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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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クールビズとかいう装いも先月末までか、街中には背広姿が溢れている。
そういえば娘も9月最後の日に冬服の準備をしていたような。

……そうだな、ちょうどこの頃だった。
あれは15年に4年足して更にもう数年前の事だ。



――全てが始まったあの日、俺は“まだ”神下修平だった。




……その日はのっけから色々と最悪だった。

風邪引きかけで頭が痛いわ授業にも部活にも身が入らんわ、碌に食欲が湧かんわ、
とどめにアヤカシ共に目を付けられて逃げてる間に道に迷うわ……
しかも奴等から逃げるのに猫の姿を使った事が結果的に凶悪に拙かった。
只でさえ酷い方向音痴のケがあるってのに、視界が低い猫じゃ余計に地理が分からない。
冗談抜きで今何処にいるかすらさっぱりで。
高校生にして方向音痴とか、相当致命的でしかなかった。……今もそのケは健在だが。

雨に濡れた身体が重く冷たい。
毛並みが水を吸うから服が濡れる以上に冷たく感じた。
そこに風邪の症状か頭がグラグラして視界が揺れてぼやけてくる。
ああもう俺このまま家に帰れず死ぬかもしんない、とその時は本気で思った。

何で俺だけアヤカシが見える上に追っかけられなきゃいけないのか、
何で俺だけ雷や炎をぶっ放せるという奇妙な力があるのか、
何で俺だけ猫の姿なんかになれるのか……

最後の力を振り絞って何処かの雨除けの下に滑り込んだが、そこまでだった。
動けなくなって、眠くなって、目の前が真っ暗になった。



次に見たのは、何処かの部屋の中。
毛布みたいな何かに包まれてて、暖かい空気で、明るい部屋。
雨はまだ降り続けているみたいで開いた窓の向こう、庭の方から音が響いてくる。
その庭も結構広い。和の庭というか……俺ん家に似た感じ。
あれだけびしょ濡れだった毛並みもすっかり乾いていた。
傍には浅い皿に入ったミルクまで用意されていて。
……それを見て初めて、自分が追っかけ回されて漸く腹が減った事に気が付いて。
毛布から抜け出して有難く戴いてると向こうから足音が聞こえた。

「良かった、目が覚めたなのですね白靴下の黒猫さん」

不思議な言い回しが印象的な女性……いや、俺と同じ位の歳に見えた。
さらさらした長い黒い髪で、少し小柄。
柔らかく可愛らしい印象の彼女は、だけど何処かで見た事があったような気がした。
シンプルで飾り気の無い濃紺のセーラー服共々。

「猫さんミルクだけだとお腹一杯にならないですよね? 猫缶持ってきますです」

……いや、其処までお気遣い無く。
人間なら直ぐにそう言えるがこの猫の姿では意思疎通が難しいのが難点だ。
まさか猫の姿から人間に戻って要らんとは言えないし。
否定が伝わるように、にぁ、と鳴いてはみたものの多分届いちゃいないだろう。
まあ、食えなくは無いんだけど……味薄いだけで。カリカリよりは食えるし。
というか猫缶常備してるって事はこの家元々猫飼ってるんだろうか。
周囲にいないのは何処かに行ってるか、それとも俺の姿を警戒してるのか……
そんな事考えていた刹那、影が俺に飛びかかった。
……否、俺の直ぐ真横を飛び退った、の方が正しかった。

猫だ。三毛と虎猫、2匹。
開いた窓から飛び込んで来たのか彼等もびしょ濡れ。
だが何より異様なのは両方の怯えっぷり。
余所者ならぬ余所猫の俺がいるにもかかわらず物陰に隠れて震えてる。
彼等が飛んで来た窓の先を眺め……心底納得すると同時に、頭を抱えそうになった。

奴等かよ。
アヤカシかよ。

……猫達は命からがら逃げ込んで来たってわけか。
普通なら俺も逃げる所だがいい加減逃げるのにも辛抱が尽きた。
俺一人なら兎も角、この猫達見捨てる訳にもいかねぇ。

黒猫の姿を捨て窓際まで走り、大きく開け放つ。
学校の外では常時手袋を嵌めたままの右手をアヤカシに向ける。
ありったけの赤に関わる単語を呟いて炎を呼び起こす。
熱を帯びる掌が熱く赤く透けるように見えるその様が最高潮に達した瞬間、一度握り締め。

「――燃え尽きろアヤカシ……っ!!」

問答無用でぶっ放した。
まやかしの炎がアヤカシを喰らうがまだ倒れない。畜生、しぶとい。
だが再度同じようにぶっ放した炎が奴を襲ったのとほぼ同時に脳天を貫いた刃があった。
それも普通の刃じゃない。青白く透き通り揺らぐ水の刃。
流石に脳天割られたのが致命傷だったか、消えていくアヤカシの姿。
消滅を確認した上で刃の飛んだ方向を逆に追いかけた視線の先に、人影。

……猫缶取りに行ってた筈の、あの彼女だった。


目をぱちくりさせていた彼女は、しかし直ぐに破顔して寄って来た。

「わわ、猫さんじゃなくて何と魔弾術士さんだったのですね凄いですー!」

マダンジュツシ?

「魔弾術士さんは猫さんになれるとは伺っていたですが本当だったのですね。
あ、私は水練忍者さんなのです。水遁の術を操った忍者集団の末裔らしいのですよ。
だけどこうやって力が使えるのは私だけで、他の能力者さんに逢うのも初めてなのです!
……わわ。ごめんなさい、私だけマシンガントークになってしまいましたです」

能力者? 忍者? 魔弾術士……は俺の事、というか俺みたいな力の持ち主って事か。

「……いや、悪い。俺何もこの力について知らねぇんだ。突然でさ。炎も猫も」
「私もこの力を知ったのは高校入って直ぐ位なのでした。まだ上手く使えないです。
ただ私の家には沢山昔の本が伝わってて、それを読み解いて何とか知識にしてます。
今の禍津が民はゴーストと言うのだそうですよ。大昔は沢山いたのだとか」
「マガツ? ……ゴースト? あのアヤカシが、か?」
「なのです。家の古い本には禍津とあるのでうちでは禍津と呼んでいますですが」

……凄ぇ。物凄い情報量。
俺の知りたい事とか何故何とかも、もしかしたら埋まってんじゃないかと思う位に。

「……今度でいい。その本、見せて貰えないか? 知りたい事が沢山ある」
「今度と言わずに今からお出し出来ますですよ。ご覧になっていかれますか?」


結局その日はそのまま夕方まで古い本にかじりつき、軽食まで戴いてしまった。
ついでに自宅とは逆方向へ逃げていたらしい事も地理を聞いて分かった。
更についでに……何か見た事がある気がした理由も判明した。
市内数校を会場にして同時開催する競技会で見た事あったんだった。……互いに。
彼女はプールにいて、俺は剣道着着てて。

最初は遠い昔の本の記述が見たくて、知りたくて。
そうしている間に運命の糸が繋がった同世代の人等と共闘する羽目になって。
だけどそれで見えなかった世界の真実が見え始めて。
……そして今に至るまでずっと、そして明日以降も俺は彼女の隣にいる。
世界の真実には俺達以上に、俺達の子供達が真正面から立ち向かおうとしている。
結果的に俺のもうひとつの実家になった彼女の家には今も猫達が転げ回ってる。
流石にあの頃の2匹は儚くなって久しいが、その子供達は今でも元気だ。



あの頃は本当に自分が何をしたらいいのかなんてさっぱりだった。
今でこそそれなりかもしれないが、この道が正しかったのかは死ぬまで分からん。
教職目指したのとか、神下から掛葉木になったのとか、色々と。

まあ、ただソレでも間違っちゃいなかったと自負出来る事はちゃんとある。
彼女に――ひなに出逢った事と。
そして、もうひとつ。

『死ぬ気は更々無いから。俺の命ひとつで購えるような事態じゃないし』
「は、購うだの言える立場と歳かよちびすけが。月末に南瓜饅頭が食いたいから生きて戻れ」
『……はたに頼んで下さいそういうのは。作って鎌倉からクール便とか激しく面倒臭い』


――お前達双子の親になった事だよ。
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