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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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――2009.08.21   NIIGATA



「……さあ、申し開きがあるならして貰いましょうか」

受話器の向こうで沈黙を続ける相手に、ほんの少し苛立ちを覚えて。
発する声に暗い紅色が混じるのを、はたる自身感じていた。


発端は一昨日。
あの襲撃で偶然能力者と分かった理紗も加え3人で話をしていた帰り道だった。
才色兼備の大和撫子と名高い理紗に武術の心得があった事に一真は酷く驚いていたが、
それと同時に彼女への疑惑が晴れた事もあり漸くダンスも楽しめるようになった模様。
……一真側の騒動はほぼ解決したというわけで。

「……え? 七宮寺本当に白のチャイナ着るの!?」
「はい! だって白が似合うって仰ったのは市川さんですよ? ね、マウさん?」

笑顔で問いかける理紗に、にぃ、と笑顔で頷くマウ。
そう、漸くマウの存在が公となった事も理紗にとっては嬉しい事らしい。

「当日はちゃんとエスコートなさいね一真君。カッコ悪い所晒したくもないでしょ?」
「ばっ!!? 何待ってはーちゃん俺がトチるの前提か!?」
「前提に決まってるじゃない。幼稚園の頃からの付き合いだもの予想は付くわ」
「ひ、酷ぇ……。なぁ、それはそうとはーちゃんの方はどうなんだよはーちゃんの」
「私の方はって?」
「パートナー。決まったっつー噂すら流れて来ないんですけど?」
「ああ、そういえばそんなものもあったかし―― ……っ?!!」

強烈な衝撃。
左肩に、腹部に、抉られたような激痛。
直後左腕が麻痺したように全く動かなくなる。
耐えられず地に崩れかけた身体を咄嗟に理紗が支えた。

「か、掛葉木さん!? 大丈夫ですか!?」
「……ええ、平気よ」
「いや全然平気じゃねーだろ、顔真っ白だぞ!!」
「……大丈夫よ、“本当に痛いのは私じゃない”から」
「私じゃ、って……まさか、いち……?」



「……一人の時ならいざ知らず何も知らない人が傍にいたの。
一真君は兎も角としても他の人への説明に物凄く苦労したのよ、分かる?」

激痛の原因は明白だ。
電話の向こうの相手が無茶苦茶な怪我をした、その一点に尽きる。
負傷個所は確実に、左肩と、腹部と、左腕。
痛みも麻痺の感覚も暫くして消えたが、それだけの怪我を本体が負った事に他ならない。

その日即座に相手を問い詰めようと携帯を握りしめたが……出来なかった。
携帯の番号を思い出せなかったのだ。
即座に登録してしまう向こうとは真逆で重要な番号程即座に暗記してしまう彼女だが、
1日中……他は思い出せても彼の番号だけぽっかりと記憶から消えてしまっていた。

――拒絶。
その理由を姉であるはたるはそう解釈した。
傷を負った事よりも周囲を断ち切る程甚大な何かが彼の心にあったせいだ、と。
次の日……昨日には難無く思い出せたが、敢えて今日まで接触せずにいた。
暗い紅色の感情が声に混じるのも、無理はなかった。

「鎌倉にいる以上戦いは茶飯事だし怪我をするのも仕方が無いわ。
だけれどね……けれど、どうして貴方の場合はそれが全て苛烈に過ぎるわけ?!」

……何度目だろう。
こんな風に、想う余りの言葉をぶつけるのは。

「……大きな戦いがあるなら教えてくれたっていいでしょう?
それを聞いた上でなら痛みを感じようがここまで心配する必要は無くなるのに……」

電話の向こうはずっと沈黙を守ったまま。

「……ねえ、いち。聞いてるわよね?」

『――そうやって“俺には何も言わないで死んだ”わけか』

……漸く聞こえた弟の声は、まるで氷点下から届いたかのように恐ろしく冷ややかだった。


『……本当に便利だよな、運命予報。
予報士が掴みさえすればどんな凄惨な未来も介入して塗り変えられる』

零度の声。
15年生きてきてさえ、この声を聞いた事など片手ですら余る。
……所謂マジ切れモードでなければここまで感情の無い声にはならない。
思わず通話終了のボタンを押しそうになるのを彼女は必死に堪えた。
この声で何を語られようと地獄の責め苦の方が何百倍とマシだと断言出来るだけに、
責め苦など軽く凌駕するだけの話題を向こうが用意しているとしか思えなかった。

『――8月28日。はたと俺の命日だ。
俺達だけじゃない、彩晴も、一真も、七宮寺さんて人も、講堂の中の人も皆死ぬ』

初めて感情の色が混じった。
……目を凝らさねば見えない程に薄く儚く、しかし清冽な青。

『冗談だとか思うなよ。……俺最初に何て言ったっけ?』


――そうやって“俺には何も言わないで死んだ”わけか。
――本当に便利だよな、運命予報。


「……ガセでは無さそうね」
『ガセどころか、運命予報士は宍矧首座連の人間だ。
この事を知ってるのは宗主と予報士のみ、尭矧だって知っちゃいないだろう。
……矧の者じゃなく銀誓館学園の能力者としてカタを付けろって解釈で俺は取った。
未来改変は俺達の手で成し遂げろってな。
犠牲者は既に出てる。其処に百人単位で増やすか否かは俺達次第だ』
「宍矧首座連……か。尚更ガセから遠くなったわ。……そういえば」

彼の言葉にひとつだけ違和感が。

「……何でいちが理紗さんの事知ってるの」
『一真から聞いた。――つまり全部筒抜け』
「……そう、なるほどね」
『だからって一真に報復考えたら例えはたでも蹴るぞ』
「蹴る通り越して心臓刺されそうだからしないわよ。……そうね。つまり、さ」

はたるの藍色の瞳の中に、ちらりと焔が揺れる。

「……私が下手を打ったって事なんだね。今回の事態は。
妙なゴースト騒動にいちを巻き込むのが嫌だから黙ってたらとんでもない真実が、って。
さっき彩(あや)君の名前があったって事は彩君まで巻き込んでしまった、と」
『彩晴は俺が巻き込んだんだろうさ。きっと断ってもひっ付いて来ただろうがな』
「確かに、ね。彩君の性格じゃ、はい待ってます行ってらっしゃいなんて言わないわ」
『……そんなの聞けたらこの世が終わる』

彼の声の色が、揺らぐ青の色味が少し濃さを増した。
その事に内心安堵しながらも、今彼に聞くべきは一つだと思い直して。


「――教えて。命日なんて願い下げの未来を変えるその方法を」
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