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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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「……報告書という物の類は、やはり余り見たくない物の一つですね」

何枚か綴られた紙の束から文字を追うのに疲れた目を離し、小さく息を吐く。
それは全て終わってしまった事を、機械的に告げるでしかないもの。
当事者の苦悩など、憎悪だの、涙だの……そんな物は一切差し挟まれないもの。
故に、報告書の類は、余り好きにはなれない。
今回は尚更だ。
……なまじ、その当事者が見知った存在である上に間近で見ていただけに。

「――呼びましたか、御師匠様」

顔を上げると、灰がかった黒髪を揺らす愛弟子にして愛義息(まなむすこ)の姿。

「こんな時位、夏来(なつき)にもう少し砕けた呼ばれ方をしたいと望むは我が儘ですか」

そう言って、笑ってみせた。







--------

「はは、すみません。だけど、オレの中ではどうしても、御師匠様が抜けなくて」


無理も無い事ではある。
元々私――名を高澤紫苑という――と彼の出会いは、赤の他人から始まった。
舞台に立つ間だけしか声を発しようとしない、だがその技量はずば抜けていた彼の話を聞き、
高澤の門下生として招き入れた事が全ての始まりで。
喋る事が出来ない障害を持っている訳でも無く、だが碌に言葉を口に出そうとせず、
……しかしその理由を他でもない彼の父親、大沢桔梗から聞いた時に全てを理解した。

類稀なる女形の才能。
だが、まさにその才能こそが、彼の声を封じた。
子供の言葉は時に残酷なまでに、人の心を貫き壊す。
故に非現実の場である舞台に上がる事でしか、声を取り戻す事が出来ないのだ、と。

その翌日、彼を呼んでひとつの選択を敢えて迫った。
彼の十八番と名高い『嫦娥』と、正反対である勇猛さを舞う『関武』と、どちらを取るか、と。

――関武、を、舞うは、許され、る、ですか。

掠れ切った、高めの声。
途切れ途切れながらも、初めて聞いた舞台の下の彼の声。

――許すも何も、高澤では自分の舞いたい演目を自由に選べる。難易度は別にしても。

獅子の中では最も門下生に寛容とも本人に丸投げとも称される高澤の気風。
それは私が養子として高澤を継いだ理由でもある。
……旧姓は、宍矧。首座を招き入れる首座家の末っ子で鬼っ子と称された逸話持ちだ。
過日三祷の審判者として末席にいたのも、宍矧時代に全てを叩き込まれていたからである。

――なら、ば。両方、は、許され、ますか。
――嫦娥も関武もかい? 勿論だよ、他に舞いたい演目があれば遠慮無く貪欲にね。

多分その時だ。泣き笑いのようだったとはいえ彼の笑う顔を初めて見たのは。
その1年後、彼自身と実父大沢桔梗の許しを得て養子として改めて彼を迎え入れたのだ。


「そういえば、喉を押さえるような仕草が減った気がするけれど。喉は大丈夫なのですか?」
「ええ、ここ最近は殆ど痛まなくなりました。……気の持ちよう、だったりするかもしれません」

彼は言う。
興行で日本中を回る日々の中、いつしか舞台の下での声を失った自分を変えた切欠。
そして今現在、時々途切れはするものの不自然さの薄れた会話が可能になった切欠。
それはどちらも、宗家のある北の地。
……正確には宗家生まれの同い年の、現状打破の手段で敢えて三祷奉納を完遂した存在。

「オレだけ弱音、吐くわけにもいかないなって。そう思ったら、声を出す事も怖くなくなった。
同じ歳なのにもう覚悟決めたり色々背負ったりしてる皆を見てたら、負けてられない」

能力者として覚醒した事自体が既に、只人に無い物を幾つも背負っている事にもなるが、
彼は加えて首座連にも自ら志願して籍を置き、行く行くは高澤の師範代にと先日宣言した。
やはり年始の披露の場でも皆に惜しまれた『嫦娥』も舞える限りは至高を目指す、とも。

「これはオレ自身の、オレ自身による革命です。オレに出来る事で、矧を新しく、強く。
掛は掛の方法で、尭矧の彼は彼の方法で、そしてオレは、宍矧の皆様から受け継いだ舞で。
首座先輩や佐々木の苑嬢と共に首座連を変えるのも勿論ですが。そっちは結構厄介かな。
……オレ達矧の子供の盾になった掛の夢を、オレが壊しちゃいけないってのもありますが」

他の者なら兎も角、『彼』が宗主に立つという事は『彼』の持つ全ての夢を捨てると言う事。
いや、夢だけでは済まないかもしれない。
外の地で繋ぎ続けた縁すら全て断ち切って戻らねばならないかもしれない。
余りにも過酷で残酷なその通告を、だが『彼』は一呼吸の後、あっさりと受け入れた。

――分かりました。まあその状況下じゃ自分だけ固執してるわけにもいかないだろうし。

何故、嫌だと言わなかったのか。
言ってもいいのだと、それ位の我が儘は例え貴方でも許されるのだと、問い詰めた。
今回の一件に留まらずいつも何処までも自分の外を優先して傷だらけになる暁降月主に。

――それが永久に続くとは思えませんから。だったら、俺は一番最後でいいんです。
――ついでに言えばそれが来なきゃいいだけの話。阻止し続ければ夢を叶える余裕はある。


「……夏来、貴方の夢は何ですか?」
「何ですか突然に。高澤の師範代とオレなりの『嫦娥』の完成、矧の皆が元気である事と」

突然何をという言葉の割に指を折りながら夢を列挙していく愛義息。

「切実に音痴の緩和と……後は照れずに御師匠様をお父さんって呼べるようになる事かな。
他人行儀の空気が時に漂ってる事を物凄い気にしてるって某掛からリーク食らいました。
いや、オレも親子だってのに、常時一線引きっ放しなのはマズいって思ってますけど!
でもどうしても御師匠様だった時間の方がオレに取っては長いものだから、つい、あの……」

初めて出逢った頃には想像も出来なかった。こんな表情も、こんな会話も。
……今日夏来を呼んだ理由は別にあったのだが、何だかどうでもよくなってしまった。
余り聞かせたくない話でもあるし、夏来もさして聞きたくは無かろう、と。



――先達より、革命の成功を心から願おう。
禍津蔓延る死地と向かい合い、色鮮やかな夢の御旗と共にある子供達の。
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