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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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――2009.08.28   NIIGATA



血が滴る。グラウンドに緋色が散る。
傾ぎそうになる身体を奮い立たせて獣爪を構え、幾度目か分からぬ覚醒で傷を塞ぐ。
引き裂かれた裾がはためく黒いコート姿の寅靖の横には、荒い息を吐く残菊の姿。
アンチヒールの反動を厭わず氷の一撃を用い続けた彼の身体も傷に満ちていた。
楓の祈りで幾らかは塞がったものの彼女を連れると引き換えの体力の少なさが災いしたか、
斬馬刀並の長剣を気魄任せで振り抜く戦法も精彩を欠き始めていた。

彼等を苦しめていたのは他でも無い、浄罪天に似た翼を背負うあのリリス。
蛇を従える彼女が得手とする神秘属性への防御を用意していた上でこれ程の苦戦、
もし別の防御属性を用意していたならばどれだけの被害になっていたか想像に難くない。
危険を承知の上でリリスを残す策を取ったが想定外だったのは彼女の苛烈な強さ。
流石に唯一神の御遣いの姿を模すだけはあるという事か。
純白の翼を広げて左手を向ける彼女の姿を認め、幾度目かの緊張が2人に走る。
左手から放たれるのは追撃の力を持つ断罪掃射の光。
他の攻撃なら寅靖が庇えても、あの光だけは両者に等しく降り注ぐ。
彼女の手に集まり始める情け容赦の無い光を耐え凌ごうと各々の武器と共に身構え、
気休めだろうとも残菊の前に立ち塞がる寅靖の眼前で光が弾けかけた、その瞬間。

――骨が十数本一気に砕けたとしか思えない破壊音と共に、偽りの天使が仰け反り叫ぶ。

目を見開く寅靖の視界に舞い降りたのは、淡く白い蛍を周囲に従え銀の鎚を携えた彩晴。
それ自体が回転動力炉の天球儀とエアシューズの車輪が強烈な駆動音を発している。
身に纏う烈風に煽られる日本人離れした銀色の髪、その下の深緑の瞳を爛々と輝かせて。

「――お待たせしました先輩方。退け言われても手出しさして貰います」

いちるが纏わせた白燐奏甲に攻撃を逸らさぬ限り烈風の力が味方するインフィニティエア、
その両方のエンチャントを載せた上に相手の弱点を確実に突くクレセントファング。
上手く嵌まりさえすれば実力差を引っ繰り返せる代わり博打全開の戦法こそ彩晴の十八番、
ゾンハンの矜持の為ならあらゆる手段を厭わない彼の気質の成せる技。
……しかし彼は元より彼の従兄も大概博打戦法を普通に試す辺り血の業かもしれないが。

彩晴の一撃が生み出した隙はもう一つの幸運を呼び寄せる。
異変に気付いたユエが向かわせたモルモが残菊の、次いで寅靖の傷を癒す。
楓も自身の骨を拾い体勢を整え、鉈を思わせる青龍刀の切っ先をリリスへ向けた。

「……形勢、逆転だな。空を飛べぬ翼ごと消え去って貰おうか」

リリスを1人は残しておきたかったが、と呟く寅靖に彩晴が振り向いて応える。

「あ、幼女以外の誰かでいいんなら向こうに術式機関銃ドレスが御存命ですが?」
「術式型か、残す脅威はどの位だ?」
「んー、狙い澄ましての射撃食らったいちが分身術で無かった事にしてた感じで」

術式に極端に弱い人じゃなきゃ何とかなるんじゃ?と続ける術式型ゾンハンの彩晴。

「ならば残すは其方だ。……奴は此処で潰す」
「了解しました。じゃあ誰があの翼掻っ切るか勝負と行きましょうか」
「……その勝負、俺と楓も混ざっていいか?」
「ええ勿論。恨みっこ無しですよ?」

その言葉と共にエアシューズで加速した彩晴が再びクレセントファングを見舞い、
彼の影に隠れる形になっていた残菊が渾身のフロストファングを叩き込んだ。
ほぼ同時に楓が魔氷の力に蝕まれたリリスの腕を足を滅多切りにする勢いで斬撃を加え、
飛び散る血に染まった翼を揺らしぐらりよろめく異形に炎を纏った獣爪を掲げた寅靖が迫る。

「――消え去れ、リリス」

また一つ、紅蓮撃の前に詠唱銀の生んだ歪な命が虚空に散った。



「あれ? あっちの天使が消えたって事は、あのドレスリリスの姉ちゃん残すって事かな?」
「残すって何の事?」
「寅靖兄ちゃんがね、ちょっと危険だけどリリス1人だけ残しておきたいって」
「何か策があるらしいぜ? ま、あの幼女絡みだとは思うがな」
「……なるほど。術式型なら何とか避け切れるか」

もう足に既に一発食らったけど、と零すいちるに俺だって肩に食らってる、と一真がぼやく。
既に一真、理紗、はたるの3人には白燐奏甲の恩恵が齎されている。
ユエと唯、ジャックにも白い蛍の光が漂い、此処からの本番に準備万端整った形。
襲撃ゴースト群は最初の半分以下にまで減り、今もその数を減じ続けている。
上の会話も実は、迫り来る妖獣達を撃破しながらの一幕。
学院迎撃組の3人も銀誓館側の能力者や序盤から前での壁役に貢献したマウと共に動き、
彼等だけでは決して出来なかっただろう近接戦闘に一役買っている。
残すは幼女リリスと、周囲を取り巻く妖獣、そして敢えて残されたリリス1人のみ。
浄罪天リリスを消し去った4人と1匹もリリスの包囲を狭めようと近付いてくるのが見えた。

「……何で、何であの時より能力者がドバッと増えちゃってるわけー!?」

普通の子供なら喧しいの一言で済むが、リリスであるせいか耳障りに感じる舌足らずの声。
彼女との再びの邂逅に露骨に嫌な顔をした一真、眉根を寄せる理紗。

「さあ、何でかしら。……貴女の為の盛大な御出迎え、気に入って戴けた?」

逆に花綻ぶ笑みを零すはたるの横でガンを飛ばすという表現が一番しっくり来そうないちる。
鼻で笑う唯、同年代に見え複雑そうなユエ、表情変えぬ寅靖、睨む残菊、口笛を吹く彩晴。

「気に入るワケ無いでしょーがっ!! あたしの下僕根こそぎ殺戮とかどんな神経ー!?」
「見ての通りこういう神経だよ、バカリリス。前回の礼にゃまだ足りねぇけどな?」
「ええ、この先には決して進ませません。私達の大事な友達を、仲間を守る為に!」

蛇付き幼女の詰問にも飄々と返す一真、一歩も退かない覚悟を見せる理紗。

「……諦めろ。禍津は祓い、裂け綻びは繋ぎ止める――俺の宿業を邪魔するなら殺す」

感情の一切を排し氷の冷ややかさを纏った声で明確な殺意を口にしたいちる。


――此処に集う者全てが自分の排斥に動いた。

そう本能で感じ取った幼女リリスは身を翻して逃げようとするが、足元に突き刺さる水の刃。
……誰がそれを放ったかは、言うまでも無く。
容赦の無さを目の当たりにして身を震わせるも、それでも足掻こうと策を巡らそうとする。


……マダニゲルツモリカ。

誰かが呟く。
そしてひとつ息を吐いた後、最後の隠し玉を放つべく口を開いた。
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