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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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――2009.08.28   NIIGATA



アサルトメイデンの弾幕を掻い潜り彩晴が彼女の懐に迫った。
傷付いた右腕を庇い左腕のみで鎚を振りかぶるが、慣れぬ操り方で生まれる大きな隙。
その隙を逃す筈も無く、長銃の先端に突如出現した銃剣で逆に彼の懐を突こうとする。
だが、彼女のその行為こそ彩晴の本当の狙い。
くるりと柄を回転させ、身を屈めて鋭く尖った鎚の先端を勢い良くグラウンドに突き刺した。
鎚の先端が地に接する程に下を向けば対極となる柄の先端が跳ね上がるは道理、
その勢いのままアサルトメイデンが構えていた長銃を銃剣ごと彼女の手から弾き飛ばす。
突然の事態に驚愕する彼女の懐に、サマーソルトばりのクレセントファングを見舞った彩晴。
後方へ宙返りした彼の足が地に戻った時には、リリスの存在など始めから無きが如く。

「は、想定外の一撃誠に残念でしたってな! むざむざ死ぬ訳にゃいかねぇんだよ!!」

吼える彩晴の傍ではマウがオトリ斬りを放って大猿の怒りを自身に向けさせていた。
博打寸前とはいえ回復手段持ちの自分とは違い術を持たぬマウを援護しようと即座に判断、
怒りに我を忘れた大猿の死角から素早く鋭い一撃を食らわせる。
気魄に長けた妖獣相手には同じ気魄の真っ向勝負よりも術式の鋭さが効くと踏み、
片手分の腕力を機動力でカバーした攻撃に虚を突かれた妖獣の心臓をレイピアが貫く。
どうと斃れて溶解する様を見る事無く走り出した彩晴とマウの視界に、小さな黒髪の人影が。

「……なあるほど?」

……従姉を(そして結果的には従兄をも)散々っぱら悩ませてくれた諸悪の根源はコイツか。
寸足らずで猟奇的で色気に乏しく、その手の趣味の男共を一瞬で跪かせてくれそうな幼女。
一度遭遇済みのせいか姿を認めていきり立つマウを手で制し、立てた親指で背後を示す。

――コイツを後衛陣の範囲内に巻き込ませる。

背後を示した彩晴に首を傾げたマウだが一真の姿を見て意味を理解したのか、にぃと鳴く。
即座に後退した2人を援護する形か、一真の不浄泥濁陣が再びグラウンドを変質させる。
禍々しき毒沼が一瞬で展開されるも、幼女リリスを守る妖獣達で毒に冒されたのは2匹程。
癒しの歌を一時止めて理紗が龍撃砲を放つも、その衝撃波は1匹2匹を掠めるのみ。
奴を囲むのは精鋭揃いって事なのかよ、と効果の乏しさに舌打ちする一真。
だがその悔しげな表情はあの幼女リリスにとって中々そそられるものだったようだ。
結果的に調子に乗った幼女を引き寄せるべく、彩晴とマウは囮として後方へ走り出した。



直ぐ真横に迫っていた鴉に炎の魔弾が直撃して灰すら残さず燃やし尽くす。
長短一対の燕刃刀から繰り出す刺突を駆使しつつ、いちるは炎弾の数を頭の中で数える。
撃ち尽くすなと双姉に釘は指したが、この戦況では遠距離攻撃の手段がなければ戦えない。
万が一魔弾が尽きてしまえば、彼女の抱える魔道書では前に出て殴るしか術は無い。
皮肉にも前に出る彼の得物たる燕刃刀の方が射出展開による遠近両方の戦闘を支える品。
……多くの仲間が銀誓館に合流した今現在でも、意のままに操れるのは水練忍者のみ。

(「……射手の分を除外した上での弾数は確か最大12、今ので丁度半分……結構、拙い」)

そう思案する彼の表情に、しかし焦りの色は欠片も見当たらない。
……それどころか、目深に被ったキャスケットの下に浮かんだのは薄く冷たい笑み。
悪癖なのは自覚しているが、追い詰められる程逆に直感力が冴え始める二面性の業。
スロースターターも大概にすべきなのだがこの時ばかりは状況が彼に味方する。
一角を生やし突進してくる猪にわざと無防備な姿を晒し、交錯する瞬間に燕刃刀を射出。
無数の刃による零距離射撃ならぬ零距離展開で蜂の巣になった猪を踏み台にして跳躍し、
視界に迫る深紅の熊の額へ燕刃刀ではなく彼自身の掌を接触させた。
刹那、極限まで圧縮された水の力が熊の頭部だけでなく全身を粉微塵に砕き尽くす。
赤い霧と化した血飛沫を避けようともしない彼の姿に戦慄したか動きが鈍くなる妖獣の群れ。
戦意そのものを砕き力を失わせるという戦術はそこそこ功を奏したらしい。
戦力を格段に引き上げる白燐奏甲の力が無ければ決して成功し得ないものではあったが。

そんな序盤よりは幾分拓けた戦場の中、照明の届かぬ仄暗い視界に浮かぶ幾つもの人影。
ひとつは黒髪の小さな影。多分彼女が例の幼女だ。
そして他の人影を見定めた瞬間、彼の黒い瞳に一瞬だけ群青が混じり掻き消える。

「……来た」

待ち続けていた、仲間が。
だが次の瞬間気付いた“それ”に顔を強張らせ、身を翻して駆け出した。
事態収拾の一点だけに意識を集中させたが故の、全てに無防備な自分にも気付かず。
……銃声が耳に届いたのと、右足を撃ち抜かれ地に転がったのはどちらが先か。
だが瞬時に起き上がり、痛みを水霧の力で無理矢理抑え込んで走り続ける。
幼女リリスの誘導で後退していた彩晴が自分の元へ駆け寄るいちるに気付き、足を止めた。

「――彩晴」

逆手に構えたままの那由他の切っ先を“それ”へ向ける。
示された方向へ視線を動かした彩晴の瞳の深緑が鮮やかに煌いて見えた気がした。

「――OK、任せな。“封印解除”やよ?」

その言葉に小さく頷き、左手の周囲で瞬き始めた白燐の蛍を彩晴の天球儀に纏わせた。
幼女リリスを視界に捉えた以上、白燐奏甲と共に後衛陣を守らねば危険度は跳ね上がる。



「――走れっ!!」
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