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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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「……げに恐ろしきは狂気なりや。我に異能の目覚める兆し無きは誠に幸いなる事」
「来られると面倒な未来が来ちゃったら全員異能覚醒だけどね。狂気は微妙だけど」
「嘗て非常識を常識は放逐し、だが今は常識が非常識に駆逐されつつある……か」

傍目、多少奇妙な一団だと思う。
和装の老年、スーツ姿の外見壮年後期(中身は老年)、ラフな服の子供(身長だけ大人)。
加えて会話に使われてる単語の物騒さと、聞く限り全員立場対等という雰囲気。
……そして、使っているのがゲスト用ではなくスタッフ用のエレベーター。

やましい事ではないが真正面からは流石に拙いだろう、とはお祖父ちゃんの言。
関係者全員を拘束した訳では無いというのが未だ面倒の種か、と零す久人(ひさと)さん。
今から会いに行く人も厳密に分けたら被害者になってしまうんだよな、と考える俺。


ああ、久人さんというのは、苑夜ちゃんの養親の父親に当たる方。
……又の呼称を、納曾利頭領。






--------

病院の特別室。
其処にいたその人は、俺の余り芳しくない想像よりは元気そうで安堵した。
……片足を、失ってはいたけれど。

「宗主殿、納曾利殿……そして月主殿。このような姿で出迎えも碌に出来ず誠に申し訳無い」
「いや一切気にしないでくれ。私達の方こそ“間に合わなかった事”を謝らねばならぬ立場だ」

そう。俺達は……俺は間に合わなかった。
この人が結果的に片足を失ってしまった理由に、俺は無関係どころか深く関わっている。
彼の名前は、飯塚周(あまね)。
系譜としては掛葉木に属し、昼の矧の中でも高い地位を持っている。
心優しく涙脆く、だから本当の家族の様に真摯に患者に、病院のスタッフに向き合う医者。

そして、『狡猾な真犯人の策略により一連の騒動の黒幕にされていた』人。
……真犯人は飯塚慧(きょう)。彼の、弟だった。


たったひとつ掛け違った歯車。それが全ての始まり。
医者としては互いに優秀だったのだという。けれど、たったひとつの歯車が全てを分けた。
周さんは一般人で、慧さんは、結果的に狂気に囚われた能力者。
狂気の齎す汚染を自覚出来る筈も無く、慧さんは常識の外の言動を取り始める。
……そしてどうやらそれを苑夜ちゃんの父親に、飯嶋悟(さとる)に目撃されてしまっていた。
悟さんが巻き込まれて亡くなった事故を目撃して……見殺しの形をとったのも、慧さん。
そして狂気は幼い苑夜ちゃんにも向かった。暗示を仕込み、事故死に見せかけようとした。
だが、企みは予想外の介入者に阻止される事になる。……彼女を偶然助けた、俺だ。

面倒な事になったと、きっと慧さんは思っただろう。
矧の宗家の人間が絡んでくるとは、と。
だけれど、その時にもう一つの考えが頭をもたげたのだろうと、周さんは語る。

――ならば宗家を、己が邪魔をした宗家の要を籠絡すればいい、と。

治療に用いる医者の知識として得た筈の暗示の術を、混じり気無しの悪意で駆使した。
昼の矧としても生きる兄に随行する傍ら、偶然の接触を装って俺に暗示を仕込み続けた。
そしてそれと同時に、年長で覚醒したが故に狂気の影響を受ける能力者達を集めた。

暗示により俺の心が誘い込まれたのは無限の扉が穿たれた部屋。
ひとつづつ、ひとつづつ、外から扉を閉め、錠を下ろす。
幼い頃の俺の抱いた重い経験――辛いとか、悲しいとか、怖いとか――を、錠に利用して。
最終的に全ての扉を閉めてしまえば、俺は何処にも出られず閉じ込められる。
音ひとつ響かず光ひとつ射さない暗闇の中にある俺の精神が完全に崩壊したその時、
たったひとつ扉を開けば……俺の心には刷り込まれる。抗えぬ籠絡の、楔が。

最後の最後まで完璧だった筈の彼の暗示は……再び予想外の事態で失敗する。

怜の、死だ。

暗示による苛烈な心理的負荷にギリギリで耐えていた俺にそのショックは余りにも過大で。
その結果、俺の心はとんでもない行動をやらかしたようだ。

その部屋から、たったひとつ開いていた扉から逃げたのだろう、と。
自分の中の矧の一切を放棄し閉め出すという方法で。
……つまり、一真が言っていた防衛規制と呼ばれる作用の中の抑圧というものらしい。
当時辛い悲しい怖いという経験は大部分が矧に関わっていた事で生まれていたものだから、
抑圧により結果的に矧に関わる記憶ごと封じ込んでしまっていたのではないか、と。

怜の事を命日前後だけ思い出したのは多分その間だけ俺が扉の部屋に戻っていたから。
……怜が亡くなったのは、俺に、矧の者に関わったせいだと思い詰めてしまっていたから。
だから慧さんにとっては再暗示の絶好の機会だったのだろうと、今では思う。
でも、その機会は悉く潰された。
怜の墓の前で泣き続ける俺の傍には納曾利面の姿があった。その中身はお祖父ちゃんで。
それだけならまだしも……更に予想外な事が起きた。
銀誓館学園への編入で始まった世界結界や禍津と相対する生活が、暗示を弱化させた。
世界結界と禍津は、矧にも深く関わる事。触れ続ける事は、矧に向き合う事にもなる。
そして俺の心は、無意識のうちに無数の施錠された扉を外から開き始める。
少しづつ戻ってくる記憶と、知識と、自分にも他人にも幾分(いや相当)冷やかな俺の本質と。

そして、残ったのは最後の扉。最後の暗示。
幾つもの錠と雁字搦めの鎖とつっかい棒の、お祖母ちゃんが夢見で見た扉。
最も狡猾な暗示を具現化したそれが未だ俺に残る事を知った慧さんは賭けに出た。
それが、地下室への監禁。
たったひとつしかない扉を壊そうと俺が動いたその時に暗示を発動させ心身を壊そうとした。
……けれど、俺は『彼女』の最後の置き土産に救われ、扉を木端微塵に吹き飛ばした。

左足首の幻痛。夢見の中で扉を睨んでいた銀の蛇。
櫻井真史先生との一件で負った傷は、最後の扉が俺を蝕もうとする度に激痛を放つ。
三祷に関わる間が一番過酷な幻痛だったのは、矧に最も深く相対する事だったからだろう。
矧と向き合い、自身と向き合い過去と向き合う事。それは慧さんにとって最も不都合な行為。
そうして……地下室の扉を物理的に破壊したという体験が、俺の中の最後の扉も壊した。
全てを思い出した俺が取ったのは、情報流出を敢えて起こしての一斉捕獲。
だけど捕獲した一団の中に慧さんがいなかった事で、俺は三祷奉納での襲撃を確信する。
絶対に何か起こしてくると踏んで、お祖父ちゃんに篠笛を託した。
……そして、結果はその通りに。

……だけれど。
その前日に慧さんによって拉致されていた周さんは、全ての事実を知って脱出を図った。
自分を黒幕に仕立て上げていた弟の一切を明るみに出す為に。
その為に……その為に、片足を捨てた。
もし俺が一斉捕獲の後で周さんの存在に思い至っていたら、助けられたかもしれなかった。
気付けず止められなかった自分への天からの罰だろうと周さんは笑ったが、悔いは募る。


此処までは、報告書の形で矧の重鎮達に渡っている情報と同じ。
……敢えて伏せられた、その先がある。
そしてその先を知り得るのは、今周さんに相対するお祖父ちゃんと久人さんと、俺だけ。

かつて周さんと慧さんを慈しんでいた、とある女性がいた。
名を、槐(えんじゅ)と。――茅都先輩の前の、宍矧首座。俺に三祷の極意を託した人。
若い頃に目の当たりにした、横行と欺瞞とが罷り通る矧の様を憂いていた人。
その憂いの幾らかを当時色々と払拭したのが我流であれ三祷を認められたお祖父ちゃん。
三祷の極意を極秘に継承し結果的に盛大に矧の中へ石を投げ込んだのが、今の俺。
矧の宗主であり祖父母世代のお祖父ちゃんと、孫世代、暁降月主である俺の間、
言ってみれば俺から見て親世代の間で変革を試みようとしたのが周さん達兄弟だった。
槐さんの想いに触れて育ったふたりは、矧の中に新しい風を呼び込もうと尽力したという。
……もし歯車が狂いさえしなければ、こんな形にはならず成功していたのかも、しれない。

根底にあった願いは皆同じ。矧の、変革。
だけど力を持たない事と、力の狂気に触れた事と、力に囚われない事が、全てを分けた。


「……馬鹿槐め。最後まで厄介事の種をばら蒔きやがって」

獅子の外への三祷伝授だけでも凶悪だったというのに、とお祖父ちゃんが呟いた。
極意を得るが為に賄賂飛び交う様をあれだけ憎んでた奴が同じ事かますか普通、と。
伝授された俺の前で言わなくてもいいだろ、と思ったが口には出さず。
……いや、むしろ、その時俺はそんな事を口に出来るような状況じゃ無かった。

「――貴方が涙を流す価値など私達には無いのですよ。貴方を殺しかけた存在ですから」


……周さんに、そう言われても、尚。



涙は、止まらなかった。
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