Lettera ad arcobaleno

……あれから、もう７年。

風景が目まぐるしく変わった所もあれば、全く変わらない所もある。
そんな中で今まで何故かあの日だけは、いつも雨が降った。
７年前のあの日を繰り返すように、暗い空から降り注いで。

だけど、今年は。
……晴れたんだよ。７年ぶりに。
だからいつものクッキー、濡れずに届いたよな？

毎年あの交差点も見てるけど、澱み残る心も感じない。
……この期に及んで現れるなよ？この手で祓うとか絶対嫌だからな。



また逢えるのがいつになるかは分からない。
ほんの数日先かもしれないし、何十年も後かもしれない。
だけどそれまで、待っててくれる？

天に架かる虹の橋の向こうで、くなと一緒に。

……待ってて、くれるよね？



 

Calling.

――2009.03.12　22:41



「――もしもし、はた？　今電話しても平気？」

『２３時までならね。明日早いから。……何かあったの、いち？』

「あー、今の時間で家の電話鳴らすとマズいと思ってはたの携帯に」

『……確かに。父さん達に伝言あるなら伝えとくわ、私が聞いていいものなら』

「あ、ええと、３月の末にそっち戻ろうと思って。鎌倉へ持ってきたい本探したりで」

『本、っていちの部屋の？　……ごめんなさい何冊か借りてたわ私』
 

「いや置いてってたのは自由に持ってって構わないってば。何故に他人行儀」
 

『……色々と察して頂戴』
 

「……えー？」
 

『冗談よ。簡単なお菓子作りの本借りてたの。流石にいち程には上手じゃないけど』

「……ねえはた、母さんに料理関係だけは僕をモノサシに使うの禁止って言われてたよね」

『そうは言われても、女には時にプライドを守らなきゃいけない時があるのよ』
 

「……風邪引いてる？　それとも寝ぼけてる？」

『……やっぱり白々しい嘘はすぐ分かるか』

「何年双子やってると思ってんだ」

『梅雨が来たら１５年目突入ね』

「まあ兎も角月末には戻るから。詳しい日程は追々連絡する」

『分かったわ、伝えとく』
 

「あ、何か鎌倉とか横浜とかのお土産要る？　希望無さそうなら俺の方で見繕ってくけど」

『個人的な希望出していいなら中華街で本場の馬拉糕買ってきて』

「了解」

『ねえ、いち』
 

「ん？」

『……今さっき、自分の事“俺”って言った』

Cabina di tronco della felicità

――暖かくて大騒動で真剣で楽しくて。

本当に幸せな場所だった。

此処にいられて良かったと、心から思える場所だった。

日当たりの良い空き地に建つ双子のログハウスと、其処で出逢った沢山の方々へ。



……煌き甘く咲き誇る、尽きぬ感謝の花束を。

古の琵琶語り、其を語らずは敢えてか否か。

――源平合戦。

東の源氏、西の平氏。
朝廷の権力を握り隆盛を誇った平氏と、そんな平氏を打倒した源氏。
その一部始終は琵琶法師の弾き語りにより現代にも伝わっている。
そして政の中心が京の都から東の地に移ったのはこの戦いの後。

東の地……鎌倉に。


麒麟を思わせる強大な厄災が目指すのは、その鎌倉。
遥か西の浦で討たれた平氏の渦巻く怨念の為せる業なのか、それとも。



……盛者必衰と、奢れる者は久しからずと琵琶は唄う。
だけど、僕達は盛者なんかじゃない。必衰なんか受け入れたりするもんか。

――。

「……Zion hort die Wachter singen……」

――呟き唄う旋律は双姉の影響で覚えた異郷の、異教の、異国のもの。

赤い表紙の古い本の頁を、まるで動かない手で捲りながら。

「Das Herz tut ihr vor Freuden springen……」

……南瓜の力は『健康』と『金銭運』、

紅茶の力は『現実意識』と『金銭運』と『勇気』……

食べ物に込められた魔法の力が綴られる文章を目は追うけれど、

頭の中には全く留まらずに拡散していく。


「……Sie wachet und steht eilend auf.」


――目を閉じれば、暗闇に降り続く霙が見える。

音を立てて地に落ち、泥濘となって消える。


「…………Ihr Freund kommt vom Himmel prachtig,」



取り落とした本を拾い上げる力すら、何処かに置いてきてしまったんだろうか。




「……Von Gnaden stark……von Wahrheit machtig……」

力は欲しい。それでも、この手のままで。

……ああ、まだ目が赤い。
昨日、一人で隠れて泣いてた、から。

降つ流星、寄す波濤、伊予の禍津を祓え。

夏休みに臨海学校で向かった四国へ、週末に再び向かう。
今度は……戦う為に。



期末試験終了後、従弟からメールが来た。

『状況最悪、笑いすら起きやしねぇ。止めようが俺は帰るからな』

ただそれだけの、短いメール。



止めるもんか。
同じ言葉を君に返すよ。



『彩晴がどんな手を使ったって、僕は必ず愛媛に行く。止めたら絶縁だから』

迷って悩んで行ったり来たり。

色々考えながら粉混ぜてたら、又大概な量が出来上がった件について。
……ホントもういい加減同じ轍踏むの止めようさ自分！

（目の前に山と積まれた　塩キャラメル味の　ホットケーキ）

…………本当にどうしようかなこの量orz
引き取り希望があるならば諸手を上げて大歓迎。




うん、そろそろ又バイトジョブ変えようかなぁって。

ＧＴ行くのに便利だったヘリオンや鋏角衆に戻ろうか、
最初のバイトジョブだった割に殆ど使わなかった符術士再びとか、
触りだけ試してた青龍拳士やコミマスとか、
それとも又違うジョブか……

西の果てより東の果てへ。

昨日の夜、１週間以上ぶりに日本に。


東欧での戦いと。
直後にぶっ続けで行われた修学旅行と。



……今日は、とりあえず体を休めなきゃだね。
楽しかったし、疲れたし、日本に戻れて一安心だし。

東欧の森に、一条の光。

ポーランドの東、ビャウォヴィエジャの森。
世界遺産の一つである、奥深い森。

其処が今日の、戦場。


銀誓館学園が経験した数々の戦いの中で、
初めて為しえたのだと言う完全勝利。

裏切り者とされて囚われた銀誓館の人狼の救出。
３箇所で行われていた魔狼儀式の完全阻止。
そしてそれは、あの魔狼フェンリルの出現阻止にも繋がった。

味方を装い虚を衝く形で人狼を滅ぼそうとした吸血鬼一派の捕縛。
この森の人狼を指揮していた、人狼十騎士のひとりの確保。
人狼に協力していたヤドリギ使いへの被害抑制。

生命賛歌の効果時間が尽きるまでの間に、全てが成し遂げられた。


この勝利を受けた形で、明日からこのまま該当学年は修学旅行へ出発する。
中学２年の僕も勿論旅行組。イタリアとギリシャのコースを回るつもり。



……その前に、野暮用あるから、一寸ホテル裏に行ってくる。