儚刃の翔、六花の舞。

夜の闇に浮かぶ黄金の真円。
光振り撒いて、天に座す。

――その光は、憎悪凝る廃墟にも等しく。

街路樹の陰に自転車を隠し、廃墟に音も無く滑り込む。
粉々の硝子に首の取れたマネキン、雨に滲んだか活字が読み取れない書籍。
赤黒い染み、謎の骨片、澱む空気に混じる死臭。

かつて“アミーゴ横須賀”と呼ばれたモールは、けれど今や憎悪の揺り篭。

エントランス中の気配が一点に、唯一人歩を進める余所者に注がれる。
向けられる感情は憎悪か、歓喜か、それとも。



『――叶えたい事は口に出してみたらいい』
『いわゆる言霊って奴だ。自覚して言葉にすれば、嫌でもその気になっちまう』



久々に逢った（それは皮肉にも銀誓館のキャンパスだったけど）従弟が語った言葉。

『もう効果はバッチリだぜ？　俺はソレで天体望遠鏡買えたんだからな』

……今でも彼が担ぎ回ってる傷だらけの望遠鏡は、当時の小学生には高過ぎる品だった。
だかそれを己の貯金だけで買った昔の自分をホント褒めてやりたいぜと笑う従弟。



――今こそ、言霊を借りよう。




「……今の僕に出来る事は、先ず皆を信じる事」

――“陰陽都市計画”阻止に向かう沢山の学友達を、ひまつぶの皆を。

「皆の無事を祈って、銀誓館で待つ事」

――必ず戻って来る皆を、“おかえりなさい”と迎える為に。

「……そして」

一度息を吐き、瞼を閉じる。
同時に右手の抜き身の刀から幾つもの駆動音が鳴り響き、分かたれた刃が宙に踊る。

燕刃刀。
刃部の複数分離・射出が可能な、水練忍者のみ操れる詠唱兵器。

周囲を高速で飛び回る燕刃の風圧か、雪晶を型抜いたコートの裾が翻る。
竜巻の中心にいるような感覚の中、静かに瞼を開く。

……月明かり届かぬ闇を、見据えて。


「――そして、強くなる事」


――闇が揺らぐ。
異形の影が、銀の雨により力を得て蠢くゴースト達の姿が、闇から湧き出す。
彼等全てから向けられた強烈な殺意を一身に浴び――

――薄く笑む自分に気付く。


「さあ、総出で潰しに来い。一対多数、簡単だろ？」


――大丈夫、端から敗北なんか考えない。





「――背水上等、纏めて黄泉津に送り返す！」