@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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「……辰砂、それは?」
「槍だよ。新しい槍。持ってた奴は一昨日やらかして折っちまってね」
「ああ、あの猪止めた槍か。そういえば、その槍の破片皆が欲しがってたぜ」
「……何故槍の残骸を欲しがる?」
「勇敢の証、って奴だ。験担ぎってとこもあるけどな。辰砂強いから憧れ対象」
……何だそりゃ!?
壊れた槍なんかにそんな験担いでどうするんだよ一体。
茅流の後ろにいた少年、杷留(はる)のそんな一言に物凄く驚いたあたしがいる。
人間の考える事は不可思議だ……。
ああ、茅流と杷留とは双子だ。茅流が妹、杷留が兄。
男女の双子の筈なのに見た目が殆ど一緒。一瞬どっちか分からなくなる。
因みに杷留は蘇芳色の着物で、黒い髪に藍色の瞳。髪の結い方も茅流と同じ。
だから陽のある場所なら茅流との判別に易いんだが、夜になるともう分からない。
……ほんの少しの間だけ、身体が元に戻る間だけだと思ってた。
だがいつの間にか、矧の中で化け物相手に暴れ回る事を楽しんでいるあたしがいる。
茅流に連れられて塒に招かれた時、確かに四方八方から色々聞かれた。
だけど聞かれた事は、先ずあたし自身のことだった。
人間じゃないって言ったら使える技の事聞かれて、答えたらかなり羨ましがられて。
独楽の舞とか囮弾の術とか、そういうのは人間では出来ないらしい。
……あたしとしちゃ、水の中で溺れないとか化け物感知出来るとかの方が羨ましいよ。
そんなこんなで、蜘蛛の事とかも軽く触りだけ説明した。
蜘蛛童として生まれて、成長して鋏角衆か土蜘蛛になるって事位だけど。
……そしたら。
いたんだ。土蜘蛛が。塒に。
血の気が引いた。
鋏角衆として刻み込まれている、土蜘蛛への畏敬と服従の、心。
文字通り固まってしまったあたしに近付いてきた長い銀の髪の土蜘蛛の女。
何をされるのかと思った次の瞬間……抱きしめられた。
――辰砂、辰砂と言うのね。私は玉滴(ぎょくてき)。どうか貴女を妹と呼ばせて頂戴。
……引っ叩かれるとか身分の違いを知れとかそこら辺を覚悟していたあたしは更に硬直。
いや、土蜘蛛に妹と呼ばせてだなんて普通あり得ない。あたしは鋏角衆だぞ!?
で、宴の後でこっそり畏まりながら玉滴に聞いたんだ。何故だって。
「……あたしは鋏角衆だ。土蜘蛛の成り損ない。なのに、何故妹と呼ぶんだ?」
「群れは違えど同じ蜘蛛の氏族ならば兄弟姉妹と同じ。元は皆蜘蛛童ですもの」
「そりゃ、そうだけどさ……でも、童から育った後は、違うじゃないか」
「違わないわ。焔を操る蜘蛛と刃を牙を操る蜘蛛の違いでしか無いじゃない」
「……そこが大きな違いだ。蜘蛛と、成り損ないの溝は深い。どの群れも同じだろ」
「……そうね。同じね。……私の親友は鋏角衆だった事だけで、逝ってしまった」
だから、群れを出た。
……玉滴は、そう言った。
「私の親友を殺したのは蜘蛛よ。同じ蜘蛛童の果てが、同族を殺したのよ」
「……あたしはその親友って奴の代わりか?」
「代わりじゃないわ。辰砂は辰砂、その名の通り凛として誇り高く、美しく強い赤の蜘蛛。
そんな貴女と同じ蜘蛛である事が私にはとても幸せで嬉しいの。まさか此処で逢えるなんて」
玉滴の赤手は、その髪の色と同じ銀。赤手では無く銀手と呼んでも差し支えないような得物。
土蜘蛛のみが操るそれに憧れた事は幾度となくあった。あの威容が欲しかった。
……欲しくとも、あたしには操る事など出来なくとも。
「……分かったよ。妹でも何でも好きに呼んだらいい」
「本当にありがとう、辰砂。私の事も姉と呼んで頂戴。遠慮は要らないわ、此処でなら」
ああ、確かに。
此処ならば、この矧の塒ならば何だって許される、そんな気がしてならない。
……何せ。
「……蝙蝠と狼ぃ!?」
「そう。蝙蝠と狼」
茅流の言葉に素っ頓狂な声を上げてしまった。
……此処にいる人間じゃないヒトというのはあたしや玉滴だけじゃなかったんだ。
蝙蝠と、狼。
「……蝙蝠って、まさか化けられるって事なのか?」
「いや、異能で作り出す蝙蝠を眷属として操り戦う遠い海の向こうの異郷のひと。
狼のひとは、狼になれるけど。そのひとも、遠い海の向こうから来た」
そう言って茅流は一人の男を指差した。
「……へ。何、まさかその狼ってのはあの人だって事か!?」
「そう。あの人。蝙蝠のひとを連れて此処まで旅をしてきたって言ってた。
元々蝙蝠と狼は余り仲が良くないらしい、けど。でも拾って育てて、本当の子供みたいに」
鋼真(こうま)、と呼ばれる壮年の男。金と白が混じった髪色の男。
あたしと同じ槍使いながら、あの人の槍は重く強く、恐ろしいまでの破壊力を見せる。
その槍に氷を纏わせて勇猛果敢に戦う様はあたしの憧れでもあった。
「……じゃあ蝙蝠ってのは誰なんだ? 鋼真さんより年下って事だよな、子供って事は」
「多分、辰砂もよく知ってる相手。聞いてみるといい。蝙蝠出してみろって」
「あたしがよく知ってる? ……誰の事だそれは」
「ん? 嬢さん方こんな所で何してんだ?」
「……げ」
……逢いたくない奴が来た。
嫌がらせかと思う位縦に長い身体で褐色の肌した男、佐々(さざ)。
何かしら突っかかってきたり張り合おうとしたり色々と諸々鬱陶しい野郎だ。
「茅流と喋ってただけだ。野郎はさっさとどっか行けどっか」
「うわ酷ぇ。頭達が組み手の時間だって言うから知らせに来てやったってのに」
「それはどうも。用が終わったらさっさと他の人等にも知らせに行けばいい」
「……ちぇ、取りつくシマも無ぇんかい……」
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