@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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千年前に生まれ縁あって双子の義弟となった和穂氏族の妖狐、稚都世。
勿論、周囲に千年前を知る者など居る筈が無く。
たったひとりの和穂の忘れ形見として、現代の全てを驚きと共に受け入れる雛狐。
――その生活が激変した、とある日の物語。
勿論、周囲に千年前を知る者など居る筈が無く。
たったひとりの和穂の忘れ形見として、現代の全てを驚きと共に受け入れる雛狐。
――その生活が激変した、とある日の物語。
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「もう夜更けなのです今日は疲れましたです……」
「メガリス破壊の余裕があっただけ良かったけど……流石に突然だと、ね」
元々今日は稚都世と学園の大図書館へ行く予定だった。
それで早めに支度をと思っていた所に、学園からの緊急連絡。
――東京湾のど真ん中に月の来訪者達と大量のゴースト群が落ちてきた、と。
急遽予定を変更してアクアラインへ急行した俺達は現地ではたや彩晴、仲間達と合流。
古の七星将だの抗体ゴースト化した金毛九尾の『尾』だのカリストだの……
もういい加減戦いの終端が見えて欲しい湾内の諸々と交戦して一応は掃討成功、
月の来訪者ルナエンプレスの一団と存在自体を数日前に知った理事長とを学園に迎え、
生命賛歌の効果が切れた戦闘後の恒例となった祝勝会の後。
初めての大規模戦で疲労のピークに達したらしい稚都世を連れて、
俺は共々の下宿先兼バイト先兼伯父の家ではなくリャディナへと向かった。
……稚都世が「どんな顔をして帰ればいいかわからない」と呟いたからだ。
元々千年前を、世界結界の無い時代に生きていた彼にとっては、
こういう非日常の極みたる大規模戦闘の方が現在よりも日常に近いものだった筈で、
だけれど……もしかしたら、此処までの規模で戦う事が殆ど無かったのかもしれない。
稲荷神の御遣い狐を称していた和穂氏族が生死を懸ける戦闘に縁など……。
……そういえば、稚都世は確か大陸勢らしき妖狐集団の襲撃で氏族とはぐれたのだ、と。
「稚都世は奥の簡易ベッドと毛布を使って。俺は毛布さえあれば何処でも平気だから」
「だめです兄上様こそちゃんと寝てください。オレは床でも大丈夫です逃げのびた経験がっ」
「サバイバル経験を遥か昔ならいざ知らず現代日本の室内で誇ってどうするんだよ。
子供はちゃんと寝てちゃんと食べないと何時まで経っても背が伸びないぞ?」
「うぅ、背丈のことは反則ですー……」
現状知己の中で稚都世自身が一番身長が低い事を微妙に気にしているらしく、
その辺りを突くと途端に静かになる。10歳ならまだこの位でもいいだろうに。
まあ、俺を含め周辺が高身長過ぎるというのもあるんだろうけれど。
稚都世にとって残菊先輩の2m越えなんて最早未知の領域だろうしな……。
そんな事を考えつつ、リャディナの前へ辿り着く。
入口の扉の鍵を取り出すのにトートの中身を漁ろうとした、刹那。
「……ちとせ、どの――稚都世殿!」
少女の声。
聞いた事の無い、声。
その方向を向くと、街灯の穏やかな光の下に小さな人影。
ずっと走ってきたのか、肩を上下させて呼吸を整えようとしている少女が、其処に。
胸元で揃えられた藍色の髪に、漆黒の瞳。
背丈は稚都世よりも頭ひとつ位高いだろうか。
数枚の袿を重ねた袴姿に、舞妓のぽっくりを思わせる厚底の草履。
両手に抱えた、風水盤らしき白い円盤。
遠い昔、それこそ平安時代辺りを連想させるような、姿。
「……かつらぎの……おひめさま……?」
呆けたような稚都世の声。
信じられないものを見たかのような、表情。
彼の言葉に、不安と焦燥が一杯だった少女の表情がぱあっと明るくなる。
恐らくは、安堵と――。
「御逢いしとうございました……ずっと、ずっと……遙か時過ぎし此の青星で叶うとは……!」
その先は遂に言葉とならず。
駆け寄り稚都世にひしと抱きついた少女は声を殺して泣きじゃくっていた。
未だ呆けた表情のままの、稚都世に。
――ふしまち、さま。
心此処に在らずといった風の彼の口から、ただ一言、こぼれ落ちる。
この現実にひとり置いて行かれたかのような声のまま。
「……中に入ろうか、ふたり共」
そんな光景の後ろでドアを開け照明を点けていた俺は室内から手招きする事にした。
ひとつは、稚都世の意識が現実に戻るための助け船。
もうひとつは、深夜帯に屋外で騒ぐと色々面倒という……保護者としての微妙な策。
何より、台風が過ぎた後の鎌倉は途端に風が冷たくなってきたから風邪でも引きかねない。
カウンターの後ろで湯を沸かし始めながら様子を窺うと、暫くして稚都世が入ってきた。
ふしまちさま、と彼が呼んだ少女の手を引いて。
さてお湯が沸いたとはいえ何を供すればいいのだろう。
稚都世は大方現代世界に慣れてきて好みも色々と確立してきてはいるが、
他方の――俺の推測が正しければ、彼と同じく西暦1000年前後生まれだろう――少女に。
「ええと、全くの初対面で聞くような事でも無いんだけど。
さっきの祝賀会で口にして気に入った物とか、気になった物があったら教えてくれる?」
これで無いと言われたら無難に緑茶かな、と思いつつ。
そんな俺の問いかけに、弾かれたような反応を示した稚都世。
対して少女の方はといえば、ほんの少し逡巡した後に口を開いた。
「あの……今はもう秋の頃でございますよね?」
「10月、神無月だから完全に秋だね。もしかして、季節が間違ってるって物でも見かけた?」
「はい……もう実りの盛りを過ぎて久しい筈の、桃を」
「なるほどね。流石に生は厳しいから缶詰かな……一寸待ってて」
背伸びをして近くの棚の桃缶をひとつ取り出して開き、漬かっていたシロップと分ける。
浅めのコップへ一切れづつ入れて軽く潰してから冷やしたソーダを注ぐ。
潰すのに使ったスプーンを差したままふたりの前へ。
「稚都世は兎も角、月のお姫様はきっと知らない味かもね」
俺の中の推測を敢えてはっきりと言葉に混在させて。
「……如何して、臥待(ふしまち)が月より至りし客人(まろうど)が一人と」
「今までの会話で推測しただけ、なんだけどね。
どうやら稚都世と何処かで繋がりがあった事は確かで、でも絶対に最近じゃない。
彼が『お姫様』と呼んだ辺り、それこそ稚都世が生まれた千年程前か、
目を覚ましていた時期のギリギリを何とか見積もったとしても江戸か明治か。
例え能力者だろうと人間という生物は百年生存すら困難な存在だから、
来訪者の稚都世と過去において知己の関係なら、確実に来訪者、ってところかな。
後はさっき青星って言ってたよね。多分地球を指すんだろうけど。
そもそも今日は東京湾で派手に他種族混合バトロワ的な一戦があったけれど、
これは月に住む来訪者達が禍津を振り切って到着したのが発端。
千年前生まれとしても地球が青い星と知るのは地球外に出た事がある存在しか――ってね」
地球の民である人間ですら、地球が宇宙の中で青く輝く星だと知ったのは60年前かそこら。
その前に此処を青星と呼ぶ知識を得たならば――。
「……遠く遠くへ、御輿入れしたのでは無かったのですか」
ぽつり、呟いた稚都世。
「桂城(かつらぎ)のお屋敷の皆様は、力はあれど皆様人間でした。
あの地の主たる御館様も、寄り添う北の方様も、脇を固める御家来衆も……」
「……左様にございます。あの屋敷に集いし中で青星に縁無き者は、ただ臥待のみにて」
静かに言葉を返し、目を伏せる少女。
多分……今迄の話の限り、名を桂城臥待というのだろう。
微妙に重さを増したような沈黙。
流石にこのままだと互いに(ついでに俺にも)感情の落とし所が見当たらなくなりそうで。
現状を可及的速やかに打開する為、俺はとある手を試みた。
「――稚都世」
「どうしましたか兄上様」
「昔話が聞きたい」
彼からは保護直後にも大まかな経緯を話してもらってはいるが、
それは逃亡潜伏と封印の眠りに関わる部分が殆どで。
情勢や風俗、文化といった辺りは聞いていない事ばかり。
「脈絡や順序立てなんかは気にしなくていいから覚えている事を。
流行り物とか和穂の旅路とか、千年前を生きてきた存在の証言は結構貴重だからね」
敢えて話題の制限をしない事で逆に稚都世と彼女に共通する記憶を引き出す狙いだが、
こうやって無い頭から捻り出す策を弄した結果が余り期待出来ない物になるのは、
今迄の俺にとっては呆れる程茶飯事で。
……さて、上手くいくのやら。
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