@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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審判役が囁き交わす。
目の当たりにした前代未聞だらけの奉納者の、その奉納の様を。
奇抜に過ぎる。
独創的に過ぎる。
荒唐無稽に過ぎる。
確かに、記録の一切とかけ離れたように見える、その様。
だが、おかしな事に誰も奉納を打ち切れとは言おうとしない。
その権利を持つ審判役の、誰もが、何故か。
目の当たりにした前代未聞だらけの奉納者の、その奉納の様を。
奇抜に過ぎる。
独創的に過ぎる。
荒唐無稽に過ぎる。
確かに、記録の一切とかけ離れたように見える、その様。
だが、おかしな事に誰も奉納を打ち切れとは言おうとしない。
その権利を持つ審判役の、誰もが、何故か。
--------
楽の音が響き渡る。
身長より頭一つ長い棍を携えた“彼”を囲み、次々と技を繰り出す相手役の者達。
その技全てをただ舞うように避け続けるだけの“彼”。
三祷が一つ、『祓』。
今の“彼”には一切の反撃も防御も許されてはおらず、避けるか被るかのみ。
……その時が来るまでは。
その時が告げられさえすれば、変わる。
――流石鎌倉で研鑽を積んだだけはある。こればかりは獅子の範疇の外だからね。
静かに見守り続ける彼。
説明無しでは殺陣だと言い張れなくも無い様相を固唾を呑んで注視する審判役達。
不意に風が、揺らぐ。
宗主たる初老の男の視線が動いたのと、審判役のあの彼が何かを感じたのはほぼ同時。
闖入者。その数、5人。
相手役を次々と昏倒させ、手の中の刃物を月主装束の“彼”に向け、斬り掛かる。
斬り飛ばされた濃藍の切れ端が、緋の滴が宙を舞う。
だが傷を負ったのは最初の一撃のみか、他は全て身を翻して避けていく。
携えし棍を一度も、構える事無く。
距離を取ろうとしたのか数歩飛び退り、威嚇の表れか棍で自分中心に円を地に描いた。
だが黒衣の招かれざる者達は変わらず距離を詰め斬り掛かっていく。
「何をしているんだ月主……命の危険の中でまだ三祷を続けるつもりか!?」
「……今、“自分以外の人間の身の安全を優先しろ”って。兄ちゃんが」
「……どう言う事だ、宍矧苑夜」
「地に描いた円が、『夜の矧』への合図。距離を稼いだのも、倒れた人達を助ける為」
付き人代わりに後ろに控えていた苑夜の言葉に茅都が低く呻く。
いつの間にか車座の円の外に助け出されていた相手役達も気絶しているだけのようだ。
首座も宍矧の重鎮故に車座に加わっていた茅都だが、審判役程の権限は無い。
助けに割って入るのは難しくないが、審判役が何も言わない今敢行すれば妨害行為。
……彼女であっても見ているしか出来ない。
――しかし奇妙だ。この状況だというのに、どうして何事も無いように楽が続く?
疑惑の視線を彼が向けた。奏でる楽士の一団に。
正確にはその時を告げる役目を担う楽士に。
状況判断役を兼任するその楽士がこの状況を見て何故合図を出さないのか、と。
――おかしい、あの目の濁りと虚ろさは……まさか、傀儡か!!
……闖入者と意を同じくする者に操られているならば、合図など出す筈が無いという事か。
その事実に驚愕し思わず宗主の様子を伺う彼。
視線の先、宗主が小さな、本当に小さな溜め息を吐いた。
「……やれやれ、大荒れが大当たりか」
そう小さく零した宗主は、しかし動こうとはしなかった。
半刻は過ぎたか。
いや、既に一刻も過ぎ去ったか。
五つの刃を避け続ける“彼”は未だに防御も反撃もしないまま。
まるで携えた棍は飾り物だと言わんばかりに。
刹那。
一歩退いた“彼”の身体の重心がぐらり、一瞬だけ揺らぐ。
刃傷が無尽蔵に刻まれた装束、所々が暗い紅に染め上げられ。
そして、傷が無い筈の首に流れる、幾筋もの緋色。
心なしか肌の色が白く、青白く熱を失いかけているような色味に見えるのは気のせいか。
「……流石に、『見ている側』が限界か」
呟く宗主の声を、彼は聞いた。
その言葉と共に袂から何かを取り出すのを見た。
布袋に入った細長い何かを。
中身を引き出す。
何の変哲も無い簡素な篠笛。
「――頼むぞ、頭領殿」
宗主が篠笛を構えたその瞬間、楽士の竜笛が音も無く弾け飛んだ。
……その時を伝える筈の、傀儡の竜笛が。
響く篠笛の音。
傀儡の奏でていた数瞬前とは全く違う調子、全く違う旋律。
避け続けていた“彼”の、背後か左右にばかり動いていた歩が、初めて前へ。
棍を携える腕が小さく翻る。
刹那。
最も“彼”の懐近く迫っていた黒衣が薙ぎ倒された。
姿勢を低くし、返す棍で背後に迫っていた黒衣の鳩尾を突く。
一瞬の動作で2人の黒衣を沈めた“彼”は逆に距離を詰め3人目を上段から打ち据える。
刃を煌めかせ駆け込んで来る4人目に足払いを仕掛け、足を掬い上げて地に転がす。
残るは、ひとり。
「……ははは、暗示も全部断ち切られたという事かい。一世一代の大失態だな」
哂う黒衣。
だが刹那目にも止まらぬ速さで懐へ迫った筈の黒衣の後ろに、棍を捨てた“彼”。
……最後の黒衣は、棍では無く“彼”の下段・中段連続回し蹴りで地に跳ねて落ちた。
その時が至った後の『祓』は、その前とは相反する要求を満たさねばならない。
可能な限り短時間で相手役を全て倒す、避ける被るとは相反する行為。
携えた武器に限定する必要は無く、体術を会得した者ならば己が身で闘えば良かった。
「……矧に連なる者、矧の宿命に遵い、故に己が心を示すもの」
彼が我に帰った時には、もう既に“彼”は祠の前にいた。
「依代に宿る矧の導、この時を以て己が全ての『奉納』の儀を恙無く仕舞いへと」
満身創痍の、姿で。
「……願い給え、矧の導。宿命と宿業と、その導の名に於いて、為すがままに願い給え」
“極意”の一つたる、辞句を奉じ。
“彼”……暁降月主は意識の糸が途切れたか、頭から真っ逆さまに地に倒れ込んだ。
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