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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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――紛れも無い真実。積み上げた偽り。只人ならば知らぬ方が、幸いなれど。






太陽は既に西の地平へ落ちて久しい。
それにもかかわらず、夜闇は未だ暑さを手放そうとしない。
始まりの遅かった梅雨は唐突に終わりを告げて去って行ってしまった。
強引に取って代わった風すらある夏は既に連日我が物顔で暴れているという始末。

熱気を孕んだ夏の夜。
そのじっとりとした暑さはどれだけ暗くなろうが居座る気満々のようで。
千葉県某市中心部にあるその駅も例に洩れず、熱と人とを乗せた電車が行き交っていた。
しかし夜が更けゆくと共に到着する電車と電車との間隔が広がり、乗客も疎らになっていく。
駅ロータリーから路線バスの姿が消え、最終バスを逃した客相手のタクシーも次々と出発。
付近の居酒屋で一杯やったと思しき集団もとうに去り、少しずつ熱籠る静寂が周囲を包む。

そんな駅の中、3・4番線ホーム。
――銀誓館学園の運命予報士、堤典杏が齎したゴースト事件のまさにその現場。
長閑に長閑に走る2両編成の単線は既に最終電車が発車した後。
反対側の番線の最終電車も間も無く到着するといった時間。既に日付は変わっている。

「……時間忘れてよるっつーオチじゃないですよね、まさか」
「それを聞こうにも何より怒鳴ろうにも肝心の携帯が繋がらないんだが」
「電話、繋がらないのですか? でも確か向こうは御一人じゃ無かった筈ですが」
「残念ながらその両方と繋がらないんだよ。……残菊は兎も角流茶野は許さんぞ」

この暑さにもかかわらず長袖にハンチング姿という翠眼の少年が西寄り訛りで尋ねれば、
頬に二条の傷痕走る青年が相手に繋がらぬ携帯を片手に深い溜め息を吐いて。
花椿の髪飾り映える漆黒の髪の女性が未だ合流叶わぬ相手『達』である事を指摘すれど、
相手『達』全てと連絡が取れぬと青年は返し……眉根を寄せて不穏な単語を口に。

「もういっそ諦めてタクシー呼んだ方が早いと違います? ……なー、まだ生きとー?」

その方が目的地には早う着くから、と続けつつ少年は傍の待合スペースを覗き込む。

「……ヤバイ、アレもう完全にダメっぽいかもしれへん」

待合スペースの中、少し前まで椅子に掛けていた筈の人影は既に倒れ込んでいる状態。
額の傍に転がる水の満ちたビニール袋、確か数十分前は氷が限界まで詰まっていた筈で。

「……電車、来た……?」
「後1分。――いや来たらその時起こすからまだ寝とかんかいってば」
「……身体起こしてないと意識飛びそう」
「ええい無茶しよってからに……」

足取りは普通だが顔や首元、腕の肌色が薄いを通り越して青白ささえある長身の少年。
頭上の電光掲示を目を細めて眺めていたが、不意に何かを感じたか振り返る。

「――足音」
「はい? ……あ、マジだ全力疾走2人分」

電車の滑り込んで来る音がホームを支配する中、階段の上から響き近付く乱れ調子の音。
先に駆け降りて来た黒髪痩身の青年は、しかし数段飛ばしの代償か踏み外して宙を舞う。
刹那、長身の少年が身を翻し数段駆け上がったは段上の青年が足を滑らせたとほぼ同時。
咄嗟に手摺りに預けた手と逆の腕を伸ばし落下する青年の腕を何とか掴みはしたが、
自分と相手、2人分の体重を片腕で支えた上で引き戻すには少年の膂力だと些か足りず。
滑り落ちそうになる身体を翠眼の少年が共々押さえ、何とか事無きを得た。

「み……皆様、大丈夫ですか?! 御怪我してませんか?」
「俺は平気ー。やけどいちが腕痛めたかもしらんわ、何しとんのや無茶しやがってからに」
「顔面からダイブよりはマシだよ……多分」
「――さて。この混乱の中終電も既に出た所でじっくりと申し開きを聞こうか、流茶野」
「一寸待とうか渕埼寅靖、これでも限界突破したスピードで戻って来たんですってば!」
「すまん寅靖……俺が迷ったんだ、それで影郎まで巻きこんでしまって」

後から階段を駆け降りて来た緑メッシュ混じりの精悍な青年が己のミスを詫びるものの、
傷痕持ちの青年は怒りを通り越した微笑を浮かべて落下未遂者への詰問を開始した模様。
一方無茶しやがった少年は早速花椿の女性から冷却スプレーでの応急処置を受けており、
翠眼の少年は駅員が来ないか階段の上を窺うが……どうやら来る気配は無いようだった。

「……こんだけ騒ぎになったら普通様子見に来る筈なんやけど……まさか、ねぇ」

考えられる理由のうちのひとつ。
そして、その理由を絶対のものにする、間違えようも無い『気配』。

「――あー……やっぱりな」

余程『気配』の主は山程群れている愚かな獲物共を可及的速やかに招き込みたいらしい。

「えー、皆サンそろそろカーテンコールも切り上げましょうか。……来やがりましたから」

その言葉にぴたりと止む詰問。ホーム上に緊張が走る。
先程迄の一部不穏で険悪な雰囲気も何処へやら……どうやら全て演技だったようで。
……多分、ダイブとか負傷とかその辺りは想定外だっただろうけれど。
もしかしたら用意したシナリオに現実味を持たせようとした人間が居たのかも、しれないが。

「つー事で出番やよ、“はたちゃん”。スニーキングお疲れ様や」

咄嗟の避難で事無きを得ていたトートの留め具を外す翠眼の少年――尭矧彩晴。
中から顔を出した白地に焦げ茶の虎縞猫は藍の瞳で周囲を見渡した後に外へ飛び出す。
その足がホームに触れた時には既に緋色のリボン揺らす少女――掛葉木はたるの姿に。
花椿の女性――東雲雛が手にしていたもうひとつのトートには黄金色の瞳持つ黒猫の姿。
一声鳴いてするりと降り立つとほぼ同時に銀髪の少女――ユエ・レインの姿へと変わる。
不意に吹き込んだ熱持つ風に煽られる緑のメッシュを押さえた精悍な青年――七瀬残菊。
痩身の青年――流茶野影郎は滑り込んで来る銀の車体を眼鏡越しに眺めやれやれと呟く。
開く最後尾のドアの動きを目で追いながら知らず拳を握りしめる頬傷の青年――渕埼寅靖。

「――御互い、五体満足で再会しましょ」
「……信じてるからな」

皆から一歩退いた位置に立つ長身の少年――掛葉木いちるへ双姉のはたるが声を掛けた。


響く起動宣言。
其の身に纏うは各々の異能と詠唱兵器。



銀に輝く更夜の禍津特急、今宵の客人は8名。

――否、客人に非ず。

――今宵限り、此の世より禍津の揺り籠を葬り去る者達也。
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