◆Express-Breakers!! ～禍津列車を葬り去れ～ -4-

――穿て貫け刺せ抉れ、引き裂け断ち掻け斬り飛ばせ。死出での途には御似合いだ。

「――走れ！！」

全てを物語る、其の一声。



時は僅かに遡る。
５両目と４両目の狭間、其処にある連結装置の存在。
時間も戦力も消耗させるわけにはいかない、と面々で決めた作戦は装置の破壊。
その為に、此処での戦闘は突破の為の最低限に抑える事――と。

彼等に立ち塞がるは妖獣、古今東西の伝承で語られる伝説の獣達の……醜悪な紛い物。
龍には幾対もの気味悪い翅が蠢き、天馬にはある筈の無い鱗がびっしりと生えて。
火烏とも八咫とも呼ばれる大きな烏の足は、しかし伝説に語られる３本の倍にしか見えず、
鷲の頭と翼に獅子の身体を持つ筈の古き幻獣の頭は鮫のそれと挿げ変えられ。
そして数多の動物から切り取った一部を無理矢理繋げて飛竜の姿を成したおぞましきモノ。
苦痛に苛まれるが故か、身を捩りながらの咆哮が車内を、車窓をびりびりと震わせる。

「……そう簡単に通してはやらんとでも言いたげだな」

呟く寅靖の腕に、顔に浮かび上がるは紅の虎紋。

「さて分かってるだろうけど渕埼寅靖、幾らガチで手合わせしたくなりそうな造形でも今は」
「お前に言われなくても時間が惜しいのは分かっている！」

交わされる言葉と視線に不穏な火花が走っているように見える気がするのとは裏腹に、
絶妙なタイミングで妖獣の群れに叩き込まれた寅靖の紅蓮撃と影郎の震脚。
炎を纏う獣爪をまともに捻じ込まれ咆える鮫頭に次々狙いを定め術式弾を撃つユエと彩晴。
更に身を焼かんと炎の魔弾を生み出そうとしたはたるが、しかし次の瞬間身を翻す。
……一瞬前に彼女がいた地点には、何本も無造作に突き刺さる硬質の羽根。
刃の羽根を飛ばした６本足の大烏を残菊の斬馬刀が薙ぐも、寸でで避けられ刃傷は浅く。

「リリスに続いて妖獣まで飛び道具持ちだなんて……狙われると厄介ね」

魔弾を諦め白燐奏甲の加護をユエに施すはたるが大烏を睨み戦況を把握しようとした刹那、
継ぎ接ぎ飛竜が吐いた焼けつくような熱波に幾人かが囚われ身体の自由を奪われる。
しかし辛うじて麻痺から逃れた雛の慈愛の舞が仲間達を蝕む麻痺も封術も拭い去っていく。
ほぼ同時に影郎が連携の恩恵から繰り出したクレセントファングが鮫頭を消し飛ばし、
ユエとモルモ、彩晴が相次いで傷を穿った大烏を大上段から一刀両断した残菊の黒影剣。
ドアまでの直線距離で最も邪魔だった大烏を討った事で生まれた一条の活路。
翅龍の牙と鱗天馬の蹄とを共に耐えていた寅靖が不意に右手を翳した、その瞬間。
彼の右手から放たれた土蜘蛛の糸が翅龍を、鱗天馬を、継ぎ接ぎ飛竜を絡め取った。


「――走れ！！」


全てを物語る、其の一声。
連結地点へと駆け出す仲間が全員通り過ぎるのを確認し、最後に寅靖も駆けた。
４両目入口の傍で待っていた雛が傷の深い彼に祖霊の加護を降ろす。

「大丈夫ですか！？　あの妖獣達を１人で抑えるなんて……」
「ああ、大丈夫だ。そう軟な鍛え方はしてないさ」

応える寅靖の背後、迫る飛竜の蹴爪。
刹那継ぎ接ぎ飛竜の眉間に撃ち込まれる弾丸。

「奴は俺が！　先輩は装置を！」

少ない足場から屋根に登った彩晴が今度は継ぎの裂けかけた肩に狙い定め銃を撃つ。
抉られぐらりと態勢を崩す飛竜が背後の鱗天馬にぶつかったその一瞬を見逃す筈も無く。

連結部分に打ち込まれた、獣爪の一撃。
一瞬の後、後方車両との隙間が瞬く間に広がり……見る間に見えなくなっていく。
気を抜けば吹き落されそうになる強い風圧に耐えながら車内に戻り、退路無きドアを閉める。

「――急ごう。４両目は抜けるだけだ」

机の上の瓶には目もくれず、既に開いた３両目へのドアへと駆けて行った寅靖。
それを追った雛と彩晴の横で何かが割れる音。
薄荷の様な涼しい香りが一瞬空間に広がったような気がしたが目もくれず走り抜け……。

「……え？」
「……あら？」
「もきゅー！」

横を飛んでいくモルモにさっきまであった筈の傷が消えている、と首を傾げた彩晴。
今までの戦いで相当消耗した筈の癒しの力が全て身体に戻っているような、と感じた雛。
負った怪我も消え乗車直後の元気いっぱい状態にしか見えないモルモ。

……好奇心は猫をも殺すという言葉は、もしかしたら額面通りでは無かったのかもしれず。



――災厄の主が、最後の仲間が待つ先頭車両まで、残り３両。