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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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二日が過ぎようとしている。
あの日から。

しかし未だ目覚めたとの報せが無い。
……彼の双肩を痛め尽くした重圧を思えば、眠り続ける方が身体には優しいかもしれず。
だが、冷酷と言われようとも、己が身に課せられた責は果たさねばなるまい。
その期限までに彼が目を覚ます事が無ければ……全ては水泡に帰してしまうとしても。


「……紫苑様。御客様に御座います。御通し致しますか」

襖の向こうの付き人の声音が、今は何故か少しだけ硬く慌しい。

「――はい、御願いします。私の大事な待ち人が御出で下さったのでしょう?」

問い掛けへの返答は無く、襖の開く音がその代わりとなる。


居住まいを正し、待ち人の姿を認め……彼に笑んで見せた。


「……もう身体の方は宜しいのですか、暁降月主殿……いや、掛葉木いちる君」
「はい。もう平気です。……長く御待たせして申し訳ありませんでした、高澤紫苑さん」


頭に未だ包帯の白が走る濃藍の袴姿の彼は、子供でも大人でもない雰囲気を纏っていた。





--------

「正式な場ではありませんから楽な姿勢を。正座に徹する必要もありませんから」
「……それじゃ、御言葉に甘えて。実は歩いてみたら捻挫してたのが分かって。
それとついでにこの格好で失礼します。月主正装、三祷でズタズタになっちゃって。
まあ……銀誓館秘伝の裏技使えば正装で来れましたけど、流石に揉め事は嫌です」

座布団の上で片足は胡坐、もう片足は膝を立て引き寄せるような座り方に変えた彼。
確か韓国の歴史ドラマで女官達がそんな座り方をしていたと、ふと思い出す。

「全く構いませんよ。正式な場ではないし、ズタズタの原因は目の当たりにしていましたし。
しかし、見ていると本当に夏来と同い年なのか時に疑いたくなりますね。特に身長が」
「……夏来の方が厳密には年上なんですけれど。確かあいつは4月だから」
「はて、そうでしたっけ。……マズイな、養父ともあろう者がこの体たらくでは」

相当の失態。夏来を託して下さった大沢の父君に申し訳が立たないではないか……。

「多分夏来だって紫苑さんの誕生日知らなさそうだから痛み分けになるんじゃないですか?」
「いや、残念ながら私の誕生日は覚え易過ぎてね。1がズラリと並ぶのだよ」
「……あー、それは……因みに夏来は4月の21日です」
「成る程……今この時でしっかり覚えておかねば」

室内に漂う何とも言えない空気を払拭するかのように茶の満ちた湯呑を運んできた付き人。
心遣いに礼を述べて茶を啜り、一息吐く。


「さて、夏来の話は後に取っておくとして。……そろそろ、本題と行きましょう」
「本題、ですか。……ああ、盛大にかっ切られましたか?」

……それは笑顔で放つ台詞では無かろうに。
確信込めて『俺の三祷奉納は一発却下されたんですね?』と聞いたようなものではないか。

「……単刀直入に過ぎませんか、余りにも。その前に御伺いしたい事があります」
「構いません。俺が喋っていい範疇の事ならば何でも」
「では潔くぶっちゃけてしまいましょう。――あの“極意”、何方から手解きを受けましたか?」
「何だ、その事ですか。――槐(えんじゅ)さんですよ。俺が5歳の時に」

さらりと出て来た人名に驚愕する。

「……先の、宍矧首座様……!?」
「ええ、宍矧槐さんです。お祖父ちゃんと喧嘩友達だったそうでよく宗家に遊びに来てらして。
でもあれは喧嘩友達と言うより断ち切れない腐れ縁の野次応酬にしか聞こえなかったけど。
お祖父ちゃんの名前に藤が入ってるからって藤若藤若って連呼してましたよ、槐さん。
返すお祖父ちゃんもこの馬鹿槐がとか言ってたんでしっかり覚えてます。凄い意外な感じで」

……宗主と宍矧首座という立場から想像もつかない光景だが、彼の言葉に嘘は無いだろう。

三祷の“極意”は宍矧首座、及び首座を迎え入れる首座家の者のみに継承される。
但し首座は首座家の養子となった後に継承を受ける為、今の椎名茅都は何も知らない。
首座家の者が獅子の外にそう易々と“極意”を流す筈が無いから議論の種だったが……
……成る程。先の首座様直々となれば話は違ってくる。

しかし、何故。

「……何故よりにもよって三祷奉納者に最も遠い暁降月主の貴方に、先の首座様は……」
「……今となっては、真意はあの人のみぞ知る、ですけど」


――この世には知らぬで構わぬ事、知らねばならぬ事のふたつがありんすえ。
――そして、これは例え御月様であろうと知っていた方が後の為になる事でありんすなぁ。
――この世の全ては揺らいで変わる。故にいっそ揺らがせてしまいなんし、御月様。


「……俺の覚えている限り、揺らがせようと、変革を起こそうとしていたのかな、と。
お祖父ちゃんの時の三祷奉納、実は見えない所で仄暗い出来事が多発したとかどうとか。
俺の時程あからさまかつ危険ってわけじゃ無かったけど何度も狙われた事が、って。
その時は4人で奉納を競うものだったそうだけど、足の引っ張り合いの酷い版が、みたいな」
「その話は私も聞いた事が。……史上稀に見るグタグタっぷりだったと」

首座家や当時の首座に賄賂を握らせて“極意”を得ようとした者が現れるまでになった、と。
勿論賄賂など通用する筈も無く、唯一無知故の我流で乗り切り認められたのが、今の宗主。
それを目の当たりにしていただろう先の首座様の、心の内は……。

「まあ、槐さんの思惑を抜きにしても、今回の俺は人柱兼特攻隊みたいなものですね。
認められてない上に宗主になれる筈の無い暁降が三祷なんて言い出す事自体、荒唐無稽。
……だがそう言い出さなきゃいけない位の状況なのいい加減理解しやがれ重鎮共、って。
夏のお祖父ちゃんの一喝じゃないけど、だったら禍津とてめえ等が戦り合って来いと。
最初は全然権限の無い俺の現状どうにかしようと暗器振り被った程度に考えてましたが、
俺は兎も角としても他の子供の権限即行認めやがれって方向にシフトしました最終的には」

派手に投じられた一石。
その波紋が何処まで広がるか、広がった後に何が変わるか。何が生まれるか。
……その為だけの手段に用いたのが、この三祷奉納と言う事か。

「……では、宗主になる気は、今この時も」
「全く無いって言い切っておきます。俺の夢は調理師ですから」

迷いなど一切無く。
……だから、笑顔であんな台詞を放ててしまえるのか。
重要なのは三祷の結果では無く、その先の未来がどう変わるか、だから。



「そうですか。なる気はありませんか。実に暁降らしい答えですね……しかし」



私の言葉の最後に込められた意思に反応したか、彼の表情が静かに冷たさを帯びる。




「――とある未来を此の世が選び取ったその時のみ、貴方には宗主として立って戴きます」





此の世が如何に裂け綻びようと繋ぎ止める。
其れが『矧』を『矧』足らしめる、唯一無二の宿業。
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