◆朧月夜の櫻舞う夢

　　※ ≪注意≫
　　※このＳＳは４月１日恒例のネタ便乗によるものです。
　　※何が起ころうとも一夜の夢です。ええ夢だとも。
　　※いちる本人にそのケも一切無いと断言をば。


　　※……そして先に謝る。彩晴氏マジでゴメンなさいorz 
　　※頑張って他の方々も出そうとしたが君と絡むのが精一杯だった！
　　※もし恨むんだったら親戚関係構築した君の後ろさんを恨んでくれ！


　　※（……と弁明もそこそこに全力で逃亡開始した馬鹿野郎１匹）

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「……何とも他愛無い方々ですこと」

地に這い蹲る異形の群れを見下す形で、唯一人立つ人影が嘲った。 
月の光で蒼さを帯びた長い黒髪を揺らめかせて。 

一見笑んで見える表情は、だが静かな怒りを湛えた空色の瞳により、
見た者の恐怖を否応無く掻き立てるものと化している。
身に纏うは何の変哲も無い、黒い男性用御仕着せ執事服だが、
凹凸の少ない長身故かまるで誂えたかのようで。

「……終わりに致しましょう」

華奢な姿とは余りにも不似合いな得物を振り上げる。

「後悔は黄泉津で為しなさい――彩晴様を狙いし不届き者達よ！」

……轟音一つ。そして、静寂。


「――彩晴様、起床の御時間です」
「うぁ……もう朝？　今日もおはよう、いーちゃん」
「おはようございます、彩晴様」

いーちゃん、と呼ばれた長身の女は静かに頭を下げる。
名のある旧家に仕える執事――いや執事見習いたる彼女にとって、
彩晴様と呼び掛けた眼前の少女は命懸けるべき主。
勿体無くも同じ歳、同じ性別故に見習いの身ながら側仕えを許されていた。

「ねえ、いーちゃん」
「如何致しましたか、彩晴様」
「いーちゃんが此処に来てからそろそろ１年だよね？」
「左様で御座いましょうか」
「そーだよ、１年だよ！　だからさ、今日辺り何処か遊びに行こうよー」
「私には御邸での務めがあります故。そして何より主と同じ場に並び立つ訳には」
「えー？　だって学校だって一緒なのに何でさー？」
「私が彩晴様と同じ学府にあるのは特別に許された事で御座います」

――さて何故か等とは決して口に出す事無く。

主の着替えに手を貸しつつ、執事服姿の女は淡々と言葉を紡ぐ。
纏う静けさを崩す事無く、その表情に些かの感情を含ませる事も無く。

「御支度が整いましたら急ぎ御食事を。本日は普段より登校を早めねばならぬ筈」
「……え……あ、そーだっ！　宿題見せてもらわなきゃならないんだったっ」
「広間へと御急ぎ下さいませ。私は後より登校致します故」

髪と揃いの黒い瞳を伏せ、女執事は廊下を駆け抜けていく少女を見送った。
主の部屋の扉を閉めようとして、だがふと己の手指に目を留める。


……左手の二指にこびり付いた、紛う事無き緋色。
昨夜屠った異形の残滓。
主を狙い、喰らおうとした赦すべく無く邪悪なるモノ等の、穢れ。


「……私が全て被ればいい。彩晴様が歩むべきは、一点の曇り無き道だから」

唯一人、呟く。
己の全てを懸けて、護るべき者を護る誓いと共に。




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「……という夢を見た訳なんだけどね……何だと思う、彩晴？」
「それを俺に聞いてどーしろっつのかなぁ、いち」
「僕だって分からないから聞いてるんだよ……もう４月の頭から何なんだろ一体……」
「（……『４月頭だから』、だったりしてなぁ）」
「というか、僕は兎も角何で彩晴まで女の子してたのか訳分かんないよ……」
「……やっぱ医者行くか、いち。栃木の怪我で打ち所悪かったんかもしれんで？」


――４月１日、（いちるにとっては）嘘より奇怪な春の夢の話。