@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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――2009.08.28 NIIGATA
――ポケットの中の携帯が振動する。
無意識に固く握り締めた手を緩め、携帯を取り出して開く。
「……彩晴?」
『――15分後やね。用意しとって?』
「挟撃側には?」
『かっきり10分前に合図流す。……あれやね、典杏サンとやらホント完璧やね』
「……前日に流してくる情報じゃないけどな」
『いやいや凄ぇ役に立っとる。あの時刻と予測時刻ドンピシャなんよ?』
「それは上々。……ありがとう、即抜け出す」
通話を切り、一つ小さく深呼吸をして。
「……はた、一真、時間だ。15分後に」
「何て正確さなの。死人嗅ぎってそんなに精度高い能力?」
「典杏から昨日来てたメールに一寸した情報があって」
「なるほどね。……一真君、合図を」
「ん、了解」
携帯を取り出した一真とはたるがそれぞれ誰かへと1コール分だけ電話をかける。
直後ステージ上でプログラムを進行していた理紗がマイクを手に取った。
「――はい、それでは此処で突然ですがゲストによるライブタイムに突入します!」
講堂内が突如ざわりと騒がしくなる。
プログラムに一切書かれていないサプライズイベントの開始に驚く参加者達。
驚かないのはサプライズ関係者と、双子と一真と理紗だけ。
「此処から暫くの間、司会進行を4組の実行委員である相馬さんに御願いします」
「はい初めまして、4組の相馬です。まあ驚いた奴が殆どだろうけどもねー」
マイクを渡された相馬という男子が口上を述べ始めた所で壇上からそっと降りる理紗。
双子と一真に合流し、暗くなった講堂内を静かに急ぎ足で出口へ移動する。
「アンコール含めても30分は軽く御願いしますって相馬さんには伝えました!」
「……30分か。時間としてはかなり稼いだ方かもな」
「いや、あのゲストだし多分下手すっと1時間は持ってけるかもしんないぜ?」
「どうしてそう言えるんだよ一真」
「呼んだゲストが半端じゃないからよ」
「……どういう事だ、はた?」
何も知らないいちるの疑問に、にっこりと笑みを返すはたる。
姉の笑顔に訝しげな表情を浮かべた弟だったが、ステージに現れた面々を見て息を呑む。
「……あ、ALDEBA-R-AN?! 何でこんな所に!!?」
「相馬君のバンド仲間がメンバーの1人の大親友なんですって」
「時間稼ぎのサプライズ何か無ぇかなって言ってたらあいつが手を回してくれたんだぜ?」
「実はアルデの皆さん新潟の出身なので凱旋ライブの機会を探してたんだそうです!」
「という訳で、4組総出であの御バカ様を叩きのめすネタがまた一つ」
「……はーちゃん、それいちにはオフレコじゃなかったっけ?」
4組が仕掛けた、超人気バンドのシークレットライブという最大のサプライズ。
これで講堂の外を気にしようなんて人間が出る可能性を極限まで潰した形になる。
運命予報が無ければここまでの準備は絶対に出来なかったに違いない。
「……とんでもない仕掛けだな。はは、彩晴が聞いたら絶対泣くぞ」
「そうね、彩君には全力で戦闘すれば最後位見えるかもしれないわって伝えましょ」
「それ激励なのか嫌がらせなのか、どっちだ?」
「どっちかしらね。……私達は衣装変えなきゃ。逆側の控え室は押さえてあるわ」
「了解。俺は先に彩晴と合流する」
「……今何て言った、いち」
「だから、講堂の人間足止めする手段でALDEBA-R-ANのライブが今さっきから」
「あはははは。そりゃ速攻で完殺して紛れ込んで見るしか私には選択肢が無いですよね?」
「……今物凄く人間変わったぞ、彩晴」
「そりゃ変わるに決まってんやろ畜生!! ええい絶対生還して生アルデ見たる!!」
完全にスイッチが入った臨戦態勢の彩晴の横で大きな大きな溜息をついたいちる。
……勿論タキシード姿のままで。
「――お待たせ、いち、彩君。……残り何分かしら?」
「ん、残り5分ちょいやね」
「あら、意外に早く着替えられたわけね。もう少し時間が掛かると思ってた」
振り返ると、走ってきたのか上がる息を整えている3人の姿。
それぞれの私服姿ではあるが、実はいちると彩晴が持ち込んだ詠唱兵器の防具。
言われてみなければそうは見えないが生存率を上げるための策の一つ。
一真の傍には勿論相棒たるマウの姿も。
「さて俺等も準備せなね。――根の国の輩は根の国へ還さんと」
「ああ、一匹残らず黄泉津行きだ。……暁降の夜に懸けて」
彩晴といちる、各々の手の中に異能の力を解き放つ鍵。――名を、イグニッションカード。
「「――Ignition!!」」
起動宣言。
音無き疾風が2人の少年に異能と武器を纏わせていく。
彩晴の手には、砂時計を封じた金の天球儀が頂に据えられた銀の長柄鎚。
そして両足にシンプルな形状の黒く無骨なエアシューズ。
左耳に今まで無かったイヤーカフが現れ、鎖の先で緑の石が輝き揺れる。
いちるの右手には黒鞘の直刀、左手には白鞘の短刀……共に燕刃刀。
タキシード姿から一転して黒地に鉄線が蔓巻く様を染め抜いた紐止め型のジャケット。
眼鏡は消え去り、代わりに白の流水紋が横切る黒いキャスケットを目深に被って。
「……さあ、完殺宣告の御時間やよ?」
それはおどけた調子の彩晴の軽口とほぼ同時。
ポール照明が照らすグラウンドの先、仄暗い視界の中に揺らぎ始める闇。
強くなり始めた夜の風の中で、ぎらりと輝く幾つもの異形の光。
それが少しずつ、少しずつ大きくなっていくのが誰の目から見ても明らかだった。
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