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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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――元々此処で予告していたコラボ短編をば。

渕埼先輩後ろ様の連作SS、『The last curse in my blood【血と拳の呪縛】』。
話中での運命予報を担う運命予報士として当方NPC、堤典杏の出張依頼を戴いたので、
典杏が先輩宛に電話をする直前(時間軸として5話直前)を描いた短編SSを。

常識と非常識の狭間で戦っているのは能力者だけでは無く。
運命予報士もまた、彼等だけの戦いを懸命に。



題目は羅語、“天柱砕くるも義を枉(ま)ぐる事無かれ”。
……例え天が落ちようとも。例え抗体ゴースト達が跋扈し異形が蔓延ろうとも。






--------

「久し振り、典杏……の前に何か妙に顔色悪くないか?」
「……大丈夫ですよ、気のせいです」
「その顔の何処が大丈夫だ。理由が寝てない食べてないだったら怒るぞ」
「ちゃんと三食摂取してます8時間睡眠心掛けてます」
「……なるほど? じゃあ一寸運命予報ノート見せてみろ」
「幾ら先輩でもそれだけは拒否します」
「何度も狂気被ってそれでも真っ当に現実舞い戻ってる人間舐めんじゃねえぞ?
耐性の無い一般人ならまだしも俺を誰だと思ってるんだ諦めろ、絶叫も嘔吐もしねえよ」
「……何故自分の運命予報ノートがSAN値だだ下がりアイテムだと御存知なんですか先輩」
「今までの予報の方向性を鑑みれば想像はつく」

――本当に、人の仕草に何処までも聡い方です。

同じ学府の先輩であり一族の要役のひとりである眼前の存在を堤典杏は心中でそう評した。
彼自身のそれには余りにも疎いのに、他人のそれはた易く見破ってしまう。

「本当に大丈夫ですよ。先輩も最近の自分の予報の傾向を御存知でしょう?
野良モラだの倒すのが忍びなくなるようなふかもこ妖獣だのばかりじゃないですか」
「……典杏、『嵐の前の静けさ』って言葉知ってるか?」
「……そうSAN値と喧嘩売り買いするような予報ばかり視てるわけじゃありませんから」

――むしろそういった凄惨な類は大概予報の肝に貴方が絡んでます掛葉木先輩。
そう反射的に言い返したくなるのを典杏は何とか呑み込んだ。

典杏の言葉通り、事実少し前に泊まり掛けで野良モラ大捕獲作戦が開催されたばかり。
能力者の本分を果たすと共に多かれ少なかれ心癒される一時となったようだった。
……此処最近、神経を嫌でも尖らせねばならぬ事態が多発しているだけに。
神将や妖狐、ナイトメアビーストとの争いの決着が付き、ひとまず日本の平穏は続いている。
だが面倒な事に今度は緑スライムこと清廉騎士カリストの影が見え隠れしている昨今。
典杏の目の前に居る彼も数日前にフェンリルとの死闘を制し帰国したばかり。


「……そういえば」
「? 何か気になる点でも?」
「――典杏、正直な話はたの事苦手だろ?」
「……どうして突然そんな話に」
「横で見てて他人行儀の感が否めないから」

実際性格に難ありだと言われても弁明する余地無いしなあの姉は、と苦笑して。

「俺との態度の差が一寸気になっただけなんだけどさ」
「……多分、慣れの差だと思います」
「慣れ?」
「先輩と初めて御逢いしたのが一昨年の夏、陽主様とは去年の始め……その差数ヶ月。
そして先輩とは同じ銀誓館にいる者同士でそれなりに情報交換の機会がありましたが、
陽主様とは殆どそんな機会などありませんし、こう見えても自分は元々人見知りの気が。
まだ余り良く知らない方との会話がおぼつかないのは当然の事かと」
「……俺の事、最初は月主様呼びだったなそういえば」
「目上の方への礼を重んじるならば当然です。呼称ひとつとっても気は抜けませんよ。
ただ、先輩はあれこれと持ち上げられるのが余り好きでは無いでしょう……?」
「……それは、はたも同じだよ」

――傅かれるのは嫌いだ。

彼の眼鏡越しの黒い瞳が静かに窄まる。

「周囲の大人達に平伏され敬されってのが、当たり前。頭に立つ者として当然の権利。
そうやって受け入れられる精神構造に俺達が生まれてれば良かったんだろうが、な。
……残念ながら両方無理だった。互いの“惨状”から目を反らせなかった、とも言うか。
5歳で既に月主だった俺と、5歳にして陽主の全てを拒んだ姉。
世界の中で自分だけが見えない俺と、世界の中に自分しか見えない姉。
互いを触媒にして世界を掴んでいた以上互いに狂うわけにもいかなかった……ってところか」

漸く互いに自分だけでどうにかする術を会得し始めたか、
共依存とやらから互いに脱却し始めたのかは分からないがな、と溜め息を吐き。
……彼が“惨状”と表現した暁降の過去を典杏は知らない。
驚異的な記憶力の良さを買われ『矧』を支える首座連入りしたのは4年前、
更に運命予報の力に目覚め、措置として銀誓館学園へと編入したのは一昨年の春。
彼女が『矧』に本格的に関わり始めた時には、既に彼は鎌倉にいた。
故に最強の変革者と後に陰で渾名される彼の姿しか典杏は知らない。
こうして、彼がそれを語らぬ限り。

「俺だけ先に4年以上鎌倉にいたのは、結果的に良かった事だったのかもしれないよな。
抑圧で性格転換中だったとはいえ奥底まで変わってたとは思えない。
十二分に影響はあっただろうさ。抑圧壊れて又迷走してる感はあるが昔よりは相当マシだ。
……俺でこうなら、向こうにいたはたも同じだろうね」

ふたりでひとつではなく、ふたりでふたつ。
そう互いで分かっていても、根底では絡まり縺れる種々の糸。
幻痛しかり、過剰の心配しかり、両極端の二面性しかり。

「敬され畏れられは累積し過ぎて食傷気味だけど頼られる事に関してはむしろ喜ぶから、
はたに関しても変に気負いしないで俺と同じ扱いで構わないよ」
「……共通の話題が思い浮かばないのですが」
「今なら簡単だよ、勉強が進まないって泣き付けばいい」

浮かぶ、悪戯じみた笑み。

「既に夏来が舞踊との二足草鞋の限界を見て英語聞きに来てるしな。
まず典杏は俺達よりひとつ年齢が下だから聞ける相手は選り取りみどりだろ」

茅都先輩は和洋問わず歴史に強いし夏来は生物と地理が得手の筈、
物理と数学は彩晴がいるし古文なら俺でも構わないしさ、と。

「学生の本分の前には『矧』の立場なんて無意味だよ。
学園内にいる間くらい学生らしくいたいのは多分皆同じ、年上は使い倒せ。
……こういう時位は、な」


……本当に。
本当に何処までも本人以外の心の機微に聡い方です。
自身の事を何もかも後回しにして、他人の側ばかり見ていて。
今の自分のようにほんの少しでも陰りを見せると、即座に事態の打開を図ろうとする。
押し付けるわけでも恩着せがましく振る舞うわけでもなく、
ほんの少し背中を押すだけ、一歩踏み出す切片を与えてくれるだけ。
――その小さな力を生かすかは本人が決めるのだから、という立ち位置を乱す事無く。


「――では明日辺り泣きつきに。ただ自分の場合、英語は片親の伝手が……」
「……忘れてた、母親が外国の方だったんだよな典杏」
「別名ノーリャ・ジェンキンス・ツツミの日加ハーフです。他に陽主先輩の得手は?」
「確か現代文も。歴史系も俺よりは遙かにマシかと」
「何と。現代文が得意とは有り難い限りです」

文学作品はまだしも評論なんて全く分かりません、と眉根を寄せた典杏。
学業と予報士の両立も、学業と能力者の両立とさして変わりはしないだろう。

「……あの。それとですね、先輩」
「どうした?」
「期日は後程御連絡しますが……一緒に来て戴く事になるかもしれない場所があります」
「……『矧』絡みか?」
「……半分は、ですね。もう半分は、最早他人ではない知己絡みと言ったところですか」
「又穏やかじゃない話だ。……やっぱり何かあったんじゃないか」
「予報、という所まで行ってないんです。……まだ、夜に見る夢でしかないので」
「夢、か……透眞伯父さんなら予知夢になるとはいえ例外なんだよね。未来過ぎるから」
「自分に予知夢の才能はありませんから、夢で終わればいいのですが。
ただこれが本当に運命予報の域にまで踏み込んだら手遅れにもなり兼ねなくて」
「……期日が競ってる、とか?」
「そんなところです」
「なるほど、ね。――分かった、そうなったら直ぐ呼べ」
「ありがとうございます。そうならない事を、祈ります」

……祈りたかったのですけどね。

その一言を、言ってしまえば楽になれるのかもしれない一言を必死に呑み込んで。
言ってしまえば楽になれるのかもしれない相手を見送った。


悪夢は既に予報の断片へとすり替わり。
握りしめたノートの中には断片の走り書きが幾つも幾つも並んでいる。
彼にとて見せられないと頑なに拒んだ理由が、此処に。

取り出した携帯電話。
ひとつ深呼吸の後、ゆっくりとダイヤルする。


「……『宍矧典杏』としてではなく、『堤典杏』として……後悔、したくはありませんから」


耳元で響く呼び出しのコール音の中に紛れ込んだ囁き。





――運命予報士、堤典杏の憂いの先は何処へと。
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