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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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――2009.08.21   KAMAKURA



『――教えて。命日なんて願い下げの未来を変えるその方法を』

……内心、物凄く助かったといちるは思った。
弟からの干渉を嫌う姉の首を必ず縦に振らせると仲間に言い切った割に、
さて実際どれだけの策を弄せば達成出来るかなんて殆ど考えてはいなかった。

……はたるからの説教に逆切れしてぶちまけて成功とは口が裂けても皆に言えやしない。


「……運命予報の未来視から先に言う。
8月28日の夜、付属中のグラウンド方向からゴーストの群れが来る。
俺達5人でグラウンドと講堂を繋ぐ狭い隙間に壁張って迎撃するも突破され講堂直撃。
……ゴースト蹂躙血塗れ舞踏会の開催さ。惨劇の死者は百人単位。勿論俺達も鬼籍の中。
分かっちゃいるだろうが襲撃後にゴーストが消滅したりなんて絶対無いからな。
犠牲者百人単位ってのは学院の敷地内のみだ、放っときゃそれ以上に膨れ上がるぜ?」

最後の一言は典杏も口にしなかった事だが、そうなる予想は付いている。
この規模の被害だと世界結界通せば軽く飛行機事故レベルか、とか想像しつつ。

「5人……いや5人とマウか、それでも10分持たなかった。俺と彩晴抜けば5分切る。
それだけの布陣が突っ込んでくるんだ。メインは妖獣が数十、リリスが数人、頭もリリス。
まあ多分、はた達が見た喧しい幼女が頭だろ。剣狼トラック突っ込ませる辺りな」
『……聞かなきゃ良かったって位の結末ね。本当に死と隣り合わせだわ』
「というか、現実問題そうなりかけたんだってばさ……本当に自覚してるんだろうな?
まあいい、ここからが本題。
……俺達は予報の未来視をそのままなぞって同じ迎撃手段を取る」

一度言葉を切る。……さて向こうはどう反応するか。

『……何の為の未来視かしら? 同じ方法取って何が楽しいのよ』

声音に紅色通り越して緋色が混じった。
……そう、普通はそう考える筈。だからこそ。

「さてね。俺は何度も言ってるぜ、運命予報だってな。つまり公式の要請って事さ」
『何が言いたいのよ』
「……未来改変に動くのは俺と彩晴だけじゃないんだよ。
というか俺達の存在の方がイレギュラーでね、実際予報士から依頼された人間とは別だ。
俺や彩晴は依頼を受けた本隊のサポート役兼、はた達のガーディアンってとこ。
本隊の力は俺が保証する。知り合いばかりだって事には驚いたが精鋭揃いだぜ?
俺達の壁にゴーストが激突してから挟撃するから最低数分持たせないといけないけどな」

……典杏の予報に集まった仲間を見た時からこの方針は決めていた。
それが生死すれすれの賭けかもしれなかろうと、端から恐れる必要なんて無い。

(「……まあ良く考えたら“賭”矧だからな、俺。多分そういう血の業なのかもしれない」)

「ただな、挟撃に走る本隊が居る事は一真達には言えない。
それを知ってるか知らないかで心理的な差が出る。……知らない方がいいんだ、今回は。
油断するとは言わないけど、知ってた上で挟撃が来ないとストレスも半端無いからさ」
『……なるほどね。いちが言う割に綿密じゃない』
「半分は宍矧典杏……予報士の手腕ってとこ。もう半分は仲間と決めた事さ。
とりあえず俺と彩晴は数日前には先にそっちに行く。色々準備したいし。
詠唱兵器の防具も必要だろ? 武器は持ってても防具が無きゃ生身に等しい」
『個人的には武器をどうにかしたいんだけど』
「……却下。3人とも俺と彩晴が使える武器に被ってないから無理」



それから幾らか話をして、いちるは電話を切った。
……途端に襲ってくる酷い倦怠感と、突き刺さるような肩の痛み。
背を預けていた大きな栗鼠の縫いぐるみから、ずるりと身体が傾ぐ。
左腕と肩を庇って右側に倒れ込んだ彼の額に冷たい濡れタオルが放り投げられる。

「まだ熱あるんやからちゃんと冷やしとき? つかホント何つー無茶しぃを」
「……しょうがない、だろ、こればかりは」
「身体起こしとんのが辛いなら寝たまま電話すりゃ良かったやろに」
「……声の方向からバレるに決まってるだろ」

包帯の巻かれた腕で額にタオルを当て、荒い息を吐く。
服の下で見えないが腕だけでなく肩や腹部にも包帯が巻かれ、絆創膏も多い。
幾ら5日でどんな傷も治るとはいえ、重傷は重傷なのだ。

「……で、彩晴……彩晴は、どうする?
説明2度するのは無茶苦茶面倒、だったから向こうの声、筒抜けさせておいたけど」
「ええいそういう理由かい、てっきり目の前に置いて楽な恰好のまま話す為かと。
――そりゃ勿論付いてくわな。誰が行ってらっしゃいなんて言うかっつの!
つか元々俺の死んでる姿も予報に出てたわけで己で捻じ曲げんでどーするん?」
「……死ぬかも、しれないんだぞ?」
「んな未来はゴースト共々漏れ無く根の国に御招待やよ。……つーかさぁ、いち」

氷水の中で泳いでいた2枚目のタオルを絞りながら彩晴が溜め息を吐く。

「はたちゃんの前であんなにカッコ良く啖呵切った同じ口が何故にそう弱気になるかね」
「……なったっていいだろ、弱気に」
「どーしたんよ一体、ココまで来ると流石に奇怪やで?」

「……奇怪、か」

その一言に滲む僅かな色を察したか、彩晴が手の中のタオルをいちるの目に載せる。

「とりあえず何も考えず90分寝とき。沈んで浮かぶまでの1サイクルやさかい。
その頃にもう一度ココ来とくから。ALDEBA-R-ANの新しいアルバム流しといたるさに」


ドアが閉まる音の向こうに去っていく静かな足音。

……寝起きにあのリズム崩壊CDは嫌がらせ以外の何物でも無いだろ、と口は動いた。

しかしそれが動きの通りの声として発される事は遂に無く。


その代わりか、目を隠すように当てられたタオルの下から一筋の雫が零れ落ちた。
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