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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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――2009.08.17   NIIGATA



(「……後少し、後少しで辿り着く」)

人の群れをすり抜け、虎縞の白猫は最短距離を突っ切っていく。
事故への対応でてんやわんやの一般人達は足元を疾走する猫に気付かない。
それがミニチュア白虎という珍しそうな造形であっても。

……そして、それが学院付属中の生徒が変身した姿である事など知る筈も無く。

剣狼の群れに気付かれぬよう、そっと背後に回りこむ。
周囲を見渡すと、積まれた段ボール箱頂上の傍に開いたままの窓。
迷う事無く、小さく小気味良い音を立てながら箱を昇っていく。
猫の跳躍力をフル活用して窓の中へ、真上の教室へ猫姿のはたるは飛び込んだ。



「……聞け、七宮寺」

頭と心臓の早鐘に抗い、一真は彼女の目を見ずに告げる。
もしトラックに見えていれば……もう少し誤魔化しの効き様だってあったのに。

「今から時間を稼ぐ。その隙に七宮寺は逃げろ」
「逃げろ……って、どうやってですか!?」
「後ろ見て」

其処には半ば瓦礫で塞がってはいるものの、廊下へのドアと枠の間に小さい隙間。
何事も無ければ、一人なら何とか通り抜けられる位の隙間。

「端から逃げる選択肢取りたかったが下手な音立てて見つかりそうで迷ってた。
……だけど七宮寺にまでアレが見えてりゃ話は別だ。先に逃げろ」
「……市川さんにも、見えているんですか?」
「勿論。これの原因はトラックでも何でも無ぇよ……ゴーストだ」

鞄から風水盤を引っ張り出す。
その行為に、隣のマウもレイピアを鞘から抜き放った。

「数が多かろうとこのままにゃ出来ない。……マウ、行くぞ?」

にぃ、と返事をしたマウの目が蠢く剣狼達を捉えて細められる。

「俺等が走ったら逃げろ。……絶対迷うな、逃げる事だけ考えろ!」

最後まで目を合わせずに、それだけ言い残して一真は瓦礫散る床を蹴った。



――数瞬後、その隙間を音も無くすり抜けた猫の影。
白く小さな縞猫の姿は歪み、長い黒髪が揺れる人の姿へと戻った。
藍色の瞳は戦場を捉え、小さく瞬いた後に眼前を見据える。

「――暁降の陽に懸けて」

魔法陣を描く暇も惜しいと炎を呼び起こしたその瞬間、戦場に“声”が響いた。



――あの人と、あの人と一緒にいた歩く猫さんが向こうへ走っていく。

刃物を生やした狼のような物の群れへ突っ込んでいく。
金属の打ち合う音、唸り声、断末魔、何かの壊れる、裂ける音。

これは、夢?
……いいえ、夢じゃない。分からないけど、それだけははっきりしている。
だけどこのままでは、あの人は死んでしまうかもしれない。
あんなに沢山の化け物を相手に、あの人と猫さんだけでは……!


逃げろと一真に告げられて、けれど動けない理紗の手が何かに触れる。
鞄から転がり出ていた、鎖で繋がれた一対の棍。
幼い頃に見た映画の少女武闘家が操っていた武器。
軽い身のこなしとこの武器で大人達を倒していくその様に憧れて、武術を習って……

理紗が棍の片方を握り締めたその時、先端の金属が“駆動音と共に回転を始めた”。



狼達の足を止める八卦迷宮陣、毒で蝕む不浄泥濁陣を一真が立て続けに放ち、
弱った様子を見せた個体をマウが刺し貫いていく。
それでも数の不利を覆すには弱く、狼達も連携して牙や爪で襲い掛かる。
その上連携を指示するのが狼よりも遥かに頭の良いリリス。

「……こんな地方都市に何の用だよ畜生」
「そーねー、用って程じゃなかったけどー、こんな素敵下僕さん休ませるの勿体無いしー」

舌足らずの癇に障る声と口調で更に腹立つ事をのたまう蛇付き幼女。

「あたしを追っかけてきた金髪のバカは始末したからやりたい放題出来るしー」

けらけら笑う人外の幼女が浮かべるのは猟奇的な笑み。

「まー、でもあのバカみたいなのは潰しとくに限るしー。それじゃ、あなたも死んじゃって?」

リリスの言葉を引鉄に、周囲の狼が一斉に一真を狙って駆け込んでくる。
その様がスローモーションになって迫るように見えた一真が観念した、まさにその瞬間。


戦場を支配した“声”が迫り来る狼達を叩き伏せ、抗えぬ何匹かを瞬殺した。
その声の、主は。

「……七宮寺!? 逃げろっつったろが!!?」
「一人でなんて無茶です! 市川さんを置いてなんか行けません!」

武術短棍を構えて一真の隣に立った理紗が舞うような動きで狼を叩けば、
その後ろから炎の魔弾が幾つも撃ち込まれて狼達を焼き消していく。

「……って一寸待て何処から来たはーちゃん!?」
「魔弾術士を舐めないでくれるかな、小さな隙間さえあれば何処からでも」
「あ、そうか猫!!」

魔法陣を描き術力を高めるはたるの存在に驚きつつ泥濁陣を一真が再び放つ。
先程とは違い傷を負った狼達には抗う術は無く、毒沼の中で次々に朽ちていった。
形勢逆転に驚くリリスにも容赦無く雷の魔弾が襲い掛かる。

「何でこんなに能力者がいるのよー!? しかもあのバカの武器まであるなんて!」

ぎりり、と理紗の武術短棍を睨み付けた彼女は、しかし次の瞬間身を翻して姿を消した。

「待て畜生逃げんな!!」
「……無駄よ、逃げ足速いのも特徴だから」

追いかけようとする一真を止め、何かに気付いたはたるは無言で猫の姿に変わる。
直後室内に飛び込んでくる人々の群れ。

「大丈夫かい、怪我は? あの時この歴史資料室にいたのは君達だけかい?」
「……はい、“私達”だけです。他には誰も。 ……“トラック”は?」
「今さっき突然バックして逃走したんだよ。……運転手よく生きてたなって感じで」

救急隊員の問いかけに気丈に、しかし完璧に応じる理紗。
その横で猫のふりをして聞き耳を立てるはたると、額の傷を押さえたままの一真。


(「……絶対何かが起きてる。偶然じゃない。……力を貸してくれ、いち!!」)
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