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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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――目の前には砂時計。否、砂に見える其の一粒一粒は、名も知らぬ誰かの生命と知れ。






破壊されたドアの先から流れ込んで来る死の気配。
メモ曰く其処に待つのは骸と蛇――リビングデッドとリリス。
リリスは当然だがリビングデッドも一筋縄ではいかないだけの戦力が揃っている筈だ。
流石に最後尾に居たあのレベル同等ではないだろう。
……車内が又一度、大きく揺れる。
それは制御が無ければ危険走行当たり前という暴走特急の“本領”の一端。
身体ではっきり感じるどころか下手をすれば弾き飛ばされる程の振動。
此処からはこの揺れすら乗り越えていかねばならない。
4両目を過ぎた以上……運転席ではもうひとつの死闘が始まってしまっている。
互いに互いの終わりを悠長に待つ時間など何処にも無い。

――待つのではなく、互いに先んじて終わらせねば、どちらにもこの先は無いのだ。

「さて此処でクローンと交代とかないかなあ」
「……流茶野」
「既に全員6付いてるから無理やと思いますよ多分」

研ぎ澄まされていく五感。

「例え強化は強制解除でも怪我はそのままです。無理は絶対駄目ですからね?」
「……辛いわね。急がなきゃならないのに身の安全も優先させなきゃならないなんて」
「はたる、まだ、血が出てる。奏甲に余裕があるなら、傷を治した方がいい」
「そう言う残菊兄ちゃんも傷だらけだってば!? もうあの爆弾の雨ひど過ぎるよ……」

死の気配に抗う意志。

「此処を抜けたら即時殲滅。非常ボタン。……他には?」
「――それで充分」



宙に描かれる魔法陣。己が身を彩る虎の紋様。
古の祖霊は斬馬刀へ降り、舞い散る燐光は詠唱銃へ宿る。
加護を得た残菊と彩晴が戦端を開き、自己強化を終えた面々が続く。
斬り結ばれる刃、轟音と共に炸裂する蒼い雷撃、天を焦がすが如き業火。

「――お前達に、お前達なんかにこの命も仲間の命もくれてなんかやらないよ!」

蛇型のタンクと一体化したリリスの吐き出した毒霧を、一喝と共に雛が慈愛の舞で掻き消す。
腐敗進行で殆ど原形を留めていない崩れかけの熊を叩き潰す残菊に迫る別の骸の刃。
ガツリ、と箒の柄で刃を受け止めたはたるがそのまま返す先で殴れば傾ぐ骸の身体。
蝙蝠羽のリリスが放った矢を腕に受けながらも肉薄した彩晴が三日月の蹴撃で応戦し、
道化装束の骸がばら撒くナイフを全て避けたユエがお返しとばかりに隕石の雨を降らせる。
鉤爪閃かせ舞う半人半鳥リリスに両腕の刃で競う影郎が目にも留まらぬ鋭い一撃を放ち、
彼と背中合わせの形になった寅靖がサーベルを構えた軍服姿の骸を容赦無き紅蓮で穿つ。
仲間が小さくない傷を負えば雛やモルモ、はたるが癒しの異能や力で支え、
詠唱兵器に意志と力を託す仲間が癒し手達を庇い立ち塞がる禍津の群れを消し去っていく。
それでも先頭車両直前の2両目に立ち塞がるだけあり、戦況は一進一退。

「……っつ!!」
「彩君!?」

サーベルで肩口を斬り上げられた従弟に駆け寄ろうとしたはたるを制止したのは彼本人。

「違うはたちゃん、優先向こう!」

咄嗟に振り返った彼女が見たのは時計に視線を走らせるその一瞬を狙われた影郎、
そして彼を庇う形になったモルモが、道化のナイフで傷を負うその瞬間。
逡巡する間も無く箒から舞い飛ぶ燐光の花弁をモルモへと降らせるその横で、
前衛陣の穴を埋める形で前に出ていた雛が巻き起こした吹雪が迫る禍津達を打ちのめす。
凍てし竜巻は偽りの命の炎を幾つも吹き消し、居残る者を其の身苛む魔氷で包み込んだ。

「下がれ尭矧! 突出するな!」

大猿の顎を割り只の屍に還した寅靖が血の止まらぬ肩を押さえる後輩の許へ駆け出すが、
その言葉に頭を振る彩晴が放った一声は博打込みの烈風を纏うのとほぼ同時。

「――そのまま走って! 先輩が“一番近い”!!」

――何が、と問おうとした寅靖より先に動き出したのは、影郎。

「うるせー! 誰も彼も僕の目の前で“美味しい所”持って行きやがって死ねえ!」

……“行きやがって”と“死ね”の間に千尋の谷もかくやの溝が見えたのは気のせいか。
彼の震脚が力の弱い禍津を吹き飛ばし、衝撃に耐えた軍服の骸に降る蒼き神雷の大輪。
轟音と共に炭化した骸が脆く崩れ去った後、寅靖の前に生まれたのは遮る者無き生の路。

「大丈夫! 寅靖兄ちゃんは俺達が守る!」
「――そういう、事か――分かった!」

床を蹴る寅靖に気付いた半人半鳥リリスが伸ばす鉤爪は寸での所で空しく宙を掴み。
直後狙い澄ませて放たれた炎の魔弾にぐしゃりと溶かされ木霊す悲鳴、
機を逃さんと突き通された斬馬刀に腹を貫かれ喉から血と断末魔を吐き霧散した。

「……誰も欠けない。欠けちゃ、いけないんだ。後少し、後少しだから……」
「邪魔するなら燃やすまでよ! 消えたい奴から来ればいいわ!」

直後車内を揺るがす振動に飛ばされかけた仲間の腕を確りと掴んだ残菊の切なる言霊。
眦を釣り上げ啖呵を切ったはたるの箒の先には再び火花が音を立てて弾け始める。
蛇タンクをズタズタに切り裂く蹴撃で飛び散った猛毒の霧は清らかな舞の光が浄化して。
その隙間狭間を、揺れる車内を一直線に駆け抜けた寅靖の指が『それ』に触れたのと、
彼を狙う数多の投げナイフの射線に影郎が割り込み双刃で弾く音が響いたはほぼ同時。


「――いちる、来たぞ! あと少しだ!」


この声はドアに遮られ届かなくとも。
運転席に響く警告音に託した思いが届く筈だと、唯信じて。

「……そや、後少しや。んな柄でも無い猫被んのも後一寸で終わんのや」

振動音の中に密か紛れ込ませた呟きと共に、烈風で強化された術式弾を道化へと撃つ。
肩から左腕を丸々吹き飛ばす程の威力に負けず劣らずのユエの術式弾が右腕を砕く。
ナイフ降らせる両の腕を永久に失いぐらりよろめく道化へ迫る薙刀の刃。

「残された時間は少ないもの……立ち塞がるなら、容赦なんかしない!!」

振り下ろされた白の薙刀。
痙攣と共に仰向けに倒れ込んだ道化が動く事は、もう無かった。



傷は多く。
流れた血も又多く。

それでも、それでも誰も欠ける事無く。
誰一人欠ける事無く、最後のドアの前へ。



――災厄の主が、最後の仲間が待つ先頭車両は……もう、目と鼻の先に。

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