@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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――2011.08.30
天井のシャンデリアより溢れる、豪奢な光の洪水。
無数に居並ぶ、艶やかな黒革背の客席。
視線を左右に動かせば、見上げる高さに貴賓席。
足音や身じろぐ衣擦れの音ひとつでさえ、明瞭な反響音に変わり空間内に拡散する。
重厚かつ遠大な歴史が蓄積されたかのような大劇場。
鏡のように磨き上げられた舞台の中央には真紅の天鵞絨も目映い、
贅を尽くされた黄金の玉座。
「……虚構の癖に此処まで完璧だなんて。現実世界で来たかったわよ」
日本では望むべくもない光景に正直かつ極めて場違いな感想を零したはたる。
「ともあれ、劇場に招かれたって事は――此処におわすは『英雄』かしら」
「――間違っても英雄ってガラじゃあねえがな、俺は」
背後からの声、そこに混じる色に少々の意外さを感じて振り向く。
彼――ルドルフの声色にも、そして浮かべる表情にもはっきりと現れている不敵さ。
平時の表情と纏う雰囲気に反し率先してガチでネタに乗りにいくタイプなのは、
初見から四半年を過ぎたばかりという短い付き合いながら知ってはいたが……。
「あら、てっきり『賢者』と一戦希望かと思ってたけど」
「それ最優先にゃ到底出来ねえってだけで浪漫そのものに関しちゃ肯定派だぜ?」
「……まー、インフィニにOK出す時点で実利10割は無ぇですわな」
更に意外な声の色。
此方に招かれたのならば確実に歓喜するだろうと思っていた。
そういう認識を他者がこぞって抱く存在――彩晴の声音も表情も、しかしそれとは程遠く。
「……指くわえて見とるしか無ぇオチじゃのうてホント良かったわ」
「はぁ!? 彩晴で手が出せねぇってどんな状況下だよそれ!」
「どんなて。……こっちじゃない方に決まっとるやろ」
此処ではない側。
――最年長の青年と最年少の少女と、双子の弟が招かれたのだろう空間。
「確かに彩君は此方向きよね……そういえば全員同い年で揃ったわね」
「あら確かに。そーいやそーなるわな」
「その割に銀誓館の学生って事以外に共通点が見当たらねぇけどさ」
……意外にある気もするのだが。共通点。
「――ようこそ、天覧劇場『アトランティカ』へ!」
4人目の声。
「招きに応じてくれて嬉しいよ、名うての勇士達。
さてさて、君達は“今度こそ”ボクを楽しませてくれるのかなぁ?」
肩の高さで無造作に切り揃えられた髪。
ローマ帝国時代を彷彿とさせる装飾も華麗な軽装甲冑。
ほぼ身長並の刃渡りを持つ豪奢な大剣。
目にも鮮やかな真紅のマント。
そして――奇妙な既視感。
玉座にどっかりと腰を下ろして手招きをする4人目。
能力者達とほぼ同じ年頃の――少女だった。
甲冑の付属品かと思った黄金の鎖が玉座の足に絡み付き地に縫い止められている事から、
この抗体空間の主、つまり抗体地縛霊は彼女というわけか。
容貌、装束、武器……確かに纏う雰囲気は『英雄』。
「このアトランティカなら何だって勇士の願いが叶うのさ。
ボクを満足させてくれるなら何でもね」
「……じゃあ“箒で空が飛びたい”って言っても叶うのかしら?」
「ああ勿論さ。じゃあキミは魔女なんだね?
ワクワクするじゃないか、本物の魔女と戦えるなんて!」
「ふーん……いや待て一寸待て。
これラルフで騎乗戦闘出来る絶好のチャンスじゃねぇか!」
「……わーいはたちゃんもルドルフも何なのこの適応力の早さー……」
一番ネタとカオスを愛している筈の人間から一番現実寄りな発言が飛び出すこの光景。
……ほら、共通点はちゃんとある気がするじゃないか。
「ねえねえ、準備が出来てるんなら楽しませてよ!
つまらなかったら痛いおしおきだからね?」
玉座で足をばたつかせ、ずっと退屈だったんだからと主張する様は、
あたかも少年ならぬ我儘少女皇帝。
そしていつの間にか彼女の周囲に侍るリビングデッド3人。
「――んじゃ、時間も確実に競りよるし始めよか?」
「さっさと満足してもらわねぇと終わらねぇしな」
「『賢者』側に負けるわけにもいかないものね」
異能を解放する起動鍵――イグニッションカード。
各々の手に、各々の意志を。
「「「Ignition!!」」」
音無き疾風が解放する、詠唱兵器と異能。
そして巨大な漆黒の刃を纏う忠実なる番人、ケルベロスオメガ――ルドルフの相棒、ラルフ。
己が前に降り立った相棒に軽い身のこなしで飛び乗り不敵な笑みを浮かべたルドルフ。
右腕のアームブレード、漆黒の切っ先を『英雄』へと突きつける。
「――俺の名はルドルフ。“銀の弾丸”の名の下に、てめぇに決闘を申し込むッ!」
「暁降(あかときくだち)の陽に懸けて――さあ、始めましょう?」
「……とっととお還り願うさね、根の国の輩は根の国へな」
横座りした箒ごと既に宙へ軽々と浮かぶはたるが花綻ぶ笑みで応える横、
彩晴のエアシューズと長柄鎚から星屑を思わせる光と翠の雷光が溢れ始めた。
「いいね、いいねぇ! 最高だよ! ああ、ボクはきっと君達を待っていたんだ!!
――一撃じゃあ簡単に死んでくれない勇士達をね!!」
狂気。狂喜。驚喜。
少女皇帝――『英雄』の瞳がぎらつき、濁り、染まる。
人ならざる領域を、是とする色に。
玉座から悠然と立ち上がった彼女が傍らの大剣を、“heros”――“英雄”の柄を握る。
人と獣、二対の“暗闇”。
“完殺宣言”と“翠玉歳星”。
“玉響導”と“華紅焔”。
各々の得物に意志を託して。
3人と1匹の勇士と、『英雄』と3体の屍が対峙する。
――『アトランティカ』の英雄譚、此処に開演。
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