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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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2月28日。
新潟県某市北部、通称寒梅寺。

恒例の寒梅講も既に終わっているこの日、寒梅寺の境内は何故か騒がしく。
箒を担ぐ者、塵取りを携える者、水桶と柄杓を運ぶ者、花を抱えた者、他にも、他にも。
誰も彼も、皆中学生位の子供達。

その喧騒を鐘楼から手持ち無沙汰に眺める人影ふたつ。
黒味の強い焦げ茶色の髪をした少年と、薄い茶色の髪の少年と。
どちらも又、中学生位で。

加えて本堂の中から、そんな少年達と境内の中学生達を眺める人影ふたつ。
黒髪を三つ編みに結わえた少女と、左のサイドに細いリボンを結んだ黒髪ストレートの少女。
やはりどちらも、中学生位。






--------

「……何で俺手伝っちゃいけないんだろう」
「まー、しょーがねぇんじゃね? 今迄ずっといち一人で全部やってたんだろ」
「やってたも何も掃除して御供えして線香あげてたのは怜の墓だけなんだけど……。
……若住職さんめ、今年寒梅講に俺巻き込めなかったのがそんなに悔しかったか畜生」
「いや、あの住職さんは『そんなに人数集まってんならいっそ境内中頼めるかのぉ』としか。
それ聞いて『だったら今年はいちは御客様扱いで良くない?』と言い出したのは他の皆だ」
「……善意なの分かった上で結構凹めるんだけど、一真」
「しかし何故俺もそれに巻き込まれんだかそっちの方が不可解なんだけどさぁ」
「知るかそんな事……」

黒味の強い焦げ茶髪の少年は喧騒溢れる境内を、ほんの少し羨ましそうに眺めていて。
何故か御客様その2になってしまったらしい薄茶色の髪の少年は納得しきれていない顔。

「……何よりさ、この天気で鐘楼待機って身体冷えるばかりで結構辛いんだけど」
「そーだよなぁ……一緒に境内走ってた方が温まるよな、この天気じゃ」

吐く息は一瞬白く凝り、そして宙に溶けていく。

「あ、そーだ報告すんの忘れてた。無事に銀誓館進学決定したぜ俺。勿論理紗も」
「……お前だけ落ちるって楽し過ぎるネタを仕込んでは来なかったか」
「そんなネタぶちかます余裕なんか一切ありませんでした何言いやがるかなこの野郎は」
「やっぱり結構ギリギリな橋だったんじゃないか……」
「まーなー。正月の指摘通り理科の点数が思うように伸びなくてさー、地味に焦ってた」
「……ねえマウ、パニック起こしてる時の一真さ、突然笑いだすと暫く止まらなかったろ?」

にぃ……にぃ、と何とも言えない表情で頷く羽根帽子を被るケットシー、マウ。

「ああやっぱり……全然変わってないな、本当に」
「ちっ、やかましわこの野郎!」


「……あの場所でよく耐えてられるわね」
「一歩たりとも動くなと言われてしまったのでしょうか……お二人とも」

本堂の中、外よりは暖かい環境下で桜湯を戴きながら外を眺めている少女ふたり。
一体何の苦行かしら、と左サイドのリボンを揺らして溜め息を吐いた黒髪ストレートの少女。
寒そうな様子を見て気遣わしげに首を傾げて推測を述べる、黒髪三つ編みの少女。

「そういえば私は此処へ来ても良かったのでしょうか。私だけ関係者じゃありませんよね?」
「此処に来てる同世代の中でそんな事気にする人間はいないわ。私も厳密には関係の外」
「そうなの、ですか?」
「私は当時違うクラスだったからね。でも幼稚園だとか学年上がって一緒だった人もいるわ」

関係者なのは鐘楼の苦行組の方よ、同じクラスだったわけだし、と続けた。
此処には関係者一同とかつて同じクラスだった少年が、年若くして儚くなり、眠っている。
亡くなった年から一昨年までは、祥月命日に訪れていたのはたったひとりだった。
今鐘楼の中で手持ち無沙汰にしている、黒味の強い焦げ茶色の髪の少年、ひとりだけ。
……黒髪ストレートの少女の、双子の弟だけ。
だが、去年初めて祥月命日詣での人間が増えた。それが、薄茶色の髪の少年。
増えた側の少年が当時の同級生に一斉連絡を仕掛けた結果……境内の喧騒と相成った。
それを踏まえると、ふたりが鐘楼待機なのは抜け駆けへのペナルティ、なのかもしれなくて。

「もしかしたら、いちに加えて一真君まで新潟離れるって表明したせいもあるのかしらね」
「そ、そうなんですか!?」
「罪状としては当時のいちの方が重かったでしょうけどね。一切何も言わずに転校したのよ」

ちゃんと進学先が県外になるって皆に伝えた一真君の方が立派よ、と。

「……でも、それはちゃんと理由があっての事、だったんですよね?」
「そうね。……今でこそ、説明出来る相手になら出来る、理由が」
「説明出来る、相手……では、話せない人の方がまだ、未だ多いのですよね」
「ええ。遥かに多いわ。今この境内の中で共有出来るのはたった4人なのよ。私を含めても」
「……私と、一真さんと、はたるさんと……いちるさん本人ですね」
「もしかしたら知らないうちにもう数人いるかもしれないけれど。でもマウに反応しないのよね」

反応してくれてるとスカウトが楽なのに、と冗談ともつかない呟きを零し。

「そうだ。言うの忘れてたわね。銀誓館進学正式決定、おめでとう。一真君も含めてね」
「ありがとうございます、はたるさん。そしてはたるさんも一緒に銀誓館ですね」
「ふふ、ありがとう。……でも、私の受験はまだ終わっていないわ」
「ええと……“夢へ至る為の鍵”の方、ですよね」
「そうよ、そちらの方。結果が出るのは今日だから、今日中には分かる事なんだけどね。
もう鎌倉への進学は確定した事だけど、元々鎌倉進学は“夢の鍵”を得る事が前提だった。
……だけど、ね。だけど、迷うのは止めたわ。いちから素敵な苦言も貰った事だし。
今年その鍵を手に出来なくとも、猶予は後2年あるの。それなら、出来る事から始めるわ」

……例え3年の差から追い付くのは難しかろうと、追い掛けなきゃならないわ。

そう言い切って艶やかに笑むストレートの少女に、三つ編みの少女も笑んで頷いて。
刹那、小さな着信音。
オフホワイトの地に蔓薔薇の佇む携帯を取り出し開いた少女は、ほんの一瞬だけ瞼を閉じ。
……そして、花綻ぶように笑ってみせた。相手に携帯の画面を見せる。

――貴女に“夢へ至る鍵”を。而して学び舎の扉を開けと告げる、通知の文面を。


「……どうした、はた? ……そっか。そっちもカタが付いたって事か」

直線距離にして然程離れてはいない筈の姉からの電話に応えた弟が、電話を切る。

「ん? なー、はーちゃんどーしたって?」
「ああ、銀誓館以上に待ってた合格通知が今来たって。……ダブルスクール確定か」
「語学学校と高校とって相当キッツイよなぁ、頑張るよはーちゃん。夢の為とはいえ凄ぇな」
「俺は3年後にその道が待ってるよ。調理師学校と大学とでね」
「あれ? いちの進学先って調理関係のある大学じゃなかったっけか?」
「一寸、ね。この正月でもうひとつ夢が増えた。二足草鞋は無茶苦茶厳しいだろうけど」



「いちー、一真ー、待ったか?」
「……待った所の話じゃねーよ篤輝! いつまでお預け食らってたと思ってんんだコノヤロ」
「流石にこの天気でじっとしてろは酷だったよ……本当に境内中綺麗にしたんだね」
「今日1日喧しくする事考えるとそれ位はちゃんとお寺さんに還元しないとさ。これ皆の総意」

鐘楼に駆け寄った、漆黒の短髪少年が待ち草臥れたといった表情の少年達に声を掛ける。
それと時を同じくして境内中に散っていた同世代達がわらわらと集まり始めた。
――此の雪国に咲くのはもう少し先の桜を待たずに始まる、ほんの少し早い同窓会。





そして道は続く。

各々の目の前に現れる、扉の先へと。
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