◆Break the Door -ε-

「……いち、貴方『一人でも成功すれば勝ち』って言ったわよね」
「確かにそう言った。それ位の賭けだった筈なんだけど」
「どう見てもこの数は１箇所分じゃないな。因みにあたし達の所は成功したぞ」
「俺も成功ー。かましたのエアアビと知った奴等の慌てっぷり超楽しかったぜ？」
「私も勿論成功したわ」
「と言う事は全員成功、完全勝利か。……別な意味で矧の未来が心配だ」



……１箇所位逃げ切って大人の矜持保ってくれたって、と要らぬ憐憫の情が過った。

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「……で、この一団どうしようお祖父ちゃん」
「矧に縁ある病院に纏めて叩き込むしか最終的な道は無かろうな。狂気抑制の為にも」
「やっぱりそうなるか……いざ捕まえてみて頭抱える状況ってのも何なんだろう」


２日、夜。

宗家の広間に転がる拘束済みの黒服御一行様。
全ての罠が上手くいった事で一網打尽には出来たけれど、今更処遇に困る事態。
唯一の救いは見えざる狂気に侵されているとはいえ全員能力者だった事。
一般人の可能性も考慮し異能の類は極限まで威力を抑えてもらったのだが、何とも。
そして見事に賭も鷹も獅子も混在していたこの事実。
……お祖父ちゃんの溜め息が物凄く重かったようなのは気のせいじゃないんだろうな……。

「さあ、月主様も宗主様も今日の所はお休み下さいまし。後はわたくし達で」
「一晩もあれば半数位は口を割って戴けましょう、存分に手を尽くしてみたいものですな」
「あの頭役は我が受け持とう、苑夜の被りし苦痛を己が身で味わって貰うが故に」

……三頭領、凄まじくやる気だ。特に納曾利の頭領、面の下から殺気零れてる隠れてない。
とりあえず、人道的処置レベルにとどめてもらう事だけ御願いしておこう……。





「さて頭領達の言葉に甘えるとして……そういえば夕食はどうした、いちる」
「丁度いいから口にしてない。もう時間的に“精進潔斎”に引っ掛かる」
「……なるほどな。何故それをお前が知っているかで明日は大騒ぎになりそうだが」
「多分『あの人』も矧の変革を望んでたから、じゃないかな。そうじゃなきゃ……」

……秘儀たる極意全部、５歳の俺に教え込むような事は無かったんじゃないかな、きっと。

「その口ぶりだと、虫食いは埋まったという事か？」
「多分、ね。まだ一寸腑に落ちない事もあるんだけどそれは尋問待ちかなって」
「半数落とすと息巻いていたが、あの様子じゃ全員落ちるかもしれんな」
「落ちててくれるとありがたいけどね。……多分、今日で全部終わりじゃない」
「ほう、まだ終わらぬか」
「……終わらないね、きっと。まだ２度目の面拝んでないのがいるから」
「それはそれは。ならば明日は大騒ぎ以上に大荒れとなりそうだな」
「大荒れ程度で済んでくれないと鎌倉帰れなくなるから勘弁して欲しい。……って事で」

袂から取り出した細い布袋をお祖父ちゃんに手渡した。

「明日一杯預かってて。使うかどうかはお祖父ちゃんに任せる」
「……まあいい、任されておこうか。但し命だけは天秤の錘にはするなと言っておこう」
「それ乗っけたら二度と鎌倉に帰れないから、それだけは絶対無い」
「鎌倉鎌倉と喧しいな、昨日今日と。だったら明日にでも帰れば良かろうて」
「嫌だね、此処ですべき事全部終わらせるまで帰るもんか」





振り仰いだ空、頭上の月は既に小さく欠け始めている。

……明日は荒れる。天気予報も余り芳しくないし、きっと最後の襲撃がある。


「……馬鹿かもしれないし、餓鬼かもしれないさ。だけど、俺自身の矜持は誰にも渡さない」



――暁降の夜に懸けて。俺が俺たる全てで。