紫陽花色の空の下。

１４年間生きてきて初の経験。



……自分の（ひいては姉の）誕生日、その日になっても忘れてた。

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中間テストの終わった１３日の金曜日（あ、ジェイソンデーだったんだ）、
学園からダッシュで戻った僕は部屋に用意していた荷物を掴んで家を出た。
自転車に飛び乗って街中を駆け抜け、繁華街を抜け……

辿り着いたのは、紫陽花の生垣に囲まれたお茶店。

伯父さんの知人が切り盛りするこの店の近くにはお寺さんがあり、
境内の紫陽花を鑑賞する祭りで訪れる沢山の観光客を捌く為のお手伝いが目的。
それと一緒に和菓子の作り方教えて貰えるって言われた事もあって。

（……到着後に来た学園からの緊急メールはとりあえず見なかった事にした）

制服代わりの作務衣や前掛けには花の刺繍が対になるよう施されていて、
どれ着てもいいよって言われたので鉄線花を刺繍した一対を借りて。
泊り込んでのお手伝いと和菓子作りとで忙しくもとても楽しい週末だった。


日曜の夕方、帰り道。
見上げると赤から青へと緩やかなグラデーションの空が広がっていた。
赤紫色から暗い青紫色へと変わる、その瞬間が余りにも綺麗で、
今まで居たお茶店の紫陽花を思い出して暫くの間眺めていたのだけど……



家に戻ると、何故か伯父さんの店に明かりが灯っていて。
確か今週末はお店お休みだった筈なんだけど……と訝しんでドアを開けたんだ。

パーン、という音と共に飛んできたクラッカーのリボン。
待ち構えていた伯父さん一家とお店のスタッフ全員。
口々に投げ掛けられた「Buon Compleanno!!」。


……ええと、これ誕生日のスタッフがいる日恒例のサプライズナイトだよね。
で、僕に仕掛けてきたって事は……あれ？一寸待って？今日何日だっけ？？


６月１５日。
忘れるなんて筈が無い、筈の、僕とはたの誕生日。
でも、だけど……今の今まで忘れてた……！？



サプライズナイト終了後、僕の部屋に届いていた贈り物にまた吃驚して。
そうしてふと、一番重要な事を思い出し咄嗟に携帯で時刻を確認する。

２２時２６分。
……良かった、これだけは間に合う。
それでも残り少ない時間と戦い、文面を整えたメールを準備して、カウントダウン。

２３時３分。
時間ぴったりに携帯からメール送信。
直後に、一通のメール着信を知らせる画面が浮かび上がる。


『１４回目の誕生日おめでとう、いち。そして、私も。
離れてから迎える誕生日はこれで２度目ね。
春にまた戦いがあったと聞くけど、それから大きな怪我してたりはしない？
他の事は兎も角、怪我に関しては私も、父さんも母さんも本当に心配してるから。

学園祭、もしかしたらこっそり見に行くかもしれないわ。
私の学校の学園祭も７月だから、被ってしまうかもしれないけれど。

この１年、私に幸いがあった時、どうかいちにも同じ幸いを。


Ｐ．Ｓ．
……秘密にしようかと思ったけど。
実はね、今年は一寸危なかったの。出生時刻のこのメール。
本当に吃驚なのだけど、今日になるまで忘れてたのよ。私達の誕生日。
どうしてかしら……学園祭の準備に追われてたのは、間違い無いのだけど』