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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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――2011.08.30




「それでは、小手調べと参りましょうか――行きなさい」

少女賢者が表情を変える事無く錫杖を無造作に一振りしたのを合図に、
侍る屍達がゆらりふらりと能力者達へ向けて歩き出す。
しかし彼我の距離は1手で狭まるようには見えず。
ならば、今すべき事は――最大戦力で死線に臨む準備。
蒼く輝く魔法陣がユエの眼前に描かれる。彼女の魔力を最大限に引き上げる魔弾の射手。
寅靖の身体に紅の虎縞が浮かび上がる。彼の攻防を最大限にまで活性化させる虎紋覚醒。
棚引く霧がいちるの姿を二重に眩ます。彼の回避と防御を最大限に補助する霧影分身術。

「――行けるか?」
「いつでも大丈夫だよ!」
「合わせます」
「もきゅ!」

確認も応答も多くは要らぬ、一時の寄せ集めならいざ知らず、
互いの得手も不得手も知り尽くした仲間の間に冗長な言葉など不要――!
地を蹴った寅靖の後ろ、黒き魔力の羽根を周囲に振り撒くユエの魔杖の先で赤い光が瞬く。

「邪魔するなら『賢者』ごと燃えちゃえっ!」

その言葉を合図に侍屍の頭上で炎を纏った隕石群が具現化され、
雨霰と降り注ぎ衝撃と魔炎とが周囲にばら撒かれる。
本棚をすり抜け駆ける寅靖のやや左前方、彼とは逆に本棚の上を飛び移るいちるの姿。

「狙いは3架先――いちる、その木の本棚だ!」
「――了解!」

二段程周囲より高い場所、木材で組まれた不安定な本棚の左へ降りたいちる。
その手が、側板に触れる。

「日月の元戻れずとも……せめて“荼毘(だび)”に」

躊躇は一瞬の更に半分。
いちるの全力の体当たりで、重量物がずり落ちるような音と共に叩き落とされる本棚。
それはふたりの狙いに違わず、ばらばらと本を散らしながら炎に巻かれる屍達の中央へ。
ほぼ同時に飛び込む寅靖の右腕がガントレットごと赤く揺らめき熱と光を放ったその瞬間。

目の前の本棚を、棚に詰まった数多の本を。
――散らばる本ごと、彼は、紅蓮撃で迷い無く“着火”した。

二重の炎撃。二重の魔炎。
侍屍のうち燃え盛る本棚に最も近かった1体はそのまま消し炭に変わり、
残りも火達磨でのたうち回っている。
引火した本からの火の粉が少女賢者にも降り掛かるものの、
気にも止めぬ表情で一閃した錫杖が存在ごと消去した。

「……それだけで終わったと思うなよ」

そう呟いたいちるが眼下へと放ったのは見慣れた水の刃ではなく――巻き起こる風。
ジェットウィンドを足止めでは無く延焼を誘発する手段として打ち込んだのだ。
炎の中で熱を無尽蔵に孕んだ上昇気流に抗える筈も無く、
半ば熱波とも熱竜巻とも言える風の中で更に1体の侍屍が塵と化した。
既に一度死した故に残る筈無き本能が告げたか、
最後の1体が己を焼き焦がす炎を消そうと洞内を流れる水に身を踊らせる、が。

――待ってましたとばかりにユエの魔杖から迸るは蒼白く存在を誇示する天雷!

通常ならば例え雷の異能を以てしても電気のように水中の対象を感電させる事は不可能だ。
だが……この抗体空間内では可能なのだ。
常識に真っ向から反旗を翻す存在である抗体地縛霊が生み出したにもかかわらず、
しかし最も優先されるのは相容れぬ筈の常識。
着火された本棚を赤々と染め燃やし尽くす勢いの魔炎が未だ消えぬのと同じように、
水中へと天から稲妻が落ちるが如く、雷の異能を打ち込めば――!

バチリ、と音響かせ蒼白い稲光が水面を鮮やかに彩る。
既に水中を漂っていたが為に逃げ場など在ろう筈が無くそのまま強かに感電し、
弾き出されるように飛び出たそれに追い打ちをかけるモルモのモラスパーク。
結果的に火責め水責め雷責めの三重苦を被った最後の侍屍は漸く在るべき処へと還った。

「……小手調べの必要もありませんでしたか」

魔炎の壁から奇襲する形となった寅靖のガントレットから伸びる刃の鎖。
それを紙一重で弾き返した抗体地縛霊は、しかし表情を変えぬまま。

「まあこの程度で屈して戴く訳にも参りませんが。至上の素体たる矜持を見せて戴かねば」

此方とてどんな構成物に生まれ変わって戴くか思案の必要がございますから、と嘯き。
そして彼女は傍の本棚から、一冊の本を抜き取った。
……赤黒い染料で無理矢理染めたかのような革で装丁された、文庫本を。

多分、あの文庫本も。
黒か茶か白か染色済みか……そんな細く固い繊維質が混じった上に灰白の粉を吹く紙で。
赤黒さに灰色が混じった……不快感を際限無く呼び起こすような色のインキが用いられ。
興味本位で開いてしまった者を徹底的に後悔させるような代物であろう事は、明らかで。
……如何にしてこんな本が生まれたのかなど、今は決して考えてはならぬ。
戦闘継続に不必要な事象などに思い巡らせ心を痛める暇など一瞬たりとも無い筈だ。

――抗体空間内に張り巡らされた死線を越える覚悟が、本当にあるのならば。

「初手としてはこの辺が手頃でしょうか。――さあ、“訴えなさい”」

……不穏な予感しか湧き出てこないような宣告を宣った『賢者』。

刹那。

この世のものとは思えない声量で“絶叫した”。
身も捩れんばかりに“慟哭した”。
背筋を凍らせるような怨恨を“吐き出した”。

――少女賢者の手の中の、文庫本が。

そして。
負の感情全てを文字通り放出した文庫本は。
その形を保てなくなったのか瞬く間に姿を変えた。
……人体構成物全てがミキサーに掛けられたようなおぞましき流動体と化して零れる。
生々しい音を立てて地に降り注ぎ……ぐずりぶくりと崩壊して消えた。

だが本当の驚異は、形無き奪命と侵食の波動。
耳を塞ごうとも。瞼を閉じようとも。
直接心身を揺さぶり、生命を毟り取り奪い去る幻覚。
……いや、幻覚でない証拠はあった。
ただ一声を被っただけなのに、膝が支えられぬと笑っている。

「……なんなの、これっ……モルモ、大丈夫……!?」
「もきゅきゅー!」

ぐらつく頭を支えながらユエが隣の相棒に問えば、まだ大丈夫だと鳴くモーラットヒーロー。
影響を殆ど受けていないようなその様子から、
幸運にもあの攻撃を避ける事が出来たのかもしれないが。
だが、万が一モルモよりも体力の無い自分が深手を被れば……。
最悪相棒諸共戦闘継続が不可能になってしまう。
使役ゴーストと共に在り、彼等の力を最大限にまで発揮させる代償は、
――共に立つ使役者自身の生命力そのもの。
だが、そうであっても。
前に立つ仲間を此処で支え、最後まで戦い続けるのだという決意を新たに、
抗体地縛霊をキッと見据える。

こんな所でひとり倒れてなんかいられない。
背中は守ると、決めたのだから。

「……絶対に、負けたりなんかしないんだから」

一方。

「……ほら、一読は奨めないってあれだけ、念を、押したのに」
「……そんな軽口が叩けるのなら、まだ大丈夫だと判断しても、いいんだな?」
「多分、ね。……久々に血も吐いてますけど」
「全然大丈夫じゃ無いじゃないか。――ユエの前で倒れる失態だけは犯すなよ」
「……だ、れ、が……っ!!」

冷や汗か脂汗か分からぬ雫を鬼面の下から幾つも地に滴らせる寅靖。
口元を拭った手の甲に言葉通り緋色がこびりついたままのいちる。
張り詰めた緊張感は開戦時から保たれたまま。
少女の攻撃による肉体的な影響は兎も角、精神的には充分戦線維持が可能な様子で。
だが傷は浅いのか重体なのか判断に本気で困る遣り取りを交わす前衛の青年達に、
しかしほぼ同時に彼等の脳裏に過ぎる更なる懸念。
この苛烈な攻撃は抗体地縛霊のもの。
だが彼女並に危険な――抗体空間の効果が発動を開始するまでの猶予は殆ど無い。
既に能力者達も、少女賢者も、2手を費やした後。
ならば、もう――。

突如、鍾乳洞内に拡散した金属音。
一切の予告も無いままで動き出した裁断機。
その甲高く耳をつんざくような大音量が空間内全ての存在に刃となって襲いかかる。

……まるでその身を差し出せと、刻ませろと傲慢な要求を突きつけるかの如く。

瞬く間に喰われていく。
容赦の欠片も無く刻まれていく。
抗えぬままに生命の根源が、かっきりと半分まで。

「いちる兄ちゃん、寅靖兄ちゃん!?」

先程の攻撃が幸いしたか抗体空間に奪われた生命力が少しで済んだユエが、
その視線の先、明らかに体勢を崩した前衛達に呼びかける。

「……大丈夫だ、ユエ。心配は要らない。……ここからだ!」
「……平気だよ。既に『賢者』に半分以上持ってかれてたから」
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