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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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――2002.02.28



「止まないですねぇ、雨」
「……それ昨日からずっと言ってる」
「明日から3月なのですのに、お天気が悪いのは宜しくないのです」
「雛人形が出せない言い訳に聞こえるのは気のせいだよね」
「き、気のせいなのですっ! 例え一昨日までとてもいいお天気だったとしても……っ」
「……気のせいだよね?」
「……負けましたごめんなさい、でも雛人形はいちると関係無い筈ですが気のせいですか」
「……はたの方だよね関係大有りなのは……負けましたごめんなさい」

……何かもう、今年は雨が良くないモノでも運んで来ている気がする。
何度目だか本気で数えたくない風邪で倒れての2日目。
雨の切れる兆候すら無い空を見上げて溜息をつく母さんと、布団の中で溜息をつく俺。
頭は痛いわ喉は痛いわ、熱で意識はぼんやりするわで色々とキツい。
氷枕の感触はまだ固いから氷は残ってる筈なのに、冷たさや心地良さを殆ど感じない。
……感覚そのものも鈍ってるんだろうか。

「でも、本当に止まないですねぇ……しとしと降りだから止みそうにも見えるのに」
「下越の冬なんて毎年こんな感じじゃなかったっけ?」
「そうでしょうか……何か今年は、違う気がするのです」

……あれは、母さんの直感、だったんだろうか。

昨日からあれだけ高い値を維持し続けていた体温が急降下したのは夕方前。
頭痛も喉の痛みも綺麗さっぱりなくなっていた。
余りにも奇妙過ぎる回復。まるで何かの、予兆のような。


――だけどあの時の俺は、それが奇妙だと思うまでに至らなかった。



「……甘露煮の匂いがする」
「大当たりです今日は鶏レバーさんの甘露煮ですっ。……ああっ!?」
「ちょ、何その大声悪魔でも出たの?」
「御汁粉用の水に浸した小豆の事を忘れてて甘露煮で砂糖全部使ってしまったのですっ!」
「……母さんナイス素ボケ」

……はは。時々あるんだ、この光景。

「俺がよつばマート行ってくるから母さんは鍋見てて。他に切れかけの物は?」
「ええと、えと、確かお醤油がそろそろ危なかったような」
「分かった、すぐ行って戻る。自分の財布持ってくから精算は後で」
「風邪大丈夫なのですか幾ら熱が下がったからって」
「大丈夫。……母さんが鍋焦がす方がはっきり言って冗談にならない」


身軽さ重視の選択でレインコート羽織ってよつばマートまで走った。
本当に数時間前まで熱出してたのが嘘みたいに身体が軽い。
普段隠してる能力者としての力をこっそり使ったとはいえ、最速記録更新。

……そう、この時点で、何かおかしいと俺は気付くべきだったんだ。


数分後、袋抱えてよつばマートを出ようとして、異変に気付く。
雨音と自動車の走り抜ける音に混ざるサイレン。

……救急車と、パトカー。

普段だったらこの雨で何処かの車がスリップでもしたんだろうと思うだけだったろうが……
何故か、胸騒ぎがした。
人だかりが発しているのだろう喧噪が意外に近くで聞こえる事も奇妙な不安を煽る。
周囲を見渡すと、左手側にちらちらと赤い光が踊っている。自宅とは、逆方向。
様子を窺うだけなら時間も食わないだろう、と……


喧騒は、近づく程に膨れ上がる。
飛び込んでくる言葉を繋ぎ合わせ、大体の状況が頭の中で組み上がっていく。

――信号無視した自動車が交差点突っ切って電柱に衝突――

――暴走車は横断歩道を渡っていた歩行者を巻き込んだらしい――

――どうやら巻き込まれたのは子供だとか――


……ひとつずつ状況のパーツが埋まる毎に酷くなっていく胸騒ぎ。

『引き返せ』と言わんばかりに速度を上げる鼓動。

それらに抗うかのように、俺は赤い光が明滅する交差点へ歩を進め……



……『それ』を、見た。



前方部分が完全にひしゃげた自動車。

衝突の衝撃を物語るかのように斜めに傾いだ電柱。

道路の其処此処に生まれた、パトカーのヘッドランプで鮮やかに輝く赤黒い池。

散乱しているのは自動車の窓ガラス、金属パーツ、鞄や靴に帽子に……



……鞄や……靴や、帽子に……     ……ねえ、アレは、ナニ……?



ばしゃり、と水音が遠くに聞こえる。
自分の視界が一気に低くなったような気がしたが、そんな事はどうでも良かった。
強烈な照明に照らされた中、赤い、染みを、宿して転がる、アレは……

「……掛葉木君!? 今日風邪で学校休んでたのに、どうして此処に!?」

誰かが、俺を呼んでる。
肩に手を触れて、俺の顔を覗き込んで。

「……さくらい、せんせ……」

勝手に声が出る。勝手に腕が上がる。
交差点の真ん中で雨と血に濡れるアレを、指し示そうと。

「お母さんかお父さんは一緒じゃないの?靴も服もびしょ濡れに……どう、したの?」

俺の異変に気づいたのか、膝をついた体勢の櫻井先生が俺の指差す方向を目で追う。
……ああ、さっきの水音、俺が膝から水溜まりに落ちた音だったのか。


「……轢かれたの……怜だ」


意識は、其処で途切れた。



……塗り潰された闇の中の残像は、血溜まりに沈む、見紛う事無き、ぷちくなぎ……。
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