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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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諸々は 起編 参照にて。

≪今迄の登場人物≫
・辰砂(しんしゃ):焔の瞳と髪の鋏角衆
・茅流(ちる/妹)と杷留(はる/兄):年若い双子の能力者
・玉滴(ぎょくてき):長い銀髪の土蜘蛛、辰砂と義姉妹の絆を結ぶ
・鋼真(こうま):狼と呼ばれる異郷から来た壮年の男(=クルスニ)
・佐々(さざ):褐色の肌を持つ長身の男




--------

確か、矧の塒に招かれたのは初夏。
……もう今は秋の暮れ。
さっさと出て行くかと思っていた此処に、あたしは遂に留まる事にした。
化け物相手に生きるか死ぬかの戦いを挑む集団。
だけど、そんな日々が嘘みたいに幸せな場所でもあった。

……そうそう、あたしが童からヒトの姿になったのは去年の夏の盛りだったんだが、
その話をしたら総出で誕生祝いの宴をするぞって話になっちまった。

何でここまで話が大きくなっちまったんだと慌てて止めようとしたんだが……遅かった。
触るのすら怖いと初めて思った位綺麗な緋色の打掛。初めて着たよあんなの。
しかも持ち主の玉滴姉様は打掛に映える装飾品を幾つも見立てていくし。
やっぱり初めての化粧の経験。茅流が真剣な表情で紅を比べてはそっと唇に引く。
長いばっかの髪も、何と杷留がひょひょいっと編み上げていっちゃうし。
全部終わったって姉様に言われて鏡覗いて仰天したよ。ちょ、これ本当にあたしかって。
塒の皆に綺麗綺麗凛々しいって口々にお祝いされて……うん、嬉しかった。素直に。
……何故か目を合わせた瞬間佐々には逃げられたんだが。何があったあいつ。

うん、幸せだった。
矧の塒は、続く戦いと沢山の幸せに溢れてた。

だけど。

……時は戻っちゃくれない。



ある日、塒に齎された急報。
此処から結構離れた山の森の蜘蛛の地が化け物達に襲われたって。
……まさか、と思った。
あたしの顔から全部察したのか、茅流が頭領の女性に進言した。

――偵察役に、辰砂様を。玉滴様と共になら危険など微塵もありませぬ。

即座に認められ、姉様とあたしは一隊を連れて森へと急いだ。
その急報が嘘であってくれと、思いながら。


嘘じゃ無かった。
あたしの故郷は――逃げた故郷だったが――無残な光景を晒していた。
そこらじゅうに転がってる骸。ヒトの形を保ったもの、バラバラなもの。
蜘蛛童の姿は無かった。……ああ、そうか。童は死ねば消えちまうんだった。
あたしの横にいた姉様の顔は髪の銀色に迫る位真っ白だった。……きっと、あたしも。
薄れかけた記憶を頼りに地下蔵への入口を辿り、瓦礫を掻き分けて。
梯子を使う時間も惜しいと飛び降りたあたしの目に、予想だにしなかった光景。

「……辰、砂……まさか、辰砂なの……?」

童達に囲まれたひと。
あたしを育ててくれた巫女。

「ま、真砂……!? 他の蜘蛛達は、蜘蛛達はどうしたんだ?」
「……皆様は戦いに出掛けられて……そしてそれっきり、戻られておりません。
最も若い巫女であるわたしだけ、此処へ逃げろと。もしもの時は、童様達を頼むと」
「……そんな……何てこった……」
「どうしたの辰砂――まあ、貴女は此処の巫女様なのですね? 御無事で良かった……」
「つ、土蜘蛛様……!? 辰砂、此方の御方は一体……!?」
「あたしの、姉様だ。あたしを助けてくれた場所で出逢って姉様になった」
「辰砂の義姉にして『矧』の土蜘蛛、玉滴と申します。突然の御無礼を御許し下さい、巫女様」

真砂と童達の他に、生きてる者はいなかった。
彼女達を連れて塒に帰る事に異議を唱える者は誰もいなかった。
むしろ蜘蛛の氏族が増える事が心強いとまで言われた。姉様やあたしを、信じてくれた。
道すがら、真砂に全部話した。
あたしがあの故郷から逃げてからの事を、ずっと。
そして、詫びた。

……あの時逃げてごめんなさい、と。

その時は逃げるしかなかった、と。
鋏角衆として育った事が悔しくて申し訳無くて。
土蜘蛛になれなくて期待を裏切って。
そうして逃げた結果、こんな怖い思いをさせて……と。

真砂は笑った。
たったひとり、碌な荷物も持たずに出て行ってしまったから、生きているかも分からずで。
でもどうか何処かで、他の蜘蛛の群れの中ででもいいから生きていて欲しかった。
そして運命が赦してくれるのなら再び何処かで会えればと祈っていた、と。

……泣いたのは、いつぶりだろう。
それ位沢山の涙が、あたしの頬を伝って落ちた。



帰り着いた矧の塒。
新しい仲間を得て喜ぶ面々の中に……ひとり足りない事に気がついた。
茅流が、いない。
見渡しても何処にもいなかった。
杷留の横にいるものかと思って彼にも聞いたが、姿を見ていないと返された。
……それも、彼もずっと探していると取れるような表情で。

胸騒ぎがした。
不意に浮かんだ場所に駆け出した。

あたしが茅流と出逢った場所。海の畔。

寝転がる紺の着物の筈の彼女は、紫がかった藍の着物だった。
いや。
違う。
紺の色に暗い赤が滲みた、着物。

「茅流! 茅流!? どうした、何が起きたんだ茅流!!?」

ごぼり、と口から溢れ出る緋色。
血の気の引いた肌に、紺の着物を伝っていく。

「……しんしゃ」
「何だよこれ、何で血を……病気なのか茅流、直ぐに塒へ連れてってやるからな!」

微かに首を振った。

「……もう、間に合わない。もう、助からない」
「そんなの手当てしねぇと分かんないだろ!? もう少し頑張れ茅流っ……!」


男に、生まれたかった。
そうすれば、杷留にばかり辛い思いをさせずに済んだのに。



……それが。
血に染まり事切れた彼女の、最後の言葉だった。
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