切った。
……伯父の店に戻るまでの仮眠のつもりだったのに、仮眠どころか疲労が増えた気がする。

色々と諦め、外に置いて営業中の看板代わりにしている揺り椅子と黒板を中に仕舞う。
電灯を消して鍵を掛けようとしたが……ふと何かを感じて、振り返った。

――少し向こうに佇む、見知った人影。

但し何とも言えない違和感も人影は引き連れていて。
更に言えば、結構な時間其処にいたのではと思わせるような雰囲気を漂わせていて。
しかし来月ならまだしも、今の時期そんな事をしていたら風邪でも引きかねない。

「(……1分あれば電気ケトルでお湯は沸かせる)」

一度消した電灯を再び燈し、手にしていたコートを羽織って走り出した。
その人影の許まで。


「……渕埼、先輩?」

1度目は届かず2度目は反応を見せず、3度目で漸く相手は少年の方を向いた。
……肌の色が普段より白く薄く見える理由は寒さ故か夕陽届かぬ刻限故か、それとも。

「――何があったのかは聞きません」

敢えて握る主導権。相手が何か発するよりも、早く。

「でもこのままじゃ風邪引きます。――クラブ棟とはいえ屋外よりはマシですから」

有無を言わせぬ勢いで腕を引っ張り踵を返した。
……抵抗の意思が全く見えず引っ張られるがままの相手の様子に奇妙な怖さを感じつつも、
その心の内を今は悟られぬようクラブ棟まで戻るだけだと少年は前を見る。
寄り添う違和感は、色濃くなるばかり。



珈琲をブラックで、と相手の希望を聞き出した少年は手早く湯を沸かす。
一瞬逡巡し、湯気立つ珈琲をカップとソーサーの一式では無く厚手のマグに入れて供した。
……心此処に在らずといった表情の相手が手に持ち続けて火傷をしないように、と。
何度も熱いからと念を押してはあるが、届いているのかは分からない。
沸かした湯の残りで自分用のココアを練り、火に掛けて牛乳と合わせ温めてマグに移す。

「……学園内だよな、此処は」
「ええ、一縷樹のクラブ棟です。去年借りてたのと同じ部屋が偶然空いてて助かってて。
放課後限定殆ど主不在の割に棚の祈菓減ってるのが……って何処だと思ってたんですか」

……漸く会話が開始されたと思ったら端から突っ込み所しかないとは想定外に過ぎた。
何故冬の夕暮れに学園構内に立っていたのか以前に一体何処だと……大学、だろうか。
進学先にも拠るが、2年ならばまだゼミだの卒論だのといった大変な状況ではない筈で。
そんな事を考えながらココア入りのマグ片手に相手の対面に座る少年。
対面の存在は尊敬の念を抱く先輩。
落ち着いた印象が与える通りの冷静さと博識とでゴースト事件を解決する人であり、
どうしても避けたい罰ゲームを賭けると先陣を切って大人気無く本気になる人でもあり。
……しかし今迄の記憶の限り、罰ゲーム回避を勝ち取れた事はあったのか、知らないが。

「余り何処をどう歩いたのか記憶に無くてな……もう夕方だという事にすら今気付いた位で」
「……敢えてこれだけ聞きますけど、食事摂った記憶すら無いとか言いませんよね?」

……考え込んでしまった相手の視線から逸れたマグに角砂糖とクリームを独断投入した。
空の胃にブラックの珈琲は刺激が強過ぎるし、糖分だけでも補給すれば多少は保つ。
マドラー代わりのチョコスティックがマグ内で半分消えたがこの様子なら気付く事も無いか。
実際カフェモカ寄りになった珈琲を口にする相手の表情に変化は無い。……妙な事に。
ふと、相手が手にしていた本に目が向いた。今はテーブルの上。

「……花の写真と花言葉の本、ですか。俺も同じの持ってます、はたに押し付けられた奴を」

あの姉が本ダブらせるなんて珍しいと思ったから貰った時の事を良く覚えている、と続ける。

「今となっては重宝してますけど。季節外れの花作る失敗は回避出来るようになったから」
「なるほど……掛葉木が持つ分には何も違和感が無い本なんだがな、俺だとどうにも」
「何ですか違和感って。それに革装丁の本だし敢えて言わなきゃ誰も中身分からないのに」

想定外の沈黙。
何の気も無しに流しておいたCDが文字通り唯一の救いになった程の沈黙。
……懐かしさ漂うピコピコ混じりのテクノサウンドな辺り、何ともちぐはぐな空気も満ちるが。
事態打開の手が浮かばず熱いココアを啜る少年の顔が、直後明らかに曇った。

「何か変だと思ったら砂糖入れ忘れた」
「……そ、それは今からでも足したらどうだ」
「いいですこのままで。ダークココアだと思えば。牛乳入ってる分の甘さはあるし」
「珍しいな、料理の類でミスをする姿というのは」
「技術家庭と美術と声楽以外は散々な粗忽っぷりですよ、得意分野も万能とは言い難いし」
「……それだけ得意分野があれば充分じゃ無いのか?」
「普通男で得意分野がそっち側に偏るかって言われたら俺には反論不能ですけどね。
まあ料理は兎も角としても、刺繍の意匠込みで徹底的にラフ画起こして布地裁って……」

……自分で口走ってはいけない何かに気付いたのか声量が極端に落ちて突っ伏す少年。
刺繍糸の色合わせまでして『   』作ったりしないって、の肝心な部分だけ全く聞き取れず。

再び流れる沈黙。同じ主題を繰り返すピコピコサウンド。
テーブルに置いたマグを再び手にしたが、先程よりココアが甘く感じるのは幻覚か何かか。

刹那。
入口に置いていたファイルが落ち、挟んでいたチラシが何枚か床に広がる。
拾おうと腰を浮かせた相手を制し少年が床からファイル共々拾い上げ、テーブルに置いた。

「……“リンクスを作ってみませんか”?」
「ああ、それ学園で配られてた募集チラシです。リンクスっていう北欧発祥の御守り作りの。
形も願いも千差万別、既に出来てるリンクス繋いでも良いし一から作ってもいいし、と」

一番上の一枚を手に取って眺める相手に、覚えている限りの説明を返す。


「……作ろうかな、自分の」「……気にはなっていたんだが」


予想外に被った言葉に、顔を見合わせたふたり。

「……そのチラシ、募集〆切いつになってます?」
「……明朝だな。だが募集窓口が卒業生なせいかメールでの申し込みは随時OKとある」
「じゃあ今から滑り込んでも充分間に合うと」
「明朝よりはまだ募集主に優しいと思うぞ、今からなら」

「――行きませんか、作りに」
「――ああ、構わないよ。しかし二人だけで、というのは珍しい組み合わせかもな」



――縁とは不思議なもの也。

それは冬の最中だと言うのに甘く春めく学園行事の執り行われる、ほんの数日前の事。

--------

コンセプト:渕埼先輩とリンクス作成イベシナ@VDに行く事となった舞台裏。(超意訳)
スピーカー(≒後ろ)会話が発端なので本人達にとってはハタ迷惑でしかない一幕とも。
とりあえず先輩の家の方向に心より土下座しておきますorz

(2/14)
…… 打 ち 返 さ れ た ! !
というわけで渕埼先輩側視点の『
――pendolarismo.(T-side)』をこっそりと。
互いの視点が少しづつ食い違っているように見えるのは、互いの記憶自体が曖昧だから。
それだけ互いに自分の事で一杯一杯だったと言う事に。
渕埼先輩の後ろ様に重ねて感謝を。……本当に勢いだけでSS書き上げて申し訳無くorz


因みに話中沈黙の裏で流れていた曲は『My Heart's Raven』(DE DE MOUSE)想定。
iTunesで視聴出来る模様。何処か懐かしさ漂わせ星の海を思わせるピコピコテクノ。
(後ろも童顔もインスト楽曲好みだったりするので今の後ろの中毒曲をチョイス)
……ニコとかYouTube辺りにあるかと思ったら同アルバムの別曲ばかりでしたというorz
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