@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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――2009.08.28 NIIGATA
最後尾の大猿を文字通り束縛したのは、銀髪の少女が放ち夜闇切り裂き飛来した雷球。
全身を貫く強烈な電撃と麻痺する四肢や意識に抗おうと我武者羅に動こうとする猿。
己が身の異変を伝える為か上げようとした咆哮は、刹那妖獣の命諸共に叩き潰された。
倒れ伏し消えていく大猿を見下ろす、虎の縞模様と両の鉤爪とを得た青年に因りて。
その音を聞いたか足を止めて振り向いた熊の懐に迫る、大小の影ふたつ。
深紅の熊がそれに気付いた時にはもう遅く、袈裟斬りと脳天割りの連携により脆く霧散する。
2m超えの身長に合わせた長大な剣に真夏に不似合いな氷気を纏わせる青年と、
その身軽な体躯を最大限に利用し死角から青龍刀を舞い閃かせる小さな骨の少女の剣技。
鋭い鉤爪の鴉は影より出でし漆黒の腕に絡め捕らわれ、迫る大鎌の連撃に切り刻まれた。
直ぐに次の標的を定め大鎌と共に滑るように駆ける壮年の男の骨の後ろ、
柄に橙色の紐が絡む長剣の切っ先をゴースト達に向けて不敵な笑みを浮かべる青年。
最大戦力の名に恥じぬ挟撃側の速攻は瞬く間に妖獣の一団を屠り去った。
隣接していた妖獣集団も周囲へ警戒の一声を発する事が出来ぬままに霧散していく。
彼等の視界には蜜色の髪を靡かせた天使姿のリリス、氷の鬣を持つ真っ青な馬に剣狼、
先程消し尽くした熊や大猿という妖獣の混成集団といった襲撃ゴーストの後方集団。
植樹の影からちらりと見えた黒髪の幼女リリスの姿はまだ判別出来ていない。
視界右側前方にも大鎌を持つ花飾り付き日除け帽姿の人影があるが、多分あれもリリス。
「――一つ考えがある。少し危険だが、あのリリス達をどちらか一方だけ残してくれるか?」
「あの天使リリスって浄罪天に似てるっぽい? だったらあっちの鎌の方がジャマかも」
「向こうのは悪戯な処刑人みたいな奴かもな。確かに邪魔だ、処刑人からやっちまうか!」
「俺達は揃って神秘攻撃に強くなるよう調整してあるから、暫くの間なら耐えてみせる」
迎撃側には無い知識と経験とが今成し得る手段や戦術を瞬時に導き出していく。
かつて各地のGTで遭遇した数々のゴーストとの類似点から当たりを付け、能力を推測する。
もし大鎌のリリスが処刑人と類似した戦法を持つなら、自己強化も存分に使ってくる筈だ。
……攻撃は苛烈でも強化回復を持たぬ浄罪天に比べれば、確かに厄介な存在。
「決まりだな。処刑人撃破と後方足止め、同時攻勢だ」
俺は此処に残る、と氷馬に狙いを定め両の獣爪、龍咆・虎吼を構えた寅靖。
「こっちだジャック! お前の大鎌の方があいつのより遥かに強いと教えてやろうぜ!」
「俺もリリスの姉ちゃんとこ行く! モルモ、大怪我した人から回復お願いな?」
「もきゅー!」
唯とジャックが処刑人リリスへ戦いを挑み、モルモを2組の中央に残したユエも援護に回る。
「楓、俺が斬った奴を追撃してくれ。2人で一匹ずつ確実に落とそう」
こくりと小さく頷いた楓と共に、長剣の重量を威力に変えて叩き付ける斬撃を繰り出す残菊。
大猿を斬り伏せた残菊達の背後に迫った熊が彼等目掛け両腕を力一杯振り下ろすも、
氷馬を紅蓮撃一発で蒸発させていた寅靖が割って入り獣爪の甲で熊の腕を受け止める。
ギシリと何かが歪む音が響くとも、逸れた熊の爪が腕を抉り血が黒いコートに滲むとも、
身体に括る懐中電灯の揺らがぬ灯と共に一歩も退かぬ寅靖の姿。
凶悪なまでの力で寅靖を押し潰そうとする熊の身体が、だがびくりと大きく痙攣する。
……その背中に執拗なまでに容赦無く刻まれた、凄惨な無数の斬撃。
ダメ押しとばかりに楓がざくりと刃を突き立てたのと寅靖が顎に一撃を放ったのはほぼ同時。
異形の赤い熊は地に膝をつく事すら許されずにぐずりと融け消えた。
「寅靖!? すまん、俺が早く気付けば」
「気にするな残菊、この程度の怪我なら……」
……流れていた筈の血が止まっている。
幽かに聞こえる歌声とその意味に気付き、直後に遥か遠くに捉えた銀色の筋と金色の円。
照明を受けて煌く銀の髪色を持つのはリリスに魔弾を放つユエと――もう一人。
「あら、アナタも大きな鎌を御持ちなのね。でもわたくしに勝てるのかしら?」
「お前なんかがジャックに勝てる筈無ぇよ、安心しな!」
「そうだよ、リリスのオバサンなんかにジャックは絶対負けないもんっ!」
「……言ってくれるじゃない、この御子様さん?」
「オバサンにオバサンって言って何が悪いんだよ!?」
爆弾発言かもしれないそれを堂々と言い放ったユエが放つ雷の魔弾を何とか鎌で散らし、
禍々しい気を纏って己の力を格段に高める処刑人リリス。
その隙を逃すまいとジャックが振るう大鎌の四方八方から伸びる、何本もの影の腕。
唯の影から生み出されるそれ等はリリスを引き千切ろうとするが振り払われてしまう。
お返しとばかりにリリスが薙ぎ払った鎌から放たれた衝撃波が蛇の姿に変じてユエを襲う。
だがまともに食らった衝撃の痛みよりも、ぎりぎりと圧し束縛する蛇の幻こそが真の脅威。
息すら吸えない苦しさに黒翼を握る手が緩みかけたその時、不意に蛇達が光に溶け消えた。
驚いて周囲を見渡すと真横でユエの手に出来た傷をぺろぺろ舐めるモルモの姿。
「助けてくれたんだねモルモ! ありがとう、もう大丈夫!」
モルモの祈りの力で締め付けの束縛を脱したユエが再び雷の魔弾を放つと、
先程とは比べようも無い稲光と爆音が現じてリリスの身体の自由を完全に奪い取った。
大鎌を構えて防御する事すらままならない女処刑人を幾度も斬り裂くジャックの刃。
一度は払われた唯のダークハンドも今度は躊躇い無く一斉に異形を捻り上げる。
影の腕に注ぎ込まれた毒に蝕まれ息絶え絶えのリリスは地に座り込んでしまったが、
しかし彼女はそれでも足掻こうと、逃れようと策を巡らす。
「……わ、わたくしに敗北など有り得ませんわ……敗北など!」
再び禍々しい気を己が身に纏おうと大鎌を掲げようとするが、地に転がる鎌は動かない。
何故なら、其処には白く鈍く光る三日月の刃を片足で踏みつけて見下ろす唯の姿。
「あんだけ散々デカイ態度に出ててこのザマじゃカッコ悪ぃよな……オバサン?」
驚愕に目を見開いたリリスの瞳に映る残像は……刃の軌跡は2つ。
同時に振り下ろされたジャックの大鎌と唯の宵灯が彼女へ逃れられぬ終焉を齎した。
さあ次は何処へ行こうとグラウンドを見渡すユエの耳に飛び込んで来た銃声が2発。
知らない人の歌声や空を駆ける炎の魔弾、沢山の情報が途切れず戦場を飛び交っていく。
その中で豪奢なドレスのリリスが構えた大きな銃が発生源らしき3発目の銃声が響くのと、
たった一人で戦場を突っ切る人影がバランスを崩して転がったのを唯が見たのは殆ど同時。
起き上がるも右足が赤く染まった人影は一瞬だけ霧で揺らぎ、だが直ぐに姿が定まる。
金と銀の何かを携えた他の人影に駆け寄った直後、虚空より現れ飛び交う白い蛍の群れ。
……聞こえたその一声は、紛う事無く。
『――彩晴、走れっ!!』
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