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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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――2009.09.23



新潟の何処か、斎家とも呼ばれる宍矧家別邸。
年代がかった広間に集う年嵩の男達が喧々囂々捲し立て合っている。
一番の上座からその光景を眺める老年の男は何度目かの溜め息を吐いた。

(「……堂々巡りもいい加減に出来んものかな」)

呼ばれた理由がこれなら一喝して帰っても良さそうな気がしてきた。
いや、自分より先に堪忍袋の緒が切れそうな人間が後ろで座しているから止め役が要る。
散々色々聞き続けながら月主の正装たる濃藍の頭巾を静かに被っていてくれている事が、
ある意味何事にも変えられない奇跡に思えてくるから本当に不思議だ。
……祖父としてマジ切れの孫息子とか見たくないんだが。切実に。

「……首座殿、あの子が切れたら手刀の数本位構わんから止めてやって下さらんか」
「宗主殿、それあたしに死ねって言ってるように聞こえますけど?」

隣に座す者にこっそり囁くと、相手が笑って囁き返す。
一見、長い黒髪の今風の女子高校生だった。
但し着ている古風な装束が宍矧の正装を示す黄檗(きはだ)色でさえ無ければ。
――即ち彼女こそが宍矧首座連を束ねる頂点、首座。

「幾らあたしがちんまい頃から武道やってるとはいえ、実践と修羅場に勝る物無いです。
どう頑張ったって天地引っ繰り返る位でないと絶対に勝てませんって」
「そうか? 気質と理論の差では勝っていように」
「でも潜在込みだとしても、もう多分矧最強ですよあの子」

鎌倉の尭矧さん相手でも勝てるかな自分、と首を振る少女を見て複雑そうな漆黒装束の女。

「うわー、首座それは無しー。いっちゃんは兎も角彩(さい)はボコボコにしたって欲しいわ」
「ええといやちょっと待って下さい息子さん可愛く無いんですか!?」
「いいや旦那だったらもっと酷い言い回しになると思う」
「……蓮葵(はすき)なら言い兼ねんな、あいつなら敬語で毒が吐ける」

……孫達も孫達ならその親である実子達も実子達だ、と少し遠い目をしたくなる宗主。
ひいなや清澄(きよと)はまだしも、蓮葵はある意味能力者でなくて良かった側の人間だ。

「しかしお義父さんもとい宗主、もうおらぶ位やっちゃってええんじゃありませんかねコレ」
「あたしもここで聞いてて面倒になってきました」

終わりの見えない不毛さに本音を洩らした宍矧首座と尭矧当代一格衆頭代行。
2人からの正直な感想を至極当然と受け止めた宗主に下座から声が飛ぶ。

「何故今回の顛末に関わった当事者を全て呼ばぬのですか宗主!」
「此処に来たのが月だけとは儂等への無礼も甚だしい!」
「尭矧も宍矧も何を考えている!?」
「……ならば宍矧に関してはあたしから話を」

黄檗装束の少女が凛とした声で割って入った。

「典杏がいないのはあたしの判断だ。いや、此処に呼ぶ必要など毛頭無かった、だな。
今回の一件で死者が一人も出なかった最大の理由は典杏が『視た』からだ。
視て正しく判断したからこそ銀誓館学園からの心強い助力も戴けて無事に事が済んだ。
……そんな功績者を吊るし上げの場になんか呼んでたまるか」
「つ、吊るし上げだと!? 言葉を選べ小娘!」
「吊し上げ以外の何がある。尭矧の屍狩(かりうど)がいないのも同様だろう。……それと」

一度言葉を切った少女はキッと下座の男共を見据える。

「小娘以前にあたしは宍矧の全権を背負う首座だ」
「そうやね、彩が罪人になったんなら鎖巻いてでも連れて来たわ。
……だけど今回は話が違うんだ、逆に彩達の心身を労って欲しい位さ」

母親としてやなく尭矧全権委任されてる人間としてやからね、と漆黒装束の女も応えた。

「それになにより言葉選ぶべきはそっちなの分かっとらんやろ?
……今さっきあの子を月と呼び捨てた人、さっさと正直に手ぇ上げなさい」

名前呼び捨てならまだしも人格総無視の物扱いは見過ごせない、と。

「何を言うか、月を月と呼んで何が悪い!」
「変革の魁として生まれたならば相応の働きをすべきであろうに何もせぬではないか」
「暁降の名に胡座かいた子供に諂う謂われなど無いわ!」
「そもそも要役が子供ばかりのこの現状こそ是正すべきだ!!」
「銀誓館学園だと? 鎌倉に出来た能力者養成と保護の集団だと??
新参など使い物になる筈が無い、矧は矧の為だけに力を使えば良い筈だろうが!?」

……駄目だこのジジイ共。
上座の女性達と宗主が全く一緒の結論に達したその瞬間、
宗主の真後ろから板間が割れたと錯覚するような激しい音が広間中に響き渡った。
やれやれ、と音の方向を見る事もせず宗主が口を開く。

「好きにやってしまって構わんぞ。私が握り潰しておくから」

でも最大半殺し程度な、と釘を差す宗主の言葉に首座の少女が視線を後ろに向けた。

「手が要るなら助力しよう。というかぶっちゃけあたしも無性に暴れたい」

二人の言葉に反応したか、頭巾姿の人影の伏せていた頭がゆらりと上がる。
その手には真白の鞘に収まったままの短刀。
ある筈の無い武器の存在を認めた途端激しくがなりだす下座の男達。

「刀だと!? どうやって此処に持ち込んだ!!?」
「あれだけ調べても何も持っていなかった筈だ!」

「……カード1枚探し出せない方々が何を仰っても笑い話にしかならねえよ」

曰く、零度の声。

「別に俺は物扱いされようがどうだっていい。
暁降の最大の意義は生まれた瞬間とかいう説も否定しない、未だに自覚も薄い。……だが」

はらりと頭巾が床に落ちる。

「それと今回の事を一緒くたにされるのは冗談じゃねえ」

15歳の少年と思えぬ程に凍てついた視線が容赦無く男達に突き刺さる。

「もし典杏の運命予報士の力が無ければ銀誓館の仲間の力も借りられず、
俺も陽主も彩晴も死ぬ以上に市内全域惨劇と化したやもしれない。此処も何人死んだかな。
もし彩晴がいなければ何処からいつ禍津の群れが来るか全く分からなかったろう。
……矧だけでカタを付けるべき事なら宗主が頭から指令を発していた筈だ。
運命改変が成らぬなら暁降両方が死ぬと分かってて尚黙ってた理由を宗主に問う事無く、
端から俺等を糾弾とは、良い歳した割に揃って餓鬼だらけかよあんた等は。
は、こんな馬鹿げた場に陽主引きずる理由も意味も無え」

今時の小学生の方がまだ大人だよこれじゃ、と無表情で吐き捨てた月主。
激昂した男が喚きながら飛びかかろうとするも、割って入った首座に易々と投げ飛ばされ。
先程広間に響いたのと負けず劣らずの音量で板間が鳴る。

「あーあ、正論に切れたら負け認めたようなもんじゃないか。大の男が格好悪いねぇ。
つか今の首座な、相当手加減に手加減重ねてすらコレなんやよ?」

あんた等じゃ彩相手でも一生勝ち目無いな、と頭代行の女性が笑う。

「――ならばおぬし等が子供達の代わりに禍津と闘って腕一本足一本位失って来い」

漸く下座の男達へと向けられた宗主の声は、重く強く。

「年端も行かぬ子供達と嘲るならばそれだけの働きをおぬし等にも強いるだけだ。
あの若さで禍津との果て無き戦いの道を選んだ矧の心を継ぐ者達を笑うか、おぬし等は。
今も見ての通り、宍矧首座も暁降月主もおぬし等より遥かに強き者となった。
此処におらぬ暁降陽主も、嬰児と同い年の尭矧一格も又同じ。
それでも禍津の強さは際限が無い。嬰児達が報われず死ぬ未来がある程に強いのだ。
……安穏と高みから眺めるだけの者等が子供達を吊るし上げとは驕りも甚だしいわ!!」

真白の装束に身を包んだ宗主――掛葉木藤哉(とうや)の一喝に静まり返る広間。

「……しかし何より甚だしいのは賭、鷹、獅子全てに驕る者がいた事か。眩暈がしたぞ。
この様子だと覚醒した子供達を監禁する位していてもおかしくないな……深波(みなみ)殿」
「はい、宗主」
「矧の中にそのような子供達がいないか尭矧を挙げて調査を頼みたいが宜しいかな?」
「勿論、御任せ下さい。もしその場に行き当たった時は?」
「宍矧と連携してでも子供達の解放を願う。手が足りぬなら掛葉木からも手を割こう」
「あたしも独自に動きます。首座連にも助力させて全力で当たりましょう」
「尭矧、宍矧で動けば大概の事は済もう。……だが、狂気の輩が絡んでいた時は」
「俺が動く。俺だけでいい。月主の本性、“冷酷”の見せ場だ」
「いや、流石に一人は危険だよ。その時は及ばぬだろうがあたしも一緒に行こう」
「……茅都(かやと)先輩」
「此処では首座だ。はは、年上はあたしでも位は君の方が上ってのはややこしいなぁ」



「さあて、結構時間食わされたな……あたしは即行帰らなきゃだが君は?」
「俺もさっさと鎌倉へ戻ります。最悪でも明日の始業に間に合うようには」
「いっちゃんも茅ちゃんも難儀だねぇ、家から離れた者同士身体には気を付けるんやよ?」
「それは彩晴にも言っておきます。他に伝言はありますか?」
「んー、そやねぇ……あったあった。太鼓に無理して戻る位なら勉強せんかい、って」
「……それは絶対聞かなかった事にする気満々だと思います、彩晴」

彩晴の母親、尭矧深波に見送られながらタクシーに乗り込んだ銀誓館の学生2人。
駅までかっ飛ばしてください、と運転手に伝えた茅都の隣で目を閉じるいちる。

「……知らない事ばかりだ、矧も」
「まあな、子供に見せられる事ばかりでもないさ。首座連も結構楽しい状況だぞ?
いやあ典杏呼ばなくて本当に良かった、あんなの見せてたまるかってのな」
「本当にな。はたも彩晴も呼べやしないよあんなの」
「でもいつか真っ向から見なきゃならないけどな、その2人は」
「……見せたくないけど。“激昂”の本性の陽主……はたには、特に」
「そうだな、一寸怖い事になりそうだ……まあ、あたしも頑張ってみるさ餓鬼なりに」


この世全てが光だとは思わない。
光だけならば、陽の光だけならば夜は決してこの世には来ない。
夜が来なければこの夜は熱を持ち過ぎて瓦解する。

……それでも、望むは光。
例え闇の中でもがき揺蕩うのが己のみだとしても。
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