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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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――天使の梯子、という言葉がある。

雲の切れ間から差し込む一条の陽光が、
まるで天に架けた梯子のようだという謂れらしい。
十字架で御馴染みの宗教画で時たま見る、あの風景だ。

天使の登る、天へ繋がる梯子。


一条の光は、時に心の奥底を貫いて揺り動かす。

……あいつの心の曇天にも、どうやら漸く天使の梯子が架かり始めたようだ。





--------
……此の世には、大多数の人間が揺り篭から棺桶に至っても知る事無き真実がある。
それは本当に知らなくて済む事だ。
知ってしまったその時から、世界の色が昨日と余りにも異なって見えてしまう程の。

それでも中には自分から真実を聞き出した大馬鹿一般人も、いたりするわけで。
……何せ、俺も、その一人。



去年の正月明けから、俺の家には家族が一人増えた。
妹の子供だ。俺にとっては可愛い甥。
彼が俺の実家のある北国から鎌倉の『学園』へ編入した為、預り手となった。

自分が凄まじく親馬鹿、かつ女房馬鹿なのは周囲も知るところだが、
実のところ俺が馬鹿になってしまう対象は、もう少し多い。
……妹とその子供達、双子の甥と姪も勿論対象内で。
だから編入の為の上京話を聞いたその日に、俺の方から下宿話を持ち掛けた。


それは単なる甥可愛さ、だけではなく。
俺の知る世界の真実と甥が(正確には妹とその旦那、そして甥と姪が)繋がっているから。
『学園』の外に、相談相手の一人も必要だと思った為でもあったんだ。



――俺は一般人だ。だが、世界結界を知っている。
妹と後に旦那となった男が高校生活兼任で人知れぬ修羅場を潜った事を知っている。
双子の甥と姪が妹達と同じ力を生まれながらに持っている事も知っている。
甥が編入を決めた『学園』が、その力を伸ばし護る砦である事も。

家族の中で、俺と、当の甥だけが知る真実。



今年に入ってから、甥の様子が何処かおかしかった。
生来笑顔の絶えぬ明るい――厨房を俺達と駆け回る時は特に――甥だったのだが、
彼に似合わぬ難しい顔をして考え込んでいる姿をよく目にするようになった。
暫くしてまた笑うようになり杞憂かと思った矢先、ある日家に帰り着くなり玄関で卒倒。
……高熱を発し数日寝込んだ後、彼の表情から普段の笑顔は消えていた。

遠い昔、旦那と出会う前の妹が時に見せたと同じ、虚空を見据える目。
それは能力者としての不覚を為した己への憎悪を宿した目だった。
流石に家族の前では何事も無く振舞ってはいたが、その笑みは平時と違い、酷く儚く。

だが他の何よりも顕著な変化に、俺は直ぐに気付く事になる。
彼は、あれ程我が領分と縦横無尽に使いこなす厨房へ一切足を踏み入れようとしない。
熱が引いてからも、学園へ再び通い出した後も。


俺は敢えて何も言わず、何も聞かなかった。
一般生活における何たらや厨房内の裏技なら俺の年季が物を言う。口も出せる。
……だが能力者としての一切は、能力者たる彼自身で決着をつける他が無いんだ。
かつての妹がそうだったように。後の旦那がそうだったように。



ある日の夜。
閉店後の厨房を片付けていると、彼が紺色のバインダーを抱えて入ってきた。
装丁の紺革も綴ったレシピも持ち主が未だ13歳であるとは思えない程使い込まれ、
大事な大事な宝物たるバインダーを、両手で抱えて。

「……少し、此処を使ってもいいですか」
「何を言うかと思えば。盛大に使え盛大に、夜中だ邪魔は入らんぞ」

例え開店中だろうが厨房内はフリーパス、の約束を初日に交わした仲だ。
二つ返事で招き入れると定位置にしている中央の島の一角でバインダーを開く。
材料と道具を揃えていく動作を見ながら、だが小さな違和感を覚えた。

平時は澱み無く出来ていた筈のそれが、何処か慎重で、緩やかで。
幾度もレシピを確認しながら、指で追いながら、工程をひとつづつ進めていく。
気になって覗き込んだレシピは暗唱すら出来そうな、手馴れた物なのに。

「どーした?まだ風邪っ引きか?」

「……手が、動かなくて。まるで感覚の記憶喪失にでもなったみたい」


動かない、だと?嘘だろ?
伯父馬鹿承知で言わせて貰えば天性の才能持ちな彼が、か?
……いや、まさか。
本当にまさかとは思うが、此処ひと月の異変の影響がそれほどまでに?


不意に計量の手を止めた彼は、静かに瞼を伏せる。

時が止まる。

……泣くかと思った。多分、思い通りにならない自分自身が悔しかろうて。



だけど、彼は笑った。

半月振りの何時もの笑顔で。



「……確かに驚いたけど、でも、これも僕だから。基本浚い直す良いチャンスかな?」





数刻後。
作り上げた品を詰め込んだ保温バッグを籠に、自転車が夜の街へ飛び出していく。
大忙しだったクリスマスのバイト代として彼に贈った新しい自転車が。

……先輩へ届けに行くんだ、と。
酷く疲れてる筈で、でも直ぐに厄災に巻き込まれた人々を助ける為出発する先輩に、と。
ほんの少しだけでもいい、これで身体を休める時間が生まれれば、と。


――僕は鎌倉に残って、皆の帰りを笑顔で迎える。約束、したから。


多分、全てを振り払えたわけではないんだろう。
それでもまた笑えるだけの決着を付けたのならば、それでいい。

彼の時間は、まだまだ沢山残っているんだ。
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