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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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「……何、これ」
「物凄いよねー、つまりそれだけ勝負賭けてる人やラブラブな人が多いって事で」
「これ足りるんですか、テーブル。スクエア全部分解して壁切ってもギリギリじゃ……」
「あ、ラウンドも半円に分けるんだってさー。実はそんな仕掛けがあってねー」

「……人のエネルギーって、凄いよな。本当に」
「世界最強エネルギーは人間の願望だと思うよー。充電出来ないのが難点だけどねー」







--------

迫る日曜の準備で慌しい店内。
響く喧騒の中、カウンターで店内配置図と予約リストを見比べて苦笑する男性。
そしてレシピバインダー片手に厨房側からその様子を覗き込んでいる俺。

彼の名前は、透さん、という。
伯父さんの右腕に当たり、間延びする口調とは裏腹に同時進行で大量の業務をこなす人。
時々店の2階の奥まった区画にある休憩スペースで寝泊まりしている形跡があると思えば、
店の裏の空き地で口笛を吹きながら、愛車なのだろう大型バイクの整備をしている、人。

……というのがクリスマス前までの俺の中での彼の情報、『だった』。

遠い昔の記憶を文字通り封印していた扉を叩き壊し新学期ギリギリに鎌倉に戻った俺を、
あの人は店内清掃の傍らいつも通りの間延びした口調で出迎えてくれたのだが……
気付いた時には、俺は思いっきり彼を指差して叫んでいた。持ってた荷物を床に落として。

――透眞(とうま)伯父さん、と。

つまり、清澄伯父さんの弟で母さんの末兄で漂家空けっ放しの当主は……鎌倉にいた、と。

何故、何、どうして、と俺の矢継ぎ早の質問の山を、しかし透眞伯父さんは笑顔のまま、
例ののんびりとした口調ながらも全て、途中で聞き返しても質問を増やしても答えてくれた。
流石にこれ以上質問増やすのは拙いと漸く気付いて言葉を呑み込もうとした俺に対し、
「いーちゃんには聞く権利が沢山あるんだから行使しちゃえばいいんだよ」、とまで。
……そう。
10年前俺を件の地下室へ連れて行ったのも、出逢った頃から俺をいーちゃんと呼ぶ彼で。
けれどその記憶が無かった俺は、今に至るまで伯父さんの存在そのものを忘れていた。


透眞伯父さん、曰く。
本来いるべき場所の筈である新潟の漂家では無くキヨ兄(清澄伯父さん)の所にいるのも、
結果的に俺が記憶を取り戻せた要因の一つである10年前の地下室の一件も、
何よりまず15年前にひーちゃん(母さん)に双子が、しかも男女で生まれるという事も……
……全て予知していた事、又は予知の未来を違える事無く動いていたからなのだ、と。
ネイお祖母ちゃんの夢見を継いだのか、“遠い未来限定”かつ“細切れの映像”ではあれど、
眠る間に見る夢の形で未来に起こる事が時たま見えてしまうのだと言う。
但しそれは、必ず自身が何かの形で関わらなければ見たのと同じ未来にはならないらしい。
俺達双子の存在を見たのは中学時代、地下室の件は大学時代に見た夢の断片。
そして俺達が遠い昔の夢の通り生まれた15年前に新潟から鎌倉に移った、と。
……母さんと父さんが出逢った切欠を作ったのも、他でもない透眞伯父さんだったらしい。
普段使わない道の店での買い物を母さんに頼み、その結果猫姿の父さんを拾ったと……。

「……宗家の人間皆何処か螺子逝ってるって彩晴が言う気持ちが少し分かった気がする」
「おーい、それは一寸辛辣に過ぎないかい? 僕は見えた未来に従ってるだけなのになぁ」
「だって伯父さんがもし買い物頼まなかったら母さんと父さん出逢って無いし俺達だって」
「んー……でも、『見えたままの未来』にはならないだけだと思うんだよね。僕の持論では」
「……見えた、まま?」
「多分ね、ひーちゃんにあの日買い物を頼まなかったとしても、いーちゃん達は生まれた。
だけれど、その父親が修かどうか、いーちゃんはーちゃんの名前になったかは分からない。
又は父親は修だけれど、男女の双子である暁降として生まれたかどうかも分からない。
……どうやら、僕の見る未来というのは、僕にとって『最も幸いである未来』みたいなんだ」

癖の強い黒髪に指で触れながら(どうやら彼の癖、らしい)、笑う伯父さん。

「僕はね、今まで見た夢を全てなぞって来たわけではないんだよ。幾つかには触れてない。
触れなかった未来も、大体は同じような未来になったけど……でも、強く悔いた事もある。
あの時夢で見た通りにしていたら、死に目には逢えたかもしれないのにって人が、いてね。
亡くなる事は回避出来なくても、荼毘に付される前に最後に顔を見られた筈なのに、違えた。
……その経験の後は、全て見た通りに。人は己の幸いを追っ掛けたがるものだから」

――人は己の幸いを追っ掛けたがる。

その言葉は俺の心の奥底に小さな波紋を広げる。静かに、緩やかに。
……それでも、やっぱり俺はほんの少し、普通の人とは相容れないのかもしれない。


「さてそれはそうといーちゃん。キヨ兄への当日用のレシピ案提出は終わったのかい?」
「……全然終わってません。2月入ったら本業の学校生活忙し過ぎて一杯一杯で」
「でも流石にこの期に及んでそれは言い訳にはならないんじゃないかなぁ?」
「ええなりませんとも。なりませんけど進まない物は仕方ないじゃないですかっ!」

「……なーにが『進まない物は仕方ない』だ。その左手の黒バインドだろさっさと寄越せ」
「うわ清澄伯父さん何時の間に!? というか勝手に取らないで放してってば!」
「おや、終わってないとか言う割にこれ殆ど出来上がってるじゃん。あ、良いなこのケーキ」
「だから勝手に見るなってば返せーっ!!」



兄と弟と甥による取っ組み合い寸前の大騒ぎを、だが誰も止めようとせず準備が進む店内。
2日後の其の時を、幸せの時を紡ぐ手の主達の戦いは、未だ続く……。
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